第24話 戦国最強よりも強い現代人


「ふうん、おっさん帰るんだ……」


 一人の少年の声にその場にいた四人全員が辺りを見回す。


「だれだ、出て来い!」


 直人が言うと何かが床に着地する音がし全員がそちら向く、見るとそこには二人の少年と少女が立っている。


 少年は中肉中背で顔立ちが良く、直人と同じ位の年に見える。


 少女のほうは誾千代に負けず劣らずの美少女で彼女は直人よりも少し若い、十三、四歳に見える。


「目の前の敵を見逃すなんて、おっさんそれでこの戦いを生き残れると思ってんのかよ?」

「貴様、何者だ、名を……」


 次の瞬間、忠勝の体が遠くへと吹き飛び、壁に激突する。廃ビル内に体質量物質同士が衝突した衝撃音が響く、その少年が忠勝を投げたのだ。


 一緒にいた少女は少年に駆け寄り、彼を見上げる。


「ちょっとお兄ちゃん、そんなことしちゃ駄目だよ」

「殺しちゃいねえよ……」

「そ、れ、で、も、で、す!」


 少年は少女に悪い悪いと申し訳なさそうに謝る。

 忠勝は瓦礫をどけ、起き上がった。


「くっ、何奴……?」


 自分よりも遥かに小柄な少年に投げ飛ばされ、戦国最強のプライドを傷つけられて苛立つ忠勝の問いに少年は人を馬鹿にしたような口調で意気揚揚と応える。


「俺か? 俺は正人、こっちは俺の妹の理恵、カワイイだろ?」

「正人だと? そのような武将は知らん、生前の主は誰だ、信長か? 信玄か?」

「はあ!? 俺は誰の物でもねえ、俺は俺だけのもんだ、誰も俺に指図できねえ、そして誰も俺を殺せねえ、なんせ俺は最強だからなっ!」


 少年の声は自信に満ち溢れている。あの忠勝を一撃で十メートル以上も吹き飛ばしたのだ。誰も彼の言葉をハッタリには取れない。


「おいてめえ!」


 正人は直人の方を向き叫ぶとそのまま近き一発。


「くたばれ!」


 正人の蹴りが直人の胸に直撃した。誾千代が止めるのは間に合わない、それほどの速力を持った蹴りだったのだ。直人は胸をおさえ苦しむ。


「貴様、何をする!」


 誾千代が正人をにらむと正人は一歩下がり両手を前に突き出して言う。


「ちょっと待った待った、あんたと戦う気はねえ、だいいち俺は味方だぜ、それぐらい見りゃわかるだろ?」

「いきなり私の仲間を蹴り倒した男を信用しろと?」

「しょうがねえなあ、じゃあ俺が忠勝のおっさんを倒したら信じてくれよ」


 正人がやれやれとばかりに言うと誾千代は痛みに耐えながら緊迫した声を出す。


「馬鹿な!? 本田忠勝を一人で倒す? それは思い上がりだ、あの者は戦国最強と言われた男、その忠勝を一対一で倒すなど……」

「まあ確かに、あのおっさんが強いのは認めるよ……俺の膝元ぐらいにな」


 正人は不気味な笑いを浮かべ、腰の刀を抜く。


「久しぶりに本気でいくか、さあやろうぜおっさん、俺にひざまずく姿を見せてくれ!」


 その言葉に忠勝の中にふつふつと怒りが込み上げてくる。戦士としての誇りを持った者になら倒すと言われても怒りはしないだろう、しかし正人のような態度は我慢できない、忠勝は声を張り上げ叫ぶ。


「拙者を倒す? ふざけるな! 拙者は戦国最強本田忠勝! 貴公のような若造に負けるわけが……」

「遅えよおっさん」


 正人は一瞬で間合いを詰めると忠勝に斬りかかる。

 それが戦いの始まりだった、二人は激しく斬りあい、その速度は徐々に上がっていく、


 毎秒、六回、七回、八回、まだ上がる、最後には毎秒十回以上の金属音が鳴り響きその速度は地球の動物のそれを遥かに上回る。


「……なんだあの男は、本当に忠勝殿と戦えている」


 二人の戦いを唖然として見る誾千代に理恵が近づくと腕の傷口に手を当てる。


「き、貴様、何を……!?」

「動かないで」


 理恵は傷口に微弱な電気を流し死にかけた細胞を活性化させる。

 誾千代と直人が驚き言葉を失っていると理恵は傷口に視線を向けたまま言う。


「あなたは忠勝さんとの戦いで力を使いすぎました、あとの治療は私に任せてください」


 二人はその様子を不思議そうに眺めていたが忠勝の怒声に視線を戦いに戻す。


「おぉおおお!」

「へえ、さすがにすごいな」


 正人は危ないながらもその攻撃を全て受け流している、そう、正人の刀は忠勝のそれよりもさらに巧みに動くのだ。


「理恵、悪いけど使うぞ、これじゃ楽に勝つってふうにいかなさそうだ」

「はいはい、どうせ止めてもやるんでしょ? まったく、あとで治療するのは私なのに……」


 正人は後半の言葉をさらりと受け流し楽しそうに笑う。


「さすがは我が妹、わかってるじゃねえか、じゃあいくぜ!」


 忠勝は正人に異能の力があるのだと思い距離をとる。すると綾正人の姿に理恵を除く全員が絶句した。


 正人の体が金色に光る、その光りは誾千代のものと酷似している。


 理恵は正人を兄と呼んでいた、この二人が兄弟というならば妹の理恵が雷の力を使った以上正人にもその力があってもおかしくは無い、しかしこれは誾千代の父、道雪の力、誾千代は道雪の実子であるため、その力が遺伝し、使えるわけだが誾千代に子はいないし道雪には誾千代以外の子供はいない。

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