第33話 いくよ義経!
人をバカにしたような男の声に三人の視線が庭に集まる。すると塀の上に全身を赤い、西洋の甲冑に包んだ二メートル近い白人の男がしゃがんで座っている。赤茶色の髪は後ろへ突き出し眼は大きく、こちらを捕らえて離さない。そして男は立ち上がり意気揚揚(いきようよう)と言い放つ。
「獅子の心を・・・」
そこまで言うと男は辺りを見回し、他に誰もいないのを確認すると。
「駄目だ、ここじゃ気分がでねえ、場所かえるから、着いてきな」
そう言って男は大きく跳躍すると塀の外へと出て行った。
直人達は立ち上がると急いで男を追うがまだ回復しきっていないジャンヌはルイスに肩を貸してもらい、少し遅れながら直人と誾千代の後を追う。
男は家の屋根を跳躍しながら移動し、直人達が追いかけてこれるようわざと目立つように高く飛んでいる。やがて街に着くと辺りを見回し、人がたくさんいることを確認すると満足そうに笑う、直人と誾千代がその場に着いたことを確認すると近くの車をつかみ、無造作に投げ飛ばす。車は近くのファーストフード店の入り口に直撃し、店内にまで車が入り爆発する。人々の悲鳴が聞こえ、辺りの人達は逃げ出した。
逃げ惑う人々の中、直人達を見る一組の男女がいる、現代の服を来た源氏の英雄源義経とその主(ロード)、晶(あきら)だ。
「・・・・直人!?あいつあんなところで何やってんの!?」
「敵は異国の者のようですね、なぜ日本に・・・・?」
義経は眼に霊力を集め、鬼道を使い誾千代を見る。
すると心配そうな声質で誾千代の体調を晶に説明する。
「誾千代殿の体調であの異人に勝つのは不可能です。よほど強い敵と戦い続けたのでしょう。全身傷だらけのうえに体力的にも限界です、彼女はここで消えるでしょう・・・・」
それを聞くと晶はうつむき何も言わなくなる。
誾千代が消える。それが晶の頭によぎった。直人から直接聞いたわけではない、なんの証拠も確証もないしまだ告白はしていないだろう・・・・でも、きっと直人は誾千代のことが好きだ。
中学生になってから直人は晶と接する時間が極端に短くなった。それでも今まではまだ安心できた。直人は元々女の子に強い興味は抱いていなかったし女の子を避けるならそれは他の女の子だって同じ、少なくとも直人に一番近くにいるのが自分だという事実は変わらない。
なのに誾千代が現れてから直人は恐ろしい勢いで自分から離れてしまった。
自分よりもずっと強く、そして美しい彼女は直人と寝食を共にし、直人を守るために血を流し戦いぬく、直人がそんな誾千代(かのじょ)を好きにならないわけがない、直人は自分に恋愛感情を抱いてくれていたわけではないがそれでも一番の友達だと言ってくれた。幼い頃から自分に優しく、そして大切にしてくれて、困った時は必ず力になってくれた。好きな女の子がいない直人の心は間違いなく自分に向けられていたはずだった。でも直人の気持ちはもう誾千代にいってしまっているに違いない、この史上最強を決める戦いが進めばいずれ取り返しがつかなくなり、直人は二度と自分を見てくれなくなる。
でも今なら、今誾千代がいなくなれば、もしかしたら自分の元へ戻ってきてくれるかもしれない、しかし晶はそう考えた途端、それでいいのか?と自問する。
自分じゃ誾千代に勝てない、しかし誾千代がいなくなれば直人は自分のものになる、でも直人はそれを望まないだろう、この場を見過ごしていいのだろうか?ロードの自分を責めず、それどころか義経を倒して自分を解放してやると、全部自分に任せろと優しく言ってくれた直人を悲しませてでも自分が幸せになってそれでいいのか?
違う、そんなのは駄目だ。本当に正しい道は、直人が悲しまずに済む道は、直人が望む道、自分が望む道、そうだこんなのは自分らしくない、直人が見てくれていた自分らしく、そんな道は一つしかない。
「・・・あの・・・晶、大丈夫ですか?」
義経が心配そうに呼びかけると晶は切なそうな表情を直人と一緒にいる時の明るく元気に満ち溢れたものにし、顔を上げ言い放つ。
「いくよ!義経!」
そう言って走り出す晶の後を義経が追いかける。
「ちょっと待ってください、彼らを助けたら作戦が・・・・」
晶の後ろで義経の声が空しく虚空に掻き消える。
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