第6話 現代に蘇った英霊たち
直人は家に着くと誾千代の鎧を脱がし、布団に寝かせた、最初は血を拭いたりケガの治療をしようとも考えたがさすがに女の子の着物(ふく)を脱がすのには抵抗があったため、それはしなかった。
緊急事態ならしたかもしれないが出血じたいは止まっている。
ならば戦闘とケガによる疲労と考え、休ませれば気がつくだろうと思ったのだ。
その後、直人は義経の攻撃を受けた胸と腹部の痛みに耐えながらなんとか今日来る門下生達に剣道を教え終わり、誾千代を寝かせている部屋に戻る。
ただ、教えたといっても誾千代のことが気になってあまり集中できなかったというのは言うまでもない。外は暗く、もう一番星がその姿を現している。
部屋の障子を開け、部屋に入ると誾千代はすでに起きており、直人を正座姿で迎えた。
そのまま直人に頭を下げる誾千代に直人はそんなにかしこまる必要はないと言いながら内心、誾千代の寝顔を見れなかったことに少々肩を落とす。
直人が誾千代の前にあぐらをかいて座り、状況の説明を求めると誾千代は頭を上げ、説明を始める。
「では一つ目、私と先ほど戦った男だが・・・」
「たしか義経って言っていたけど、まさか・・・・」
「ああ、我々は死後の世界から蘇った戦士だ」
「過去から蘇った?じゃああいつは・・・・」
「そうだ、あの者は源氏と平氏の戦いで活躍した源氏の英雄、源義経(みなもとのよしつね)本人だ」
直人は驚き目を大きく見開く。
「そして私の名は、その腕輪を見ればわかると思うが、立花誾千代という、と言っても誰だかわからないだろうな」
「ああ、わるいけど知らない」
直人のあまりに素直な返事に誾千代は少し落胆する。
「私はあの雷の化身と言われた立花道雪(たちばなどうせつ)の一人娘、と言えばわかるか?」
それを聞いた途端に直人は慌てたように喋り出す。
「って、あの三十七戦無敗の猛将、立花道雪!?」
「あ・・・ああ、そのとおりだ」
それを聞いて直人は昔読んだ本に誾千代のことが書かれていたことを思い出す。
といっても「道雪には誾千代という一人娘がいた」という一文があっただけである。これでは知らないのも無理はない。
「言っておくが信じられないというのは困る。もし否定するのなら、それはあの惨劇をも否定することになるのだからな」
直人は誾千代の言葉にハッとした、そう、自分は覚えている、あの光りの刃、そしてその刃によって殺された不良達、自分に襲い掛かってきたあの殺気、重圧。
「・・・・っ・・確かに、本当みたいだな、じゃあ次に、なんでお前達過去の戦士、英霊が生き返ってるんだ?」
すると誾千代はいままでよりもさらに真剣な顔で話し始める。
「史上最強を決める戦い・・・・それが生き返った理由だ」
「・・・・なっ!?・・・し、史上最強!?」
直人は思わず立ち上がり叫び、誾千代は冷静に話を続ける。
「そうだ、死後の世界から最強の可能性がある英霊、九百九十九人が現代に生き返り、最後の一人になるまで殺し合い、世界の歴史上最強の存在を決める」
あまりの衝撃に直人は言葉を失う。そんな直人の反応をよそに誾千代はさらに衝撃的なことを言う。
「そしてこの戦いの優勝者には史上最強の栄誉と共に送られる賞品がある」
「賞品?」
「ああ、その賞品は・・・・」
「・・・・・」
直人の心臓が強く脈打ち、額からは汗が流れ始める。
「この二十一世紀での第二の人生だ」
「・・・なっ!?そんなこと誰が!?」
直人は思わず誾千代に詰め寄る。それほどに誾千代の言葉は衝撃的だったのだ。
「それは分からない、ただ私達は霊界での記憶がなくなり、心の中に響いたというか、とにかくこの戦いの事を理解したんだ。そして次の瞬間にはこの世に生き返っていた」
直人は沈黙し、その場に座りこむ。
「ただし、ただ戦えばいいというわけではない、生き返ったといっても完全にではない、生き返れるのはあくまでも優勝者のみ、我々はまだ仮の命を授かったに過ぎない。そのため我々は魂と肉体との同調が不完全だ」
「同調?」
「体を支配するのは魂、その魂と肉体が同調していないということは体が思い通りに動かず、筋力も本来の何割かしか発揮できない。それを完全な物にし、生前の力を取り戻す方法、それがその腕輪だ」
誾千代は直人の右手首にはまっている銀色の腕輪を指差す。
「その腕輪には私とあなたの魂をつなぐちからがある、あなたがたは今、この時代に生きている人間、当然、魂との同調率も完全だ、それにより我らの同調率も完全なものになり、本来の力を発揮できるというわけだ。そして我々は腕輪、リングの持ち主を主としてその者の家臣となる、この戦いでは主をロード、家臣をスレイヴと呼ぶ」
「へー、でもなんで俺を選んだんだ?」
「いや、それには装備者が限られていて、人の魂にはそれぞれ属性があり、それが同じ者でないと魂を繋ぐことが出来ないんだ、ただ魂の属性は無数にあって、自分と同じ属性の者は世界に数えるほどしかいない」
直人は右腕の腕輪(リング)を改めて見直す。すると誾千代はうつむき、申し訳なさそうに言う。
「ただし、この戦いはあなたがた主(ロード)にはなんの報酬もない、腕輪の持ち主に選ばれた現代の人間はスレイヴ同士の戦いに巻き込まれるだけ、だから、あなたが嫌ならば、別の人間を探そう・・・・・・・」
そこで誾千代の言葉は途切れてしまう。誾千代の言うことはわかる、もしここで誾千代の持つ腕輪(リング)の持ち主になることを了承すれば自分は史上最強を決める戦いに巻き込まれ、今までのような平穏な生活をおくれなくなる。
なによりも数時間前に行われた戦い、あんな戦いに巻き込まれればいつ死んでもおかしくはないだろう。
しかし、ここで誾千代の主になるのを断れば困るのは誾千代だ、女性といえど彼女も一人の戦士、史上最強の称号が欲しくないわけが無い、もし直人が断れば誾千代は世界に数えるほどしかいない別の主を探さなければならない、その間、誾千代は本来の力が出せない、新しい主が見つかる前に他のスレイヴに倒されてしまう可能性は十分にある。
つまり直人が断れば彼女の夢を奪うことになるのだ。
なによりも、直人自身、一人の剣術家としてこの戦いに興味が湧いた。ならば迷う必要は無い。
直人は視線を腕輪(リング)から誾千代へと移す。
「やらせてもらうよ」
「!?」
誾千代は顔を上げ、直人を見る。
「い・・・いいのか?もう一度言うが、あなたには何の・・・・・」
誾千代がそこまで言うと直人がその言葉を遮るように言った。
「わかってるよ、だけど断ったら誾千代、困るだろ?大丈夫、俺、こう見えても現代じゃ強いほうなんだぞ、少なくとも他のロードに遅れははとらないさ」
直人がそう言って優しく笑うと誾千代は少し驚いた顔をしたが、やがて顔をほころばせ直人に深々と頭を下げ礼を言った。
「じゃあ、俺は神弥流剣術、二十代目、神弥直人だ、よろしくな」
直人は誾千代に右手を差し出す。
「大友家家臣、立花家城主、立花誾千代です、ロード」
そう言って誾千代は差し出した直人の右手を握る。
ははははは、最高だよ誾千代、立花誾千代VS源義経、まさに夢のカードじゃないか、こんな戦いが世界中で行われるなんて、楽しくてしょうがないな、さあ、歴史上最強を決めるゲームのはじまりだあぁぁ!!
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