第16話 幕間 聖女VS狂気の悪魔
イギリス、ロンドンの夜に彼は動く、今日も楽しい狩りの時間、気に入った女を次々に解体(バラ)していく彼は顔を歪めて笑いながらその手に付いている刃で己の欲望を開放している。
すると獲物はむこうからやってきた。
全身を黒いスーツと帽子で覆った黒づくめの女性、不敵な笑みを浮かべ、こちらを誘うような声で言う。
「ふうん、あなた、素敵な趣味を持っているのね、とても魅力的よ」
そう言ってその女は大胆にもその男の刃をつかみ、自分の首に這わせる。
「でも、私を解体(バラ)すのはもっと楽しんでから・・・」
彼女が最後まで言い終わる前に男の右手にはめられていた銀色の腕輪が光る。
「・・・何・・・これ・・・?」
「・・・・・・」
彼は腕輪を女に着けさせると全てを話す。女はおもしろそうだと怪しく笑い、男の腕をつかみ、引っ張る。
「じゃあ、とりあえず私の家に行きましょう、ああ、そういえば、あなたの名前を聞いてなかったわね・・・・・ねえ、あなたは一体なんて名前の戦士なの?」
男は不敵に笑い、冷たい声で言う。
「ジャック・ザ・リッパ―」
決して会ってはいけない二人がロンドンの街で出会い、二人の殺人鬼はそのまま底の無い背徳の沼へと身を沈める。
少女は神のもの、その体は汚れを知らず、決して恋をしてはいけない。
イギリス、ロンドンの夜にジャックは追われる。
武装した男達が銃で威嚇しながら彼の居場所を無線で連絡する、無線のさきにいる少年と少女は車の中で自分達のいる場所の近くまでジャックが来るのを待っていた。
「・・・クッ・・・まだか、これだから現
少女は神のもの、その体は汚れを知らず、決して恋をしてはいけない。
イギリス、ロンドンの夜にジャックは追われる。
武装した男達が銃で威嚇しながら彼の居場所を無線で連絡する、無線のさきにいる少年と少女は車の中で自分達のいる場所の近くまでジャックが来るのを待っていた。
「・・・クッ・・・まだか、これだから現代の戦士はアテにできないのだ」
白い甲冑を着た少女は下の者達の仕事の遅さに苛立ち、眉間にしわをよせるがそれでも彼女の顔は十人見れば十人が認めるほどの美しさを保持する。
やわらかく、すくえば簡単に指からすり抜けてしまいそうなほど美しい金色の髪、暗い夜でも良く目立つ雪のように白い肌、エメラルドのような瞳は怒りの炎を燃やしてもなお美しい。
その横でさわやかに笑う少年が少女の肩をつかみ、明るく言う。
「ハハ、仕方ないよ、今の時代の人間は昔の人と違って霊格が低いし超人遺伝子だって眠っているんだから、それよりも・・・・」
少年は少女の頬に手を添え、自分のほうを向かせる。
「怒ってばかりいないで、たまには笑ってみない、ジャンヌ?」
ジャンヌ、あのイギリスとフランスの百年戦争で劣勢だったフランス軍を見事勝利に導いたフランスの英雄だ。
彼女は少年の手をはじくと顔をそむける。
「悪いがルイス、この戦いに笑っていられる余裕などない、笑うのは戦いに勝利したときのみ、お前も戦士ならばわかるだろう」
ルイスはジャンヌの力のこもった声を受け流し、肩をすくめ言う。
「そうでもないよ、それに僕は、一応君の主(ロード)なんだよ、お前よばわりは酷いなあ」
ジャンヌがフンッ、と鼻をならし不機嫌そうに車の窓から外を見る。その瞬間、ジャックがそっちへ行ったという連絡が入り、二人は車から同時に飛び出す。
誰も住まず、誰も通らない、まるで世界から切り取られたような十字路でジャンヌは剣を構える。すると十秒もしないうちに前方から人影が高速で接近してくる。
「ジャンヌ」
「ああ、神の名のもとに斬り伏せてくれる!」
暗い漆黒の闇の中に唯一存在する街灯の光りがジャックの姿を二人にさらけ出す。
ジャックの顔は金属製の仮面で覆われ、わずかに開いている目の穴からは青い瞳がこちらを覗き込む。手には指の一本一本に鋭い刃がついた手甲がはめられ、体は黒い皮製のコートに包まれている。ルイスとジャンヌの感想は同じだった。
「何この変態仮面!!?」
「あの・・・ジャンヌ、たしか僕達、ジャック・ザ・リッパーを追ってたんだよね?」
ルイスの震える声にジャンヌも顔を引きつらせながら応える。
「あ・・・・ああ、奴の放つ波動も間違いなく過去の戦士(スレイヴ)のものだ、しかし・・・随分とまた・・・・」
二人がジャックの容姿を凝視しているとやがてジャックの瞳がジャンヌの鎧に向かっていることに気付く。
ジャックが一言。
「その鎧・・・邪魔だな」
ジャンヌが疑問の表情を顔に浮かべる前にジャックは彼女のふところに潜り込み、その鋭い刃で彼女の白い鎧を切り裂く。
油断した。
ジャンヌはなんとか体を後退させ、直撃は防ぐが鎧にはジャックの爪跡がはっきりと残っている。
ジャックは後退したジャンヌに近づき、光速の斬撃を放つ、その速度は並みのスレイヴを遥かに超え、切れ目なく襲い掛かるそれはジャンヌの鎧をことごとく傷つける。
ジャンヌの防御は間に合わない、体の前に剣をかざすことでいくつかの攻撃は防げているがそんなのは全体の半分も無い。
「ハァッ!!」
ジャンヌが剣を横にすばやく振り、ジャックは一瞬で後退する。
「本当に邪魔な鎧だな、そんなのがあったら体を解体(バラ)せないだろ、さあ、早くその綺麗な顔を血に濡らす姿を見せてくれ!」
ジャックの冷たく、それでいて粘着質の邪悪な声、ジャックは再びジャンヌに向かって走り出す。
これだけの距離から近づかれればなんとかその姿を確認できる、今度こそジャックを斬り裂いてみせる、ジャンヌがそう決意した瞬間。
「・・・・!?」
ジャックが視界から消える。
「・・・・そんな・・・・バカな・・・・」
殺気は腹部から、視線を下に向けてあったのは弾け跳ぶ己の鎧だった。ジャンヌは反射的に剣を振り、再び視界にジャックが現れ、ジャンヌは悔しさで顔を歪める。
「クッ・・・どうやらただの変質者というわけではないようだな・・・」
その言葉にジャックは体を小刻みに震わせる。しかしそれは怒りからではない。
ジャックは鎧がなくなり、布製の服をまとっただけのジャンヌを視界に捉える、すると仮面をしているにも関わらずジャックの顔が嬉しさで歪むのが分かる。
「その豊かな胸、くびれた腰、ああ、早くそのやわらかな体を切り刻みたい!!そして恐怖に歪む顔を見せてくれぇええ!!」
ジャンヌの、誾千代にも負けないその女体に向かってジャックが刃を構え接近するとジャンヌは額に青筋を立てて声を張り上げる。
「・・・前言撤回だ・・・やはり貴様は・・・・・・ただの変質者だ!!!」
ジャンヌが剣を振り上げ、ジャックを斬り倒そうとすると彼女の制空圏でジャックが加速し、彼女の刃が届く前にジャンヌを殴り飛ばす。
ジャンヌは空家の壁に激突し、一瞬動きが止まる。
そこへジャックが刃を光らせ迫る、防御は間に合わない、このままでは殺される。
ジャンヌは全身の筋肉を総動員し逃げようとした。
ザクッ
金属製の刃が生きた人間の肉を斬り裂き血が噴き出す音、ジャンヌが今までに戦場で何度も聞いた音。だが痛みはない、ジャンヌの目の前にあるのは自分の傷でもジャックの刃でもなく。
「・・・ル・・・ルイス・・・・・?」
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