第12話 絡んでくるウザいやつ

 抜群のスタイルに直人の古着を着たとびきりの美少女、まぎれもない、神弥直人のスレイヴ、立花誾千代だ。


「誾千代!?家にいろって言っただろ!」


 直人が誾千代に駆け寄ると誾千代は少しムッとした態度で直人に言う。


「何を言っているんですか、私はあなたが忘れたお弁当を届けに来たんじゃないですか」


 直人は右手を額に当て、ため息をつく。


「それは誾千代のお昼だよ、俺はちゃんと自分の分は持ってきている」


 それを聞くと誾千代は慌てふためき必死に謝る。


「・・す・・すいません、直人殿のいい付けを破ったどころかとんだ誤解を・・・」

「・・・・もういいよ、ちゃんと言わなかった俺も悪いし、いいから帰ってくれ」


 しかし、人生はそんなにうまくいくものではなく、直人の前には人生の壁や罠どころか鉄柵が迫る。

 それは二人の生徒の問いで始まる。


「神弥、その人は誰だ?」

「家にいろとか弁当とか、まさか同居人?」


 直人は冷や汗をかきながら一歩、後ずさり、昨日、誾千代と一緒に考えた設定を必死に思い出し口にする。


「えっと・・・こいつは立花誾千代っていって父さんの内弟子なんだ、ほら、今、俺の父さん旅に出てるだろ?旅先で弟子にしたらしいんだ、それで親父よりもさきに家に帰ってきて我が家に慣れさせようと・・・・」

「じゃあ学校はどうしたのさ?」


 見落としていた設定を聞かれ、直人はとっさに答えた。


「・・・・えっと、実は誾千代の学校はまだ春休みなんだ」


 馬鹿だ、家の事情で学校には行っていないのほうが後々動きやすいし今のを信じる者などいるはずがない、今は四月の下旬、まだ春休みが続いている学校なんてあるわけがない。


「あっ、なーるほど、そりゃ納得だ」


 周りの生徒達もうなずき、直人は心の中で保護者の方々に、皆をバカに生んでくれたことに感謝した。


「でも今時、内弟子なんて珍しいよな、立花さん、剣の腕は?」

「剣の腕になら自身があるぞ」


 誾千代が誇らしげに言うと直人と同じ三年生が軽いノリで試合を申し込み、誾千代は直人に視線を向ける。周りは突然現れた美少女の戦いに興味深々の様子、さすがに直人もこの状況では断りづらい。


「わかった、ほどほどにな」

「おまかせを」


 二人は道場の中央に移動し竹刀を構え、他の部員が始まりの合図を掛けようとする。


 誾千代に戦いを挑んだ部員の魂胆はみんなわかっている、試合をすることで誾千代に自然に近づき、試合に勝てば滅多にいない美少女に自分の存在をアピール出来る。しかし、開始の合図とともに彼の竹刀は消し飛んだ。


「・・・・!?」


 生徒達の時間が止まり、直人はやっちまったとため息をつく。


 剣道部員の竹刀は始まりの合図とともに刀身部分が消し飛んでいる。切り口は滑らかで刀身部分は道場の隅に転がっている、誾千代は竹刀で竹刀を切り裂いたのだ。


 時間が止まって数秒後、途端に沈黙が崩れ歓声が上がる。


 生徒の一人が誾千代に問い掛ける。


「強すぎだろ、一体誰に習ったんだ!?」

「基本的には父からだがそれ以外にも数人の師匠から教わった」

「数人って、そんなに師匠がいるのか?」

「ああ、武芸以外にも華道や茶道の師匠も含めれば十人近い師匠がいるはずだ」


 誾千代のその言葉が引き金だった、もう直人ではみんなを止められない、その後、誾千代は道場と学校を引っ張りまわされ、柔道部、空手部、弓道部、そして華道部と茶道部の主将を圧倒的な実力差で打ち負かしたのだ。


 誾千代の時代の女性は美人であることはもちろんだがその他に華道や茶道、日本舞踊や琴をいかに上手く出来るかというのがモテる大事な要素だったため、姫君たちは皆これらを習っていた。


 誾千代の父、立花(たちばな)道雪(どうせつ)は誾千代に武芸は教えたが婿を取る予定だっためにこれらの技術もしっかりと習わせたのだ。


 今とは違い、これらが盛んな時代、それも九州を二分していた大友家の重鎮の娘ともなれば、それこそ、その道の達人からみっちり技術を仕込まれているはず、現代の、それも学校の部活程度にしかやっていない生徒達が勝てるわけがない。


 極めつけは剣道部と犬猿の仲とも言える薙刀部との戦いだった。


 誾千代がひととおりの部活をまわり、道場に戻ってくるとすぐに道場の扉が開き、薙刀部の生徒達が入ってくる。


 そしてそのなかで目の細い茶髪の男子が口を開いた。


「やあ、未だに刀剣類を使っている剣道部の諸君、弱小のくせに練習かい?」


 道場に皮肉をたっぷりと込めた声が響く。

 その瞬間、剣道部員たちの中から山上が来たとひそひそ話しが聞こえる。

 やがて一人の剣道部員が男に詰め寄る。


「うるさい、いつも主将に負けているくせに」

「いくら主将が強くても他が雑魚じゃなあ、そもそも剣道三倍段って知ってるだろ、刀剣類は槍や薙刀みたいな長物と互角に闘うには三倍の実力が必要なの、そんな弱い武器にしがみ付くなんて、惨めだねえ」


 剣道部員たちが何も言えず黙っていると誾千代が直人に問い掛ける。


「直人殿、彼とも戦わなくてはいけないのですか?」


 誾千代の存在に気付くと途端に山上は上機嫌になり。


「おっ、こちらの美しいお嬢さんは?」


 と聞く。


「うちの道場の内弟子だ」


 山上は誾千代に近づき顔をじっくりと見る。


「なあ、さっき俺と戦うとかなんとか言ってたよなぁ?いいぜ、そのかわり俺が勝ったら明日俺に付き合え」

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