第37話 モンスター

「・・・晶さん・・・・ボク達、完全に忘れられてますね・・・・」

「・・・・そうだな・・・・・」

「・・・・晶さん?」


 晶の声はいつのまにか力を失っている。そして戦いに巻き込まれてはいないかと晶の身を案じ、戻ってきた義経が彼女に声をかけようとするが晶はくるりとうしろを振り返り、義経に背中を向ける。


「あたしだけだったんだよ・・・命をかけてくれたのも、お前が大切って言ってくれたも・・・・あたしだけだと思ってたんだけどなぁ・・・・・・」


 そう言う晶の背中はあまりに小さく、そしてガラスのごとく脆(もろ)そうに見える。義経がなんと言えばいいか迷っていると晶が振り返り顔をこちらに見せる。


 その顔は笑っていた。見ればあれほど弱々しかった彼女の空気も明るく、力を取り戻している。


「まいったね、最近出てきたばかりの女と並ばれちゃうなんて」


 その言葉に義経は疑問の声をあげる。


「・・・・あの・・・・晶・・・・並ぶって・・・・?」

「だって直人、あたしにもお前が大事だって言ってくれたことあったんだぞ、小学生の時だけど、まあ誾千代が直人と一緒に戦っているってわかった時は冷や汗もんだったけどこれからはあたし達だって一緒なんだからまだまだ直人をぶんどれるって・・・・・でも・・・・・・」


 晶は義経に近づき彼の顔を見上げ、申し訳なさそうに言う。


「あんたの作戦を駄目にしちゃったのは悪かったよ・・・・・」


 その言葉に不意をつかれ義経は一瞬言葉を失うがすぐに優しい言葉をかける。


「いいえ、あなたの性格を考えればあの少年に嘘をつけないのは予想できますし、敵にバラすのは困りますが彼らとは仲間になるのでしょう?でしたら問題はありません、あと、わたしは応援しますよ、あなたの恋を・・・・」


 すると晶は頬を赤く染め、嬉しそうにはにかみながら義経の腹を強く殴った。


「・・・ばっ・・・・・ばかやろう!家臣(スレイヴ)だったらそれぐらい当然だろ!!」

「・・・ぐあっ・・・・!!?」

 晶の拳はリチャードとの戦いでついた傷口にクリーンヒット、義経は腹と口から血

を流しながら倒れ伏す。


「ちょっ・・・・義経、大丈夫!!?」

「晶さん・・・・とりあえず直人の家へ運びましょう、義経さん、どうか死なないで下さい!」


 晶とルイスが慌てて義経に呼びかけ直人の家まで運ぼうとするとジャンヌは言った。


「私の神力で治したほうが速いのでは?」


 ルイスはジャンヌに感心し晶は主(ロード)なのに忘れていたのかとルイスを殴った。






 直人達の戦いを見ていたのは綾人達だけではない、直人達の横にそびえ立つデパートの窓、そこから直人のクラスメイト、望月忍(もちづきしのぶ)がうれしそうに笑っている。


「へえ、なおちゃんつよーい、ふふ、あたしも協力してあげよっかな、ねえ、ユッキ―」


 忍の後に立つ青年が応える。


「それは構わないけど、僕の名前は真田幸村であってユッキーじゃ・・・」

「いいからいいから、でもその前に・・・・あっちの子をなんとかしないとね・・・・」


 忍の視線の先にあるビルの屋上には小学生くらいの少女が戦いの様子を眺めていた。

 眼は大きく、絹のように美しい黒髪を腰まで伸ばし、奇妙な妖艶(ようえん)さを持った不思議な少女だ、その後ろで屋上へのドアが開く音がする。


 入ってきたのは二十代後半と思われるガラの悪そうな男と戦国時代の甲冑に身につけ、右手に槍を持った男の二人組みだった。


「おい、その腕輪、てめえロードだろ?スレイヴも連れずに出歩くなんて無用心だな・・・」


 少女は怪しげな笑みと誘うような声を男に向けた。


「あら、スレイヴならちゃんといるわよ・・・・」


 そんな奴どこにいると男が言おうとすると男の周りだけだ暗くなり、上から透明な液体が降ってきて男の髪につく。


 二人が雨かと思って上を見るとそこには雲ではなく巨大な口がある。途端に二本の太い腕が蛇のような動きで鎧の男に掴(つか)みかかる。

 その手についている五本の指にはそれぞれナイフのように鋭く長い爪が生えているうえにその腕は常識では考えられないほどに太く長いため、影だけを見ると人間が二体の大蛇に襲われているようにも見える。


 鎧の男が持っている槍で頭の上にある巨大な口を突くとそれは槍の刃を噛み砕き、そのまま槍をむしゃむしゃと食べ尽くす。


 そしてその大蛇のような腕を持った本体がゆっくりと降りてくる。それは巨大な口を広げ、男を頭から鎧ごとかぶり付き、もう一人の男は腰を抜かし恐怖に怯える。


「・・・そっ・・・そんな、勝家が・・・柴田勝家(しばたかついえ)が・・・・・ばっ・・・化物だあぁぁ!!」


 バキバキ メキ グチャ ビチャビチャ   ゴクン


 スレイヴ一人を丸ごと食べたそれはまだ足りないのか大蛇のような腕を動かし、もう一人の男を口に運ぶ、男はアゴがはずれんばかりに叫び、命を絶った。


「ふふ、お腹いっぱいになった?」


 少女がそう言うとその化物は少女のもとへ歩み寄り、彼女の白く細い首筋を舐(な)め回す。


「うふふ、本当に強いのね、史上最強の称号はあなたの物よ、あなたならあの武蔵や小次郎、いいえ、アーサー王やソロモン王にだって勝てるわ」

 そう言って少女は化物の頭を撫(な)で、怪しげな笑い声を発し続けた。

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