第43話 武蔵と小次郎


 二人の戦士を従え、両の手首にロード証(リング)をはめたその男は言う。


「ここが早瀬直人の家だ、いくぞ、武蔵(むさし)、小次郎(こじろう)」



「!!?」

「!!?」


 突然襲い掛かってくる二つの巨大な闘気に直人はすぐ横においてある刀を抜き、誾千代は武装化して庭の中央に跳ぶ、間髪いれず三つの気配が目の前に現れ月明かりが彼らを照らし出す。


 一人は白と青を基調とした清爽感のある着物に身を包み、背中には長刀を挿している長身の侍。


 その横には長刀の男よりもさらに背が高く肩幅が広い、袖の無い着物のため、太く発達した強靭な筋肉が見える。着物は長刀の男とは対照的に黒と赤を基調とした荒々しい雰囲気をかもしだす。刀は左の腰にかなり大きめの物と普通の大きさの二本を挿している。


 そしてその二人の後ろにフードのついた上着を着た男が立っており、その男の両手首にはそれぞれ腕輪がはめられている。


「お前・・・まさか・・・・」


 直人の顔から血の気が引く。

 この忠勝にも劣らない覇気、一人は長刀、一人は二本の刀、名乗られなくても一目で分かる、いくらなんでもこの二人はヤバ過ぎる。


 勝てる勝てないの次元ではない、誾千代と自分が完全な体調で二人掛かりならば勝てるかもしれないという希望を持っていたがいくらなんでもこの二人を同時に相手というのはあってはいけない状況だ。



 それでもフードの男は容赦なく自分の家臣(スレイヴ)に命令を下した。


「行け!宮本武蔵!佐々木小次郎!あの二人を斬り殺せ!!」


 二体の剣神は限りなくゼロに近い時間で距離を詰めると同時にその刃を誾千代に向けて振る、刀を抜くという動作は移動の最中に終了していたのだ。だが刀は誾千代には届かない、誾千代が武蔵の攻撃を防いだと同時に直人の刀が小次郎の攻撃を防いだのだ。


 その事実に小次郎と武蔵、それにフードの男を含めた三人は驚きを隠せない、過去の戦士(スレイヴ)の中でも最高レベルの戦士、日本人ならば誰もが知る日本史上最強の二大剣豪の一撃を現代人が受け止めた。その事実に驚かないわけが無い。


「誾千代、小次郎は俺に任せろ、お前は武蔵を頼む!」

「ああ、死ぬなよ直人!」

「お前もな!」


 神弥家の庭に五本の刀がぶつかり合う音が溢れ、誾千代たちは斬りあい、その中で直人はフードの男に問い掛ける。


「お前、なんでロードの証(リング)を二つも持っているんだ!?」


 フードの男はそれに余裕をのせた声で応える。


「僕と武蔵、それに小次郎の魂の属性がまったく同じだった、ただそれだけだ、家臣(スレイヴ)は一人だけなんてルールはないからな・・・・それよりも、僕と話すことに気がいっていると・・・」


 視界の小次郎が姿を消す。小次郎は直人の意識が自分の主(ロード)に向いている隙に一瞬で直人の後ろに回り込み彼の首を斬り落とすつもり・・・・だったのに。


「なっ・・・・!!?」


 小次郎の刀はまたも止められた。確かに所詮は現代人と思い、本気で打ち込んだわけではないがそれでも反応が速すぎる。


 今のは確実に小次郎が刀を振るのとほぼ同時に直人のは自分の首を防御した。


 それ以前になぜ後ろ向きのまま直人は自分の攻撃に反応できたのか、気配で後ろにいることがわかったとしても何処を狙っているかまでわかるものだろうか、そう、まるで後ろの映像が見えているように、まるで相手の次の攻撃が見えているように、直人は小次郎の動きに敏感に反応し続けた。

 

 直人は防御で手一杯といった具合だがこのままでは直人に決定的なダメージを与えられない、それを心の中で認めると小次郎は少し距離を取って刀を構えなおす。


「やりますね、現代の戦士でこれだけの実力を身につけるとは、尊敬に値します。ですが、これで終わりです」


 小次郎の涼やかな声が終わると小次郎の発する気が変わる。

 その場の空気が冷たく、ピンとはりつめたような感じだ。

 小次郎の周りの空気だけ圧縮されたようにも感じる。

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