第27話 歩み続ける想い



 少年は恋をした。自分でも押さえられない想い、ただその人といたくて、ただその人を守りたくて・・・・二人の少年は二人の少女を好きになる、そして二人の少年は出会い、それと同時に少女達も出会った。こうして二人の女性剣士は刃を交える。





 忠勝との戦いが終わり、直人達は家で戦いの傷を癒す。


 誾千代は風呂に入り、血や汗を流している、体をきれいしてから手当てをするというのが本来の目的だったのだが、理恵と誾千代自信の力で彼女のケガの大半は治っているらしく、治療は断られた。それどころか、ついさっきまで死に掛かっていたのに今度忠勝に会ったら絶対に倒すと意気込み、そのたくましさを直人に見せ付けていた。


 あの忠勝と互角に戦った強さ、驚異的な再生力、やはり誾千代は最強候補なのだと直人は実感するが、彼女が最後に言った言葉、「女が最強を目指してはいけないのか?」直人はどうしてもそれが気になった。


 今まで戦った敵は全員男だった、女性の過去の戦士(スレイヴ)など誾千代ぐらいのものではないだろうか。そもそもなぜ彼女はあんなにも女性扱いされる事を嫌がるのか、彼女にとって史上最強の称号は他の戦士よりももっと何か特別な価値があるのだろうか。


 直人は茶の間の畳の上に寝そべり、天井を見上げ考えるが、そんなことで誾千代のことがわかるはずもなく、ただなんとなく右手を天上に伸ばし、空(くう)をつかむとそのまま顔の上に下ろし、大きなため息をついた。


 やがて風呂場のシャンプーが切れ掛かっていることを思い出し、上体を起こす。


 新しいシャンプーを持って風呂場へ向かう途中、直人は誾千代について無理に詮索するのをやめようと思った。


 例え女性であろうと戦士である誾千代が史上最強の称号を欲してもおかしくはないし女性扱いされるのを嫌うのももしかしたら女だからと手加減されたというような過去があったのかもしれない、とにかく今はそれで納得し、あとは誾千代が自分の意思で話してくれるまで待とうと思ったのだ。


 何も心配する必要はない、とにかく自分の家臣(スレイヴ)の誾千代は最強でこの戦いに勝ち残ることでそれを証明しよう、自分が彼女を最強にしてみせると心に誓う。





 脱衣所の扉を開けるとシャワーの水を体にかける音がする。


 直人は風呂場の扉に近づき、シャンプーを置いた。そしてそれを伝えようと口を開いた時、シャワーの音と一緒に誾千代の声が聞こえる、直人は風呂場の戸をわずかに開け、その隙間から風呂場を覗くと直人は目の前の光景に我が目を疑う。


 誾千代は泣いていた。


 切断されかかった左腕の傷口からは血が、目からは涙が際限なく流れ続ける、その血と涙はシャワーの水に混じり、洗い流される。


 普段、あれほど女性扱いされるのを嫌がり、気丈に振る舞い、強さはあの義経を上回り忠勝とすら互角に戦ったほどだ。


 なのに今の誾千代からは強さがまるで感じられず、まるで親とはぐれた小さな女の子のように顔をゆがめ、泣きじゃくっているのだ。そして誾千代ほどの戦士ならば直人の気配に気付くはずだが彼女は泣き続ける、それほどに彼女は心が乱れているのだ。


 必要以上に流しているシャワーは決して体を洗うためではなく、涙と泣き声を掻き消し、周りの者に弱さを見せないための壁。そして一言呟いた。「負けた」と。


 直人は風呂場の戸を閉めると脱衣所を出て道場へと向かう。



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