第26話 幕間  征服王VS近代兵器

 現代を生きる弱者達にとって、太古の超人達はあまりに強大すぎた。



 地平線の果てまで無限に続く広大な荒野、その上を駆け抜ける紅い西洋の鎧を着た男、それを数機の戦闘機と武装されたヘリコプターが追う。


 パイロットがうしろに立つ上官に言う。


「目標は時速三百五十キロで移動中、外見的特徴の判別終了、間違いありません、アレクサンドロス大王です」


 アレクサンドロス大王、古代マケドニアの王にして世界の果てまで征服し尽くした征服王、ありとあらゆる異世界を冒険し世界の全てを見尽くし、あらゆる財と知識を手に入れ、無限の命と無限の知識を求めた伝説的な王である。


 それを聞いている上官は短い金色の髪を持ち、背が高く、力強い眼をした白人の女性で名をエリザという。エリザは眉間にしわを寄せ、怒りを込めた声を張り上げる。


「ミサイル発射!全弾撃ち尽くせ!!」


 途端、全ての戦闘機とヘリコプターから際限なくミサイルが放たれる。街や山を砕き、焼き尽くす兵器は一人の人間に向かって突き進む、数秒後、耳をつんざく巨大な炸裂音と大地が砕ける爆音が辺りに轟く、間髪いれず彼女は叫ぶ。


「青酸カリ(0・一五グラムで人を殺せる猛毒)を一面に撒け!全責任は私がとる!!続けてネットで奴の動きを封じろ!!」


 そう言うとエリザはガスマスクを被り、ロケットランチャーを両手に持つとヘリコプターから飛び降りる。


 後ろからは自分の名を呼ぶ部下達の声がするが彼女はかまわずアレクサンドロスに向かって落下し続ける。


 煙が晴れるとあれだけの爆撃を受けたにも関わらずわずかな火傷しか負っていないアレクサンダー(アレクサンドロスの別称)は次々に襲いかかる金属繊維制の網を素手で引きちぎり、これで終わりかと言わんばかりに余裕の表情をパイロット達に見せる。青酸カリなど当然のように効いていない。


「対大型猛獣用強化捕獲網を全部引きちぎってやがる!!?なんて筋力だ!!?」


 青酸ガスの海の中でエリザはアレクサンダーに近寄ると至近距離からロケットを放つ、下手をすれば爆発の衝撃でガスマスクに亀裂が入り、そこから青酸ガスを吸い死んでしまう危険な行動だがそれぐらいしなければこの男に傷など付けられない、間髪いれずもう片方のロケットも放つ、その爆炎の中、アレクサンダーは背中に背負っていた紅い長槍を抜くとエリザに向けて放つ。


「・・・・くっ・・・」


 エリザはそれを常人離れした反射神経と運動能力でかわすと左手で槍をつかみ右足でアレクサンダーの喉を蹴り飛ばす。


 どこに当たろうが現代人の攻撃で彼を傷つけられるはずがない、彼にとってこの戦いはほんの戯れ、なのにその瞬間、彼女の右足が爆発する。


 エリザの左足はひざから下がなくなっている、否、最初から右足などない、彼女の右足は最初から義足、その中に爆弾を仕掛けておいたのだ、ちょうど今のように強い衝撃を与えると爆発するように。


 それでも彼の喉はわずかに赤くなっているだけでケガと呼べるような状態ではない。ほんのかすり傷程度だ。


 アレクサンダーは槍を一振りして彼女を振りほどき、地面に叩きつけると苦しむ彼女の腹を踏みつける。


「まったく・・・右足を奪っただけではわからないようだな、今度は右腕でももらうか」


 余裕と自身に満ち溢れた声、次の瞬間。


 ザクッ


 エリザの右腕が肘から先が切断される。彼女は悶絶し、切断面からは血がとめどなく噴き出す。それでも彼女は痛みに耐えながら言う。


「・・・・ア・・・アレクサンダー・・・・・わ・・・・私の妹を・・・・イベルを返・・・・・」


 バキ


 エリザのアバラ骨が折れる。アレクサンダーの足が彼女を強く蹴り飛ばしたのだ。

 アレクサンダーは彼女を見下し、冷たく言い放つ。


「何度も言っているだろう、あの娘はもう我の協力者(ロード)、我が史上最強であることを証明しこの世界に生き返るまでは返せん、よく覚えておけ、次会った時はその右目をもらう、必ずだ」


 自分こそが最強、そして自分以外は取るに足らないゴミだと言わんばかりに人を見下しきった声が痛みで弱ったエリザの精神を襲う。


 エリザが歯を食い縛り、アレクサンダーをにらみつけると彼は思い出したように戦闘機やヘリコプターの編隊を見る。


「そうだ、まがりなりにもこの我に二度も立ち向かったのだ、褒美として我の全力を見せてやろう・・・・・」


 アレクサンダーが槍を構える。その瞬間、今までに感じたこともないほど巨大な力が彼の槍に集まっているのがわかる。その力の前ではこの世の全てが無力だと思えてしまう、そして力が限界まで溜まるとアレクサンダーは邪悪な笑みを浮かべ、言う。


「世界を(バルグ)・・・・・」

「・・・・!!?」


 エリザは本能的に彼のやろうとしている事を感じ取ると部下達に急いでここを離れるように指示するが間に合わない。アレクサンダーが槍を突き出す。


「貫く槍(ホーン)!!!」


 その瞬間、彼の槍の先端から放たれた巨大な紅い光りは拡散し編隊を襲う。紅い、死の光りは戦闘機やヘリコプターを何の障害もなく貫くとそのまま雲を突きぬけ空の彼方へと消える。


 墜落する余裕もなく空中で消し飛んだ中間達の姿にエリザは眼から光りを失い絶望する。


「見たか、これぞ我が世界の果てで見つけた地上最強の槍、世界を貫く槍(バルグ・ホーン)の威力だ、さて、我はいつまでも愚民どもに付き合っているほどヒマではないのでな、ここで失礼させてもらおう、なに、心配するなあれほどの爆発だ、じきに助けはくるだろう、よかったなあ、お前助かるぞ」


 アレクサンダーはなんの悪気もなく、エリザをバカしたように言うとその場から姿を消した。


 あまりの悔しさで右腕の痛みなど感じない、なのにあまりの情けなさに涙が止まらない。


 エリザは砕けそうなほどに歯を食い縛り、アレクサンダーに復讐を誓った。

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