第13話 戦乙女に負けるウザ男子



「なあ、さっき俺と戦うとかなんとか言ってたよなぁ?いいぜ、そのかわり俺が勝ったら明日俺に付き合え」


 すると誾千代は山上をにらみ、冷たい声を浴びせる。


「自分の力によほど自信があるようだが、未熟な力とおごりは身を滅ぼすぞ」

「・・・なっ・・」

「勝負はするがこちらが勝ってもあなたは何もしなくていい、もとから賭けが成立するような試合ではないからな」


 それを聞くと山上は眉間にしわを寄せ、頭に青スジをたてる。


「・・こっ・・・この女、殺してやる!後で謝っても許さねえからな!」


 誾千代は余裕をたっぷりと込めた声で。


「では、始めよう」


 と言った。

 二人は薙刀を構え、薙刀部の部員が開始の合図をする。


「始め!」


 薙刀が消し飛ぶ。自分の薙刀を見た山上は薙刀を床に叩き付け怒鳴る。


「お前、直人の道場の奴だろ!だったら竹刀で闘え!!」

「ひでっ!さっき自分で三倍の実力ないと互角に戦えないって言ったじゃん!」


 剣道部員たちから次々とブーイングの声が聞こえるが誾千代は冷静に、そして少しうれしそうに不敵な笑みを浮かべ、竹刀で闘う事を了承した。


 山上は勝利を確信するが、始まりと同時に誾千代は山上の薙刀と防具を破壊し、山上は床を綺麗に転がり壁に激突し、気を失った。


 それからは運動部の生徒達が現れ、誾千代を連れまわし、何事もなかったように事は進んだ、サッカーではシュートをしようと蹴ったボールが引き裂け、裂けなかったボールは見事にゴールの端に命中させる、野球では全てホームラン、バスケはダンクシュートを連続してきめる、最後には陸上部で百メートルを三秒とかからないスピードで走った。


 これは時計の測り間違いだと言って誤魔化したが幅跳びに誤魔化しはきかない。


 誾千代の身体能力を考えれば何十メートル跳ぶかわかったものではない。


直人は早く帰らないと門下生達が来ると言って誾千代の腕を掴み、そのまま下校する。


 後からはもう少しだとか待てだとかいうみんなの声が聞こえる。




「まったく、今日は大変な一日だったよ」

「すいません、直人殿に迷惑をかけるつもりはなかったのですが・・・・」


 直人は誾千代の申し訳なさそうな顔を見ると彼女を責める気がなくなり、何も言わないことにした。そして直人は誾千代の顔から服装へと視線を落とす。昨日と同じ、Tシャツにジーンズ姿。直人は言った。


「ねえ誾千代、今度スカート履かない?」

「お断りします」


 その言葉に直人が肩を落とした次の瞬間、巨大な殺気が二人を襲う。

 直人は木刀を構え、誾千代は直人の前へ移動する。

 前方の曲がり角から二人組みの男が姿を現す。一人には見覚えがある。

 細目に茶髪、その男は昼間、誾千代に打ちのめされた薙刀部の主将、山上だった。


「よう直人、昼間はどうも、でもおかげでやっと獲物を見つけられたよ」


 山上は怪しく笑った顔で直人をにらみつける。


「な・・・なんの話だ?」


 ネバついた、嫌な声で、それでいてどこか自慢げに話す。


「隠すなよ、まさかとは思ったけど、その女の強さ、そいつスレイヴなんだろ?腕輪は俺と同じで服の袖でうまく隠しているみたいだけどな、あんな強さを見せつけられちゃあ、ばればれだぜ」


 今の会話から山上がロードであることがわかる、そうなるとその横にいる男が山上のスレイヴということになる。


 山上のすぐ隣にいる男は浅黒い肌をした、二メートル近い大男だった。彼の右手には巨体に見合った巨大な薙刀が握られている。しかし、直人を一番釘付けにしたのは彼の巨体でも武器でもなく、彼の着ている着物だった。


「その着物・・・まさか・・・・」


 山上はにやりと笑い、直人を見る。


「そうさ、こいつは新撰組、監察・・・・山崎(やまざき)烝(すすむ)だ!!」


 その言葉を言い終えた瞬間、山崎が直人に襲い掛かる。


「いけぇ山崎!直人とその女を殺せ!!」


 山崎は山上の言うがままに動き、何も言わずただ直人に向かって斬りかかる。誾千代が意識を集中させると刀と山吹色の甲冑が現れ、彼女は一瞬で武装した状態になる。


 そして直人に薙刀の刃が到達する前に誾千代がそれを刀で受け止める。


「なにやってんだよ山崎!そんな女さっさと殺しちまえよ!!」

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