第28話 最強の条件



 道場で直人は練習用の木製人形相手に木刀の打ち込み練習をしながら己の未熟さを悔やむ。自分は何を勘違いしていたのだろう、どんなに気丈に振る舞おうと、どんなに強かろうと誾千代はどこにでもいるただの女の子なのだ、人は完璧ではない、誾千代も弱い部分があるし一人で泣きたい時だってあるだろう。


 だからこそ今まで以上に強く思った。自分も戦おうと、誾千代一人でキツイなら自分も一緒に戦い、誾千代の負担を減らそう、そうでなければパートナーの意味がない。


 直人は誾千代の為に強くなろうと打ち込みを続ける。


 道場に打ち込みの鋭い音が一定のリズムで響く。


 直人は先ほど見た誾千代の涙を思い出す。が、冷静になると自分がとんでもないことをしたことに気付く、あの時自分は誾千代の入浴を覗いたのだ。


 そう思った途端、直人は赤面する。


 涙を流す誾千代の顔を思い出していたのにそれ以外の余分な部分まで思い出してしまう。

 途端に直人の剣筋が乱れ、打ち込みの音が鈍くなる。


「って、俺は何思い出してんだ!精神集中、精神集中・・・・・!!」


 直人は必死に頭の中を真っ白にして無心の状態にする。

 しばらくすると打ち込みの音が鋭くなり、再び一定のリズムを刻む。


「ふっ、俺ぐらいの達人になれば精神集中なんて、かるいかる・・・」


 道場の戸が開き誾千代が入ってくる。


「直人」


 ズバシュ!!


 けたたましい音とともに木製人形の上半身が吹き飛び、誾千代が感嘆の声を漏らす。


「おお、現代の人間でそれが出来るとは、やはり直人は優秀な主(ロード)だな」

「そそ・・・そうか、ありがとう・・・・」


 あからさまに動揺する直人に誾千代は何故そんなに動揺しているのかと聞くが直人は首がもげそうな勢いで首を横に振りなんでもないとその場を取り繕った。


「そうか、ならいいのだが、それより直人、鍛錬の前に話しておきたいのだが・・・」


 誾千代は真剣な顔で直人を見据え、直人はおもわず身構える。


「直人、あの綾人と理恵という者の腕輪(リング)を見たか?」


 その問いに直人は「あっ」と声を漏らす。


「そういえば、あいつら腕輪(リング)してなかったな・・・理恵は綾人のこと、お兄ちゃんって呼んでたから、兄弟の過去の戦士(スレイヴ)で腕輪の装備者(ロード)はどこか別の場所から見ていたって考えるのが妥当かな・・・?」


「しかし、奴らの発している気は完全に生者のものであった。私達過去の戦士(スレイヴ)は所詮、腕輪の装備者(ロード)がいなければ本来の力を発揮できない、不完全な蘇生しかしていない、だから発する気でその者が過去の戦士(スレイヴ)かどうかは見ればわかる」


「じゃあ・・・あいつらは?」


 少しの間が空き誾千代は自信の無い声で言った。


「過去の戦士(スレイヴ)以上の力を持った現代人ということになる」


 直人は驚き誾千代につめよるとどういうことだと聞く。

 誾千代は直人を押して距離を取ると語り始めた。


「そもそも、我々の強さの主な原因は環境にある、人間には本来、環境に適応し、必要な能力を身につける力がある。だから昔、日本では特に戦国時代、その頃は強き者が生き、弱き者が死んだ時代、人間の体は極限まで戦闘能力を向上させ、神がかり的な力を手に入れた。しかし戦場に銃が導入し、戦車などの兵器が発明され、現代においてはついに肉体的強さが不要になった。それと同時に人間達の力は退化し、超人的な強さも失われ、ついに昔の戦いはおとぎ話や神話など、空想の物にされるほどだ。それ以外にも文明が発達し、人々の心から信仰心が消え、世界から神や精霊が姿を消したのも原因だろう、この時代に来てすぐわかったが大気中に霊子がほとんど含まれていない。だから現代の人間であれほどの強さがあるということは・・・あるということは・・・・」


 誾千代はウーンと唸り黙ってしまった。


「ええっと、わからないなら無理しなくていいぞ、もしかしたら義経の鬼道みたいに何か魔術的なものが働いているのかもしれないし」


 誾千代は考えるのを止め、それもそうだと言うと直人が問い掛ける。


「つうかさっき言ってた戦車とかなんとかってどこで調べたんだ?」


「ああ、それなら直人が学校へ行っている間にこの家の本で調べたのだ。やはり現代の知識は必要だと思ってな、家中の本を読ませてもらっている、迷惑だったか?」


「いや、誾千代がそうやって自分から現代の知識を身につけてくれるのは俺としても助かる、でも、わかんないことがあったら俺に聞いてくれよ」


 誾千代はそれにあいづちをうつと壁に立てかけている竹刀を取り構える。


「では直人、今日も始めるぞ、死なぬよう気をつけろ」

「今日こそは一本取らせてもらうぞ」


 二人はにらみ合い、同時に開始の合図を叫び、打ち合いを始めた。


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