第7話 小学生最強VS高校生最強


 あの時・・・・・少年は最強を目指していた。

 



 三年前、直人と晶が小学六年生の時の話だ。


 直人は学校の帰り道で彼の存在を面白く思わない生徒達に襲われている。


 こういった類の人間は大抵、体育の時間を得意とし、スポーツ関連で活躍し、自己顕示欲を満たす。


 しかし、この時直人は世界最強とはいかないがすでに大人の剣術家達と並ぶ強さを持っていた。その身体能力を使えば体育の時間に目立つのは直人、昨年まで活躍していた彼ら不良連中が直人を怨むのにそう時間はかからなかったのだ。


 といっても大人と子供以上も身体能力に差があるのだ。襲うといっても直人は彼らの攻撃を余裕でかわし、どうやってあしらおうかと考えている。


 もう直人が襲われ始めてから五分が経過しようとしている。


 不良達は息を切らし、もうガタガタの体勢で無駄な行動を続ける。


 直人が自分を取り囲む連中の一人を転ばせ、その隙間から逃げようと決めた時、遠くから掛け声が聞こえ、その一秒後、晶のとび蹴りが炸裂する。


「どりゃあああぁぁ!!」


 ぐおっ!、と声を漏らし不良の一人が倒れる。


「あんたらまたやってんの?直人をいじめる奴はこのあたしが許さないよ!」


 直人が余計な事をと思いながら呆れ顔で言う。


「おいおい、今のをどう見たらいじめられているように見え・・・」


 そんな話を聞く晶ではない、馬の耳に念仏というべきか、晶はもう不良達と派手な大乱闘を始め、すでに三人を倒している。


 一分もしないうちに不良達は公共の面前で無様な姿をさらし、晶は得意げにその中のリーダーである山上の背中に足をのせ、直人に向かってVサインをして笑っている。


 直人はやれやれとばかりにため息をつくと晶と並んで帰る。


 その後ろ姿を晶に倒された上に足で踏まれた山上が歯ぎしりをし、腹の中で憎悪の炎を燃やしながらにらみつける。


「・・・ちくしょう・・・大場のやろう・・・・・!!」




 次の日の土曜日、直人が昼食をとる前に一人で庭掃除をしているとそこへクラスメイトの一人が庭に走りこんでくる。


「神弥!・・・・早くきてくれ!大場が大変なんだ!」


 息を切らせ必死にまくしたてるクラスメイトに直人は十二歳とは思えないほど冷静に対応する。


「晶がどうかしたのか?」


 クラスメイトは大きく息をして呼吸を整える。


「山上のやつが・・・・兄貴連れて大場に仕返しするって・・・公園に・・・・・」


 それを聞いた途端、直人は顔色を変え、歯を食い縛る。


 クラスメイトが直人に早く行くよう言おうとすると直人はすでにその場から立ち去った後だった。先ほどまで直人の立っていた地面は軽く削れている。


 直人は中学陸上の短距離走選手にも迫るほどの速さを維持し走り続ける。


 最初は通行人たちをなんなくかわすが一分もしないうちにしびれを切らし、直人は誰もいない道路の端を走り出す。


 目の前にはまだ赤い信号、そこで大きな跳躍、それで直人は走る車たちを飛び越えその場をやり過ごす。


 街の人々は皆、直人に視線をやり、あれはなんだと不思議がる。


 その中を少年剣士は今まで人前で押さえ込んでいた身体能力を爆発させ、町の風を切り裂き進む。全ては晶のために・・・・。





 直人達が遊ぶのによく使っている公園、そこに晶と山上、それに高校生くらいの男がいる。晶は二人の前に倒れ、傷だらけの体で必死に立ち上がろうとする。


 そこに高校生の手に握られた木刀が振るわれる。


 直人の木刀がなんとかその間に割って入り、山上とその男は二人から少し離れる。


「・・・・晶!」


 直人が晶を抱き起こし仰向けに寝かせる。すると晶は半開きの目に涙を浮かべ言う。


「・・・・直人・・・あたし・・・・・負けちゃった・・・・・」

「・・・・晶・・・・」

「なんだ直人、お前まできてくれるなんて、これでわざわざ呼び出す手間がはぶけたぜ」


 どこまでも悪意に満ちた嫌な声、それと同じ質の声が続けて直人の耳に届く。


「ちょうしこいてるガキってのはこいつか?」

「そうだよ、兄貴、早くこいつぶっ殺してくれよ」


 直人は立ち上がり二人をにらみつける。


「自分が勝てなきゃ兄貴に頼むのか、どこまでも卑怯だな」

「はっ、何言ってんだよ、これも俺の実力だろ、強い仲間がいないからって負け惜しみ言うなよ、俺の兄貴はな高校生剣道の全国大会で優勝してんだぞ」


 山上の兄は木刀を肩にかけると得意げに直人を見下ろす。


「おまえ、剣道場の息子なんだってな、じゃあ剣道の先輩として日本最強を見せてやらなきゃなあ!!」


 男は木刀を直人に向かって振るが直人はそれをなんなくかわす。男は驚き、何度も木刀を振るがその全てが直人にかわされる。


 直人は普段のやわらかい目に殺意を乗せ、男をにらみつけると攻撃をかわしながら何度か木刀で打ち付ける。


 そのたびに男は痛みと悔しさで顔を歪ませる。


 さらに直人の攻撃は木刀だけではない、中に拳や蹴りが男を襲い、足を払い転倒させる。


「てめえ、剣道で打撃なんて使わねえぞ!!」

 男の怒りに満ちた声、それに直人は冷たい怒りのこもった声で応える。

「何言ってんだ?これは試合じゃない、実戦だ!」

「ちくしょう!クソガキが!」


 高校最強の渾身の一撃、小学生の直人は必要最小限の動きでそれをかわすと強烈な突きを男の胸につき立てる。


 メキ

 骨にヒビが入る嫌な音、男は苦しみ歯を食い縛るが倒れない、日本最強というプライドが男を無理矢理動かすのだ。


 しかし男がどんなに木刀を動かそうと直人に攻撃は当たらない、直人には全ての攻撃が見えている。


 直人の流派は剣道ではなく、戦国時代から戦場で使われてきた神弥流殺人剣、剣道のように防具を身に付け竹刀で練習などしない、直人は物心つく前から鉄の兜も切り裂く鋭い刃がついた日本刀、真剣で父と斬り合ってきた。防具などない、そして試合ではなく斬り合い、剣術界最強と言われた父の放つ殺気の海の中で直人は毎秒刀の刃が薄皮一枚かすめていく恐怖と戦いながら終わりの無い斬り合いを続けてきた。


 常に死と隣り合わせなのではない、常に死を背負って生きてきたのだ。


 その修行内容は過酷や辛い、厳しいといった人間の言語で伝えきれるものではない、人間の体の構造上、一日の間におよそ強くなれるであろう分を強くなり続け、肉体と本能は限界まで強さを求め続けた。


 いかに小学生といえど直人は現代のスポーツ化した格闘技がかなうような強さを越え、達人達の世界への扉に手をかけ始めている。


「ちくしょう!俺は日本最強になるんだよう!てめえみたいなクズに負けられねえんだ!」

「日本最強で満足か、じゃああんたは俺に勝てねえよ」

「だったらてめえは何になるんだ!!」


 男は型も何も無い、ただ怒りと力に任せた一撃を直人に向かって振る。

 直人は岩のように固く、氷のように冷たく、そして鋼の刃のように鋭い心で木刀を振る。


 直人の攻撃は男の木刀を破壊しそのまま男の右肩を粉々に砕いた。

 男は悶絶し、その場に倒れ伏す。

 そこに直人の声が染み渡る。


「俺は、史上最強しか目指してないよ」


 直人は今まで人前で隠していた全ての戦闘能力を解放し、山上の兄と戦った。そして山上が右肩を押さえながら苦しむ兄に駆け寄ると直人は今まで一般人には使わなかったもう一つの力解放する。


「!!?」


 その途端、山上兄弟は背骨が引き抜かれたような感覚に襲われる。


 歯をカチカチと鳴らしながら直人を見るとそこには今までに感じたことも無いほど殺意に満ちた目でにらむ直人がいた。


 長年の死を背負った生活で磨かれた本能、文明に支えられた人間がおよそ持てる容量を遥かに超えた殺気、普段は父と戦うときにしか解放しない闘争本能の全てを解放し、二人に向けて放つ。


 山上兄弟はまるですぐ目の前に核ミサイルが迫っているような恐怖に精神の全てを殺されそうになる。


 直人が二人を殺しにかかる。


「二度と晶に近づくな!!!」


 それだけで二人は気を失う。





 直人は晶を抱き上げるとそのまま自分の家まで運ぶ、晶は恥ずかしいからやめるよう言ったが、直人の自分を心配する顔を見ると黙ってその身を直人に預けた。


 しかし、家に向かって歩き始めて五分も経つと晶はモゴモゴと口ごもりながら言う。


「・・・直人・・・その・・・やっぱおろして・・・・歩けるから・・・・」


 それを聞くと直人は晶に気を使いながら彼女をおろす。晶は恥ずかしさで赤らめた顔が直人に見えないよううつむいて歩くがやはりそれも続かず、今度は五分どころか一分もしないうちにすぐ隣を歩く直人の腕に抱きつき、赤い顔を押し当てる。


「・・・・直人・・・今日のお前、すごいかっこよかったぞ」


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