第46話 殺意の人型
家に帰るとルイスとジャンヌはすでに帰ってきており茶の間でお茶を飲んでいた。
「直人君、実は大事な話がありまして・・・・・左の頬、どうしたんですか?腫れてますよ」
直人は晶の鉄拳をくらった左の頬を手で隠し苦笑いを浮かべながらたいしたことはないと誤魔化した。
ならいいのですがとルイスは再び話し始める。
「実はエドワード達の正確な人数が判明しました。それでその数というのが・・・・・」
ルイスは少しの間を空けて口を開く。
「五十二人だそうです・・・」
「・・・・こっちの人数は?」
「半蔵さんは腕輪の適合者(ロード)が見つかるかわからないので数えないとして、円卓の騎士十三人にジャンヌと誾千代さん、それに義経さんを含めた十六人、人数は敵の三分の一です・・・・・」
直人と誾千代は驚き目を大きく開かせ、ルイスは続けた。
「晶さんにはボクから伝えておきます。それと・・・・・今ならまだやめられますよ・・・・・イギリスへ出発するのはゴールデンウィーク最初の日、飛行機のチケットは用意しておきますから、詳しいことは紙に書いておきました。敵の数は三倍、それでも一緒に戦ってくれるのなら空港に来てください、それまでボク達はホテルで暮らしますから、じっくりと考えてください、では、ボク達はこれで・・・・・・」
メモ用紙をテーブルに置くとルイスとジャンヌは立ち上がり荷物をまとめるために自室へ向かう、誾千代の横を通り過ぎる瞬間、ジャンヌが背を向けたまま言う。
「恐いならこなくていいぞ」
その数秒後、誾千代も背を向けたまま、力のこもった声で言った。
「待っていろ、五月一日、必ず行く」
二日後の日曜日、直人達は半蔵の腕輪の適合者、水島飛鶴を探すため、愛刀の連夜を布袋にいれて携帯し街まで来ている。
人の多いところでこの戦いの事を説明して騒がれたら面倒な上に学校が終わるとすぐに帰ってしまうからであるが、そもそも彼女は素行が悪く、学校は休むことが多く、登校してもするに早退してしまうらしい。
彼女の友人の望月から休みの日はよくこの辺りで遊んでいるという情報を自然に聞き出せたがさすがにそれだけの情報だけで見つけるのは難しい。
望月から電話番号や住所をきくことはできるが直人が言える理由などせいぜい変質者事件について何か知っていると聞いたからという、やじうまのようなものぐらい、それだけで電話番号や住所を聞くのは不自然すぎる。
今はリチャードの残した爪跡から少し離れた喫茶店の二階で直人と誾千代は注文したケーキを待ちながら飛鶴について話している。
店の中は客でいっぱいだが、リチャードのことは爆弾テロということで処理されているため、その跡を見ようと集まっている暇人がほとんどだ。
「見つからないなー、飛鶴も壊れた建物を見にこの辺にいると思ったんだけど・・・・」
直人が頭を悩ませていると誾千代が一言。
「ところで直人、なぜこのような店に入る必要があるんだ?」
突然の質問に直人の心臓が跳ね上がった。
少し休むという名目だったがもちろん直人にそんな気はなくただ誾千代と普通のカップルのように過ごしてみたかったという誾千代が聞いたら怒りそうな理由である。
直人は慌て、まくしたてるように喋りだす。
「いやほら、なんて言うか体は疲れてないかもしれけど精神的っていうか一息いれたほうがいいっていうかどこを探せばいいか相談する場所が必要っていうか・・・・その・・・・つうかリチャードと戦っている時に俺言ったじゃん、だからたまにはこういうのも・・・・」
「言った?何をだ?」
直人は顔を赤くし、はにかむ。
「だから・・・・お前が、大切だって・・・・」
それを聞くと誾千代ははっとし首を縦に振る。
「ああ、あれか」
「そうそう、言ったろ?」
「ああ、直人、あの言葉は嬉しかったぞ、主にこんなにも大切に思われて、私は本当に幸せな家臣だ。直人、あなたは最高の主だ。必ずや私が守りきって見せよう」
直人の時間が止まること二秒、直人は震える声で問い掛ける。
「あ・・・・あの・・・誾千代さん?もしかして何か・・・・勘違いっていうか・・・・・その・・・」
「んっ?あれは違う意味だったのか?・・・・・ああそうか」
やっと誾千代が自分の気持ちに気付いてくれたと直人が内心喜ぶと誾千代は。
「悪かった、そういえば直人は私とは同格で仲間だと言ってくれていたな、すまない直人、あなたは最高の仲間だ、これからも共に戦いぬこう」
直人はあまりの落胆にテーブルにつっぷしどうしたのかと聞く誾千代になんでもないと力なく応えた。
するとウエイトレスが頼んだケーキを誾千代の前に置く。
これはなんだと聞く誾千代に直人は洋菓子だと説明し、誾千代は一口食べる。
途端、クレープの時と同様、顔が緩み、十五歳の女の子らしい表情になる。
直人は誾千代のケーキをおいしそうに食べる様子があまりにかわいかったので見惚れ、あせらずじっくりいけばいいととてつもないポジティブ思考を発揮、その途端に携帯電話が振動する。
「はい・・・・・ルイス、えっ、今?飛鶴を探しに街に来てるんだけど今は喫茶店で誾千代とケーキ食べてる」
「ケーキ?やっぱり女の子ってケーキ好きなんだね」
カチャン
超人(スレイヴ)の五感は鋭い、だから電話から漏れるルイスの声も鮮明に聞こえた。
直人がなんてことを言うんだと思うのと同時に誾千代はスプーンを落とし、たいらげてしまったケーキの皿を見ながら味を思い出すと名残惜しそうに呟いた。
「もう・・・・・ケーキは食わん」
直人は肩を落としルイスの話を聞き終わると携帯電話を閉じた。
「なんの用だったんだ?」
「新しい仲間を一人見つけたってさ、俺達も早く飛鶴見つけなきゃな」
二人は席を立ち、レジで清算していると隣のレジで順番を待っている男が携帯電話で誰かと話している声が聞こえる。
「いやホント最近ついてねえんだよ、廃ビルの横に車を停めておいたらビルが壊れて破片の下敷きになるし新車なんて店に突っ込んでたんだぞ、ったく、爆弾テロだがなんだかしらないけど橋の上と道路脇に停めておいたの含めるとこれで四台目だぜ、勘弁して欲しいぜ、今?今乗ってるのはデパートの地下に止めてあるけど、さすがに五台目はないだろ、おう、青いやつだ、今度見にこいよ、じゃあな」
二人は顔を見合わせ固まる、間違いない、今まで自分達が戦いに巻き込んできた車の持ち主である。
直人はお釣りを受け取ると慌てて店を出ようとし、誾千代もそれに続いたその瞬間、二人の第六感がスレイヴの気配を感じ取る。
二人の目は同時に見開かれ直人は布袋の中の刀に手を伸ばす。
店内に新しい客が入ってくる。
その男は階段のすぐ近くの席に腰を降ろす。
背は高く一八〇センチほどに見える。だが一番の特徴は彼の顔にあった。
するとガラの悪そうな男達がその男を取り囲む。
「へー、かっこいいじゃん、その眼帯、ちょっと貸してくれよ」
チンピラは男の右目の眼帯に手を伸ばす。その途端、眼帯の男はチンピラの腕をつかみ立ち上がる。
よほど強い力でつかまれているのかチンピラは泣き叫びながらわめき散らす。
眼帯の男はチンピラをガラス張りの壁にまで連れてくる。周りの客とチンピラの仲間が泣き叫ぶ男を心配そうに見ていると次の瞬間。
ガシャン
投げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます