第32話 八英雄


「どういうことか説明してくれないか?」


 直人が聞くとルイスは袖で涙を拭う。


「待ってください、どうやら傷が深すぎて神力が生命維持で精一杯のようです。すみませんがジャンヌの手当てをさせてくれませんか?」


 直人は少し考えると二人を茶の間に上げた。直人の家は剣道場、幸い治療道具は豊富にあり、傷薬と包帯を二人に渡す。


 ジャンヌの治療には鎧と服を脱がす必要があったので直人は隣の部屋で待っていたがルイスの行動は誾千代に見張らせているので問題は無い。


 待っている間、直人は本当に頼みがあってきたのかと心の片隅で心配するがしばらくすると茶の間からルイスの声が聞こえ、直人は茶の間に戻る。


 ジャンヌを横に寝かせ、直人達がテーブル越しに座るとルイスは語り始める。


「さきほどは申し訳ありませんでした。ただあなた達の力を見たかったので、それでは単刀直入に申し上げます。我々と組んでいただけませんか?」


 直人と誾千代が疑いの目を向けながら理由を聞くとルイスは順を追って説明する。


 彼の話では西洋の騎士たちが同盟を結び合い、あのイギリスの王、エドワード黒大使を中心として自分達に敵対するスレイヴを次々に倒しているというものだった。そのためジャンヌ達もそれに対抗するための仲間を集めるために日本へ来たらしい。


 それを聞くと直人は眉間にしわをよせて言う。


「だったらお前らもそいつらの仲間になればいいだろ?」


「いえ、こういう言い方は好きではないのですが、その集まっているスレイヴ達というのが、いずれも生き返ったらその超人的な力を現代で悪用しようとする者達ばかりなので」


「ようするに、悪い奴らってことか?」


「ええ、この戦いで優勝し現代に生き返るのは我々の力を悪用しない者でなければなりません、そのため我々は八英雄の一人であるアーサー王をリーダーとし、心の正しいスレイヴのチームを作り、悪質なスレイヴ達だけを倒した上でこの戦いを始めようというわけです」


「八英雄?」


 直人がやや身を乗り出して聞く。


「ええ、日本と違い、陸続きの海外ではスレイヴ同士で情報交換などが行われているのですが、その中で自然とそう呼ばれるようになったスレイヴ達のことです。体の三分の二が神で出来た人類最古の英雄王ギルガメッシュとそのライバルにして神の作り出した超戦士エンキドゥ、七十二体の魔王を封印した封印王ソロモン、世界の果てまで征服し尽くしあらゆる異世界を旅して周った征服王アレクサンドロス、太陽神ラーの化身こと太陽王アメンホテプ、草薙の剣を持ち神々を打ち倒した超英雄大和(やまと)武尊(たけるのみこと)、あのイエス・キリストの処刑を行った神殺しロンギヌス、そしてボク達のリーダーである、聖剣エクスカリバーの所有者、騎士王アーサーです」


 それを聞いた直人はあまりの衝撃に顔を引きつらせながら言う。


「・・・なんか・・・錚錚(そうそう)たるメンバーっていうかほんとに勝てるのか?」


「それは大丈夫です、今言ったようにこちらにはアーサーさんがいますし彼は生き返るつもりはないらしいので、誾千代さんが生き返る可能性も十分にあります。もちろんボクもジャンヌを生き返らせたいので、この戦いが終わればその時はもう一度全力で戦わせてもらいます」


 直人とルイスの間に一瞬だけ鋭い空気が生まれるが誾千代は冷静に質問する。


「まあ、その八英雄やエドワード達に対抗するために仲間を集めるのはわかったが何故わざわざ日本に?」


「はい、実はフランスで日本の資料を読んだのですが、その時に武士道というものを見つけて、日本のスレイヴにはきっとすばらしい人が多いのだと思ったんです・・・」


 誾千代がルイスたちを信じていいのか頭を悩ませていると直人はあっさりと同盟を了承し、誾千代は直人に信じるのかと聞くと直人は。


「いや、なんて言うかさ、昔から相手が嘘を言っているかどうかわかる時があるんだよ、そしたら今ちょうどこいつらが本当のことを言っているような気がして・・・それにもしそいつらが日本に攻めてきたときのことを考えれば俺たちも誰かと同盟を結んだ方がいいし、こういうバトルロワイアルはチームを組むのが上策だし、誾千代は反対か?」


 誾千代は直人の、嘘がわかる、という言葉に妙な感覚を覚えるが主(ロード)である直人がそういうならと納得し、ルイスは土下座の姿勢になり礼を言う。


「このポーズが日本では礼の最上級だと聞きました。我々に力を貸してくれる事を心から感謝いたします」


 直人と誾千代が気にするなと言うとその空間を引き裂くように。


「へえー、てめえら仲間になんのか」


 人をバカにしたような男の声に三人の視線が庭に集まる。すると塀の上に全身を赤い、西洋の甲冑に包んだ二メートル近い白人の男がしゃがんで座っている。赤茶色の髪は後ろへ突き出し眼は大きく、こちらを捕らえて離さない。そして男は立ち上がり意気揚揚(いきようよう)と言い放つ。

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