第15話 俺は弱い……


「直人、敵を倒しました・・・・」


 誾千代が直人の方を見るとそこには元気を失い、力なくうなだれる直人の姿があった。


「ど・・・どうしたのですか直人、どこか痛みますか?」


 誾千代が駆け寄ると直人は首を横に振り、悲しそうな声を出す。


「・・・何が日本最強だ・・・全然弱いじゃないか、確かに俺よりも強い奴はいると思っていたさ、だけどお前ら・・・強すぎだ・・・・・」


 一度吐き出し言葉は止まらず、徐々に言葉は熱を帯び、そして息が荒くなる。


「・・・・・今の時代じゃ強くても何の意味も無いのに辛い修行に耐えて!親父にむちゃくちゃ剣術やらされて!でも俺だって戦士だ、俺だって最強になりたい気持ちはあったさ!だから自分が強くなっていくのが実感できたから我慢もできた!!でもなんだよ!!やっと今まで鍛えた力を使う時が来たと思ったら、何の役にも立たないじゃないか!!ここで使えないでなんの力だ!!!俺は今までなんの為に修行してきたんだ!!!・・・・俺は・・・俺は・・・・・・」


 直人の頬を伝う涙は次から次へと流れ落ち、地面を湿らす。


 直人が今まで修行をしてきたのは最強になりたいという気持ちの他に誰かを守りたいという想いからだ、なのにいざ戦いが始まると自分は守られ保護される対象になる。


 直人にはそれがどうしようもなく辛く、耐えがたかった。その姿を見た誾千代はしばらく黙っていたが、やがて直人を優しく抱きしめ、立ち上がらせる。


 誾千代の体温が直人に伝わり、誾千代のにおいが直人の鼻を刺激する。


 彼女の暖かな体温も優しいにおいも、そして誾千代の存在そのものが直人に安らぎを与え、涙を止める。


 直人は母親に抱かれた赤子のように安堵して目を閉じ、誾千代の肩に顔をうずめる。


「直人、それは違います。私はあなたが今まで修行してきたことにとても感謝しています」


 その言葉に直人が目を開け、誾千代は直人を体から離すと直人の目を見据える。

誾千代の暖かく、穏やかな声が再び聞こえる。


「この戦いの参加者には山上のように直接、主(ロード)を狙う者が数多くいるでしょう、しかしあなたの強さは過去の戦士(スレイヴ)には及びませんが義経や山崎の攻撃を一度は防いでいます、あなたのその強さは主(ロード)には必要不可欠なもの、もしあなたが修行を積んでいなければ山崎の、いえ、義経の攻撃で死に絶え、私はロードに会うこともできず、今ごろ他の戦士(スレイヴ)に倒されていたかもしれません、あなたが生きている限り私は本来の力を出せる、ですから直人は自分を守り、自分が生き残るために力を使ってください、それが私を守ることになります」


 それを聞いた直人は涙を拭い、覚悟決めた強い眼差しで誾千代を見る。


「・・・誾千代、今日から俺を鍛えてくれ!」

「なっ?」


 直人は誾千代の動揺を無視し続ける。


「少しでも強くなりたいんだ、でも今の修行じゃ駄目だ、俺もっと強くなるよ、それで絶対倒されない主(ロード)になる、そうすれば誾千代だって俺に気にせず戦えるだろ?」


 誾千代は目を泳がせ、返答に困る。


「・・・しかし・・・それは・・・・主(あるじ)と戦うなんて、ケガでもさせたら・・・・・・」

「大丈夫だ、それに俺を主(あるじ)とかいうふうに思うな、俺らは仲間で同格だ・・・・つうか、誾千代、いつのまにか直人って呼び捨てにできてるじゃないか」


 誾千代は赤面し首をブンブンと横に振り、必死に弁解する。


「ちっ・・・違います、こ・・・これは直人がしつこく言うから思わず、直人が許すのならいつでもロードなり殿なり直人様なりご主人様なりなんでも・・・・」

「いや、最後のは違くねえか?」

「・・・・うぅ・・・」


 誾千代は口を閉じ、視線をそらす。


「とにかく、今日から頼むぞ、ついでにタメ口も」


 返答に困っていた誾千代も直人の覚悟が確かなものであるとわかると視線を直人に戻す。


「わかった、そのかわり、私は厳しいから、覚悟するように」

「おう、まかせとけ!」


 直人は誾千代の前で力強く握り拳を作り、それを見る誾千代はどこかうれしそうだ。

 すると後ろの方から若い男の声が聞こえる。


「あああぁぁぁぁ!!俺のマイカーがああああぁぁ!!ちくしょう、昨日は橋の上に停めておいたら橋ごと崩れているし、二号車は爆発かよ・・・・!!」


 二人が振り返るとそこには爆発し、黒こげになった愛車に泣きつく若い男の姿がある。

 二人はゆっくりと回れ右をすると全力でその場を走り去った。

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