第10話 つながる想い



 学校への通学途中にある信号、そこに直人の姿を見ると晶は思わずその名を口にする。


「・・・・・直人」


 晶は思わず言ってしまった言葉を遮るように口を手で押さえたがもう遅い。


 直人は振り向き晶を視界に捕らえる、晶は何も言わず、直人のすぐ横に並び、信号が青に変わるのを待った。その時の晶にいつもの明るさはない。


 二人は何も言わず黙っていたが不意に直人が口を開く。


「お前、義経のロードなん・・・だよな・・・・?」


 晶は反射的に知らないフリをしようかと考えたがすぐにそんなのは意味がないと悟り、だまって頷く。


 幸い、休日の今日は通学路に通行人がいないため、スレイヴの事を話しても問題は無い。


「・・・安心しろ」


 その言葉に晶が直人を見上げる。


「昨日、誾千代と決めたんだ、絶対義経を倒すって、そしたらお前はロードをやめられる、これまで通りに生活できる・・・」


 晶がなんと言えばいいのか悩んでいると直人は晶の頭に手を置き、まかせろと言った。信号が青に変わり、直人は歩き出す。


 自分よりもずっと高い背、大きな手、太い腕、そして自分などかんたんに背負われてしまいそうな広い背中、やはりその事実は辛いが、ただ今は少しだけ、直人に自分は元気だと伝えたくて。


「スキあり!」


 晶は走り出し、直人を追い抜く時に直人の足を払う、直人は派手に転び、ぐえっ、とわざとらしく声を上げた。


 もちろん直人はわざと蹴られたし晶もそれはわかっている。それでも晶は直人をちょっとからかいたかったのだ。


 倒れたまま、なにをするんだ、と言う直人に晶は舌を出してかわいく笑うと直人の髪をつかみ、上半身を無理矢理起こす。


「今のは、今まであたしを、ないがしろにしてきた罰、中学になってから男子とばかり話してやがって、このやろこのやろ」


 晶は自分の拳を直人の頭にぐりぐりと押し付け、直人は頭の痛みで騒ぐ。


「ちょっ、やめろって、しょうがないだろ、女子と話してたら他のやつらうるさいし・・・」

「まわりは関係ないの!いいから、これからはもっとあたしと遊ぶこと、わかった?」


 晶は直人を人差し指でビシッと指差し言い放つ。その姿に直人は微笑して立ち上がる。


「わかったよ、今まで悪かったな、つっても来年には高等部に移るから中等部にいられるのは、あと一年だけなんだよなあ・・・・」

「だったら三倍の密度であたしと遊びなさい!」

「でも史上最強を決める戦いが・・・」


 晶がずいっと顔を近づける。


「じゃあ今すぐ終わらせなさい!」

「無理をおっしゃる・・・」


 直人が呆れたように言うと晶はクスクスと笑い。


「安心しろって、あたしが強いの知ってるだろ?義経なんてあいつが寝ているスキにたおしてやるさ」


 と鮮やかな声で楽しそうに言う。ようやくいつもの調子が戻ったようだ、晶ははじけるような笑顔を直人に向け、拳を突き出した。


「ほら、部活なんだろ、早く行こ」


 晶は何か特別な考えがあったわけではなく、ただそうしたくて自然と直人の手を握り、走り出した。ほんの一握りの小さな面積だが、それでも晶はまるで直人に抱きしめられているかのように直人を感じることができた。


 直人は楽しそうに自分を引っ張りながら走る晶の姿をうれしそうに見続けた。



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