第25話 伝説が消える
忠勝が距離をつめ、再び戦うと忠勝の攻撃の全てが余裕を持って受け流される。
「どうした? 全然手ごたえがねえぞ、あんたの攻撃ってこんなに軽かったか?」
正人がさらに力を入れると、今度は受け流すなどという生易しいものではない、受け流され、進行方向を変えられた忠勝の攻撃はそのまま変えられた方向へと吹き飛び忠勝はバランスをガタガタに崩される。
やがて忠勝の攻撃は全てかわされ当たらなくなる、時々、何かに当たったと思えば槍は弾き飛ばされ無防備な姿をさらす。
忠勝が悔しさで歯ぎしりをすると正人が不敵に笑う。
「あんた確か、生涯一度も傷ついたこと無いんだよな、悪いけどその伝説、今日消えるぜ」
正人の刃は忠勝を左肩から右脇腹に掛けて斬り裂き、それは分厚い鎧を貫いて忠勝の肉体をも傷つけた。
「ぐっ!」
忠勝の鎧から赤い血が噴き出す。
「これで終わりだ!」
「おにいちゃん駄目!」
理恵の言葉を跳ね返し正人は声を張り上げる。
「うるせえ! これで死なねえなんてこいつぐらいのもんなんだ! たまには使わせ
ろ!」
正人の刀に雷の力が今まで以上に流れ込み、誾千代同様、刀は強度を増し、雷と高熱を帯びる。
「雷の刃(ライトニングエッジ)!」
正人の刃が忠勝に襲い掛かる。
「やめてください!
」
ビル内に響く声、それは千春のものだ。正人は寸前のところで刀を止め、千春へと視線を移す。
すると千春は忠勝に駆け寄り綾人の前に立ちはだかる。
「なにあんた、俺の邪魔するってのか?」
「お願いします、私達を見逃してください」
涙を流しながら懇願する千春に正人は冷たい視線を浴びせる。
忠勝は苦しみながらも千春を止めようとするが千春はなおも続ける。
「敵にこのようなことを頼むのは間違っています、でも、それでも私は……」
正人が沈黙し、何か考えていると直人と理恵の治療を受けていた誾千代が綾人に告げる。
「忠勝を倒すのは私と直人だ、悪いがお前に倒されるわけにはいかない」
「もしこれ以上戦うなら、俺らも相手になるぞ」
それを聞くと正人は左手で頬を掻き刀を納め、体の光も消した。
「ああ……じゃあ帰っていいぞ」
直人達は全員、ほぼ同時に驚きの声を漏らし、正人は直人と誾千代の方を向く。
「俺はただあんたらに俺が味方である事を示して戦いを楽しめりゃそれでいいから、理恵もやめるよう言ってるしな」
再び体を忠勝のほうに向ける。
「てか、今あんたらに死なれちゃこっちも困るんだよ、つうわけだから、早く帰りな」
悔しさで顔を歪め忠勝は立ち上がると、千春を連れ、廃ビルの出口へ向かう。
「この借りはいずれ必ず……」
そう言って二人は廃ビルを出た。
それを確認すると正人は誾千代に近づき顔を覗き込む。
正人から今までのような軽さが消え、真剣な顔になると冷淡な声で言った。
「女なのに史上最強になりたいなんて……あんた変わってるよな?」
誾千代は一瞬言葉を失った後、震える声で言う。
「い……一体何を……」
そこにいつもの気丈さはない、女扱いされれば怒りをあらわにし怒鳴るはずなのに今の彼女はまるでなにかに怯えているようだ。
正人は直人の方を向く。
「お前ももっと強くならねえと誾千代死ぬぞ」
それだけ言うと忠勝と戦っていた時の雰囲気に戻る。
「じゃあ俺らも帰るぞ」
「うん」
そう言って正人と理恵はその場から一瞬で姿を消した。
後に残された直人は額から汗を流し驚きと疑問が入り混じった声を出す。
「なんなんだよあいつら、なんであいつら誾千代の技を……?」
誾千代は視線を床に落とし、直人の疑問にも綾人と理恵のことにも触れず。
「直人……」
と切り出す、誾千代の声は震えている。直人は心配そうに誾千代を見ると誾千代は顔を上げずに絶望の色を浮かべた顔で問い掛けた。
「女は……最強を目指してはいけないのか……?」
「……これで八人目」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます