第11話 学校と戦乙女
直人の通う多日中学(たびちゅうがく)の道場、そこでは直人を主将とした剣道部員達が練習に励んでいる。
しかし、直人はすでに中学トップレベルの実力者の上に元々剣道場の息子、部活には鍛えるためではなく後輩達を指導するために来ているのだ。
「あー、違う違う、それじゃあ人間の体は壊せても石や鉄は壊せないぞ」
「石・・・鉄?」
初めて直人の指導を受ける新入部員が疑問の声を上げる。
「いいか、素振りは左手を中心に振り上げて、振り下ろす時に手を内側に絞るんだ、ちょうど雑巾を絞るような感じで」
直人の言われたとおりにやろうとするが、やはり素人の後輩はうまくできない。
「うーん、やっぱりやって見せた方がわかりやすいかな」
そう言って直人が竹刀を振り上げると二、三年生達が期待を胸に直人のもとへ集まり、それにつられ一年生達も集まる。
その中の一人が直人の前にコンクリートブロックを投げる。
直人は投げられたのが木ではなくブロックであることを確認すると竹刀を一瞬で腰の木刀と持ち替え、今までの優しそうな目を細め、木刀を振る。その瞬間、ブロックは粉々に砕け散り、破片が宙を舞う。
二、三年生達はサーカスの芸を見るような顔で喜び、一年生達は驚愕し言葉が出ず、口は半開きのまま戻らない。
「ホラ、砕けたろ?」
「一般人はできませんよ!!」
「まあ確かに竹刀じゃ無理だな」
「いや、木刀でも無理ですって!!」
しかし一年生を無視して二、三年生は盛り上がり、直人に色々と面倒な事をやらせる話を進め、直人もいやいやながらそれを承諾した。
直人は仕方ないという態度で面倒臭そうに防具を脱ぎ、竹刀を構える。
その後、直人は速すぎて見えない高速の剣技や足捌きに始まり、同時に投げられた数個のボールが床に着くまえに弾き、角材や板切れを切り裂く。
そして最後に三年生八人と同時に戦い、それを一瞬で倒すという人間離れした芸当を見せる。
「大丈夫か?いつも悪いな」
そう言って直人は倒した部員たち一人一人に優しい笑顔と手を差し伸べる。
そうやって全員を起こし、辺りを見ると何人かの新入部員は腰を抜かし、その場に座り込んでいた。
「す、すごいですよ主将!プロでもこんな人いませんよ!」
鼻息を荒くし、興奮する後輩に直人は冷静に答える。
「ありがとう、でも、俺よりも強い奴はたくさんいるぞ」
先日は相手が過去の戦士(スレイヴ)の義経だったためかんたんに負けてしまったが、直人は中学生どころか世界的にもトップレベルの強さを持っている。
現代の人間が相手ならまず負けることは無い。
それでも直人にとって義経に負けたのは辛い、例え相手が過去の英雄だろうと一人の戦士として負けたのには違い。
昔から自分よりも強い戦士はいるはずだと思ってはいたがあそこまで強いのはさすがに予想外だった。
強さへの欲求などとうの昔に捨てたはずだった。昨日も学校で外を眺めながら思ったはずだ。最強になんかなれるはずはないと。今の時代、強くても何の意味もないと。
なのに、誾千代と会った時からだろうか、いつのまにかこんなにも強くなりたいと思っている。
とは言ってもスレイヴのことを後輩達に言えるわけも無く、後輩達は直人が最強だと信じきり、直人は苦笑いをする。
「じゃ・・・じゃあみんな練習に戻れ」
直人の言葉で部員たちは散らばり、しばらくすると、今、剣道部と道場を二分して使っている空手部に代わって、午後から道場を使う柔道部員の会話が直人の耳に入ってくる。
「なあ、さっきの女の子、マジかわいかったなあ」
「アイドルかモデルじゃないのか、最近中高生でもそういうのいるじゃん」
「なんでそんなのがうちの学校に来るんだよ、でもあの容姿ならありえなくも・・・」
「でもTシャツにジーンズって、私服だったよな、じゃあここの生徒じゃないだろ?」
「顔だけじゃなくスタイルも良かったよな」
女に飢えた男子達の会話に直人の第六感が反応する。
この辺で男子達をここまで熱くさせる未確認の女の子、心当たりは一人しかいない、直人はそれを全力で否定しようと努力するが。
「おい、さっきの子こっちに来るぞ」
直人は、気のせい気のせい、と何度も小声で唱え続ける。
「直人殿、ここにいましたか」
直人と周囲の生徒達の時間が止まる。
直人はキリキリという音が聞こえてきそうな動きで後ろを振り返る。
「探しましたよ直人殿、ここは人が多いので直人殿の気配を探るのに苦労しました」
抜群のスタイルに直人の古着を着たとびきりの美少女、まぎれもない、神弥直人のスレイヴ、立花誾千代だ。
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