第17話 ジャック・ザ・リッパー VS ジャンヌ・ダルク
「・・・ル・・・ルイス・・・・・?」
震える声で現実を直視するジャンヌにルイスが苦しそうではあるがいつもとかわらないさわやかな笑顔で応える。ジャックの刃が背中に刺さっているにも関わらずだ。
「・・・だ・・・大丈夫かい・・・ジャンヌ?」
ジャックは舌打ちをして再び後方へ飛び退く。
ジャンヌが熱のこもった声を張り上げる。
「ルイス!貴様何をしている!?私が死ねばこの戦いから解放されるのだぞ!?私を助けても貴様にはなんの得も無いのだ!!なのに・・・・」
ジャンヌが言葉を言い切る前にルイスは苦しそうな声で必死に伝える。
「・・・・男が女の子を守るのに・・・・理由がいるのかい?」
ルイスのあまりに純粋な応えにジャンヌが再び叫ぶ。
「うるさい!!何が女だ!どうせ貴様も私を魔女だと思っているのだろう!?この力を!強さを!神から授かった神力を・・・・恐れているのだろう・・・・・」
ジャンヌの声は徐々に力を失い、最後のほうはもう涙声だった。
彼女はその昔、フランスがイギリスとの戦争で征服されそうになっているところをその神がかりてきな奇跡と神秘の力で救った。
しかし、イギリスとの和睦を考えた王に戦いの象徴たる彼女は見捨てられ、イギリスに捕まった彼女は幽閉され、魔女として火あぶりの刑に処された。
なのにルイスは優しく、それこそ神のような笑顔でジャンヌを抱きしめる。
「ジャンヌ・・・こんなかわいい魔女がいるわけないだろ?」
ジャンヌは目を見開き、大粒の涙を際限なく流し続ける。
聖女、ジャンヌ・ダルク、神の声を聞き、奇跡を起こし続ける純潔の少女、その身も心も、男に許してはいけない存在・・・・・・・・。
「ルイス・・・・・・・」
そう言った瞬間、彼女の体が白く光り輝く。
「ジャンヌ・・・・・?」
彼女が触れるとルイスの傷口はみるみる塞がり、出血が止まる。
「これが私の神力の全てだ、この状態は長く持たないのだが、安心しろ」
ジャンヌは確かな決意のこもった力強い眼光をジャックに向ける。
「一分で片付ける!!」
ヒュッ
風を切る音、もうジャンヌはルイスの視界から外れ、ジャックの後ろを取っている。
ジャックは自分の出せる最大速度でそれを防ぐが彼女の剣が触れた部分の刃はヒビが入り、技の衝撃に骨が軋む。
ジャンヌのスピードはジャックのそれをわずかに上回り、彼のコートをズタズタに切り裂いていく、ジャックがコートを脱ぎ捨てると彼の細身の体が姿を表し、彼は唸り声を上げながらジャンヌと斬り合う。
しかし力の差は圧倒的にジャンヌが上回っている、ジャックもそれを認めているがいっこうに退こうとしない。
「これで終わりか?ならば、神のもとへ送ってやろう!!」
ジャンヌの剣がよりいっそう光りを強め、ジャックに襲い掛かる。しかし、それと同時にジャックの様子が変わる。からだから邪悪なにおいが溢れ出し、目の色が青から紅へと変わる。
「女風情が・・・・いい加減にしろ・・・・!!!」
二人の刃が触れる瞬間、その間に金色の壁が割ってはいる。
「!?」
二人が互いに距離を取ると壁は消え、一人の男が姿を現す。
金色の髪に青い瞳を持った三十歳近い男性、ルイス達と同盟を結んでいるスレイヴ、あの円卓の騎士たちの頂点に君臨するイギリス史上最強の騎士、アーサー王だ。
アーサーは穏やかな声でジャックに話し掛ける。
「ジャック、私のエクスカリバーを使うと、このロンドンの街を壊しかねない、そこでどうだろう、今日は退いてもらえないだろうか?君も、この戦いにおいて八英雄と呼ばれる私と戦うのは避けたいだろう?」
ジャックはほんの二、三秒考え込むとジャンヌを解体(バラ)せなかったことを残念そうに舌打ちし、闇の中に姿を消した。
ジャンヌの身を案じてルイスがジャンヌに駆け寄るとジャンヌは神力を使うのを止め、体の光りは消えて無くなる。
「アーサー殿、いつこちらに?」
「ついさっきだよ、しかし君も無茶をするなぁ、あれほど神力を全力で解放してはいけないと言ったじゃないか・・・・」
アーサーがまるで愛娘を叱るようにジャンヌに注意をするとジャンヌは今までの気丈さはどこへやら、本当に父に叱られた少女のようにしゅんとうなだれ、謝る。
するとアーサーはフフ、と小さく笑う。
「しかし、ちょっと見ない間に、ロードと随分仲良くなったようだね」
気がつけばルイスとジャンヌは手を握り合っている。ジャンヌは「あっ」と声を上げ、恥ずかしそうに赤面し、慌てて手を離すと弁解を始めるがアーサーは人を愛するのはいいことだとジャンヌの話をまるで聞こうとはしない、アーサーにしばらくの間からかわれた後、ジャンヌはルイスの残りの傷を治すと言って彼の背中にもう一度触れる。
その瞬間、ジャンヌは驚いたように眼を大きく開き、ルイスの傷口から離した手を見て呟く。
「・・・神力が・・・・・落ちている・・・・・?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます