第8話 寡黙なる刃


 幼い頃、二人は友情を誓い合った、なのにいつしか友情は愛欲の炎に狩られ、一人の気持ちは愛情に変わった。そう、どんなに友情を誓い合っても、一人は男で一人は女だった。






 誾千代と出会ってから夜が明けた土曜日の朝、直人は深い眠りから覚める。


「・・・・朝か・・・・昨日はすごい夢見ちゃったなぁ、でも随分リアルな夢・・・・・」

目の前に誾千代の顔が出現する。

「直人様、おはようございます」

「!~~!!?~~?・・・ぎ・・・誾千代!?」


 直人は心に銃で撃ちぬかれたかのようなショックを受けて驚く。


「はい、直人様が起きたようでしたので挨拶をしに参りました」


 誾千代の顔を直視したため、直人は昨日の記憶が蘇り、やや赤面した。


 誾千代が一緒に暮らすことが決まってから直人は苦労の連続だった。


 現代で暮らすのに鎧の格好ではマズイので母親の服を着させようとしたが、誾千代は女らしい服を着る事を断固拒否、下着を身につけるのにはなんの抵抗も無かったが結局、服は直人の古着、特にTシャツとジーンズの組み合わせが気に入り直人の期待を打ち砕いた。


 さらに直人のことをロードと呼び直人を困らせた。


 直人でいいと言ってもそういうわけにはいかないと言い、説得すること数十分でなんとか直人様まで譲歩させることに成功、だが近いうちに直人と呼び捨てにさせ、敬語もやめさせるつもりだ。


 しかし、一番の問題は誾千代が自分の魅力に気づいていない、プラス、女性扱いされるのを極端に嫌がることだ。


 直人がため息をついたり赤面する度に体調が悪いのかと顔を覗き込み超至近距離会話が成立、直人が服を渡すと目の前でいきなり着替え、風呂に入れば主の背中を流すのは家臣の務めと言って風呂場に侵入、そして女の子がそんなことしては駄目だという度に激しく怒るのだ。


 誾千代の話では家督を継ぎ、城主となったその日から武士として、男の道を進むと決めたらしいがそんなの直人には関係ない。誾千代のせいで直人は何度も理性を失いかけ、その度に平常心を取り戻すのに一番苦労したのだ。


 そして再び誾千代の攻撃が襲い掛かる。


「顔色がすぐれませんが、具合でも悪いのですか?」


 直人を心配し、誾千代が突然顔を近づけてきたため、直人は驚き後ろに下がる。


「い・・・いや、大丈夫だよ、それと直人様は禁止、直人でいいって言ってるだろ」


 すると誾千代はくちごもりながら言った。


「・・・・・な・・・直人殿」


 やはり呼び捨ては抵抗があるようだがそうさせるも時間の問題だと直人は確信する。


「じゃあ茶の間でニュースでも見ながら待っててくれ、今、朝飯作るから」


 それを聞くと誾千代は部屋を出る。


 直人達は昨日、これからの方針について話し合うはずだったが実際は二人の生活スタイルについてがメインとなってしまった。


 誾千代は和食しか作れない上にガスコンロなどの扱いに慣れてないのでしばらくは直人が食事を作る。


 誾千代の寝る部屋は直人の部屋の隣のふすま一枚だけで仕切られている部屋、そして直人の身に何か起こった時すぐ守れるよう部屋を仕切っているふすまは指二本分開けておくこと。


 これに関して直人はかなりてこずった、直人は命を狙われているのに戦国時代の大名とは違い、家臣は誾千代一人なので一緒に寝て警護すると言い出したのだ。


 そして直人は再び女の子だからという地雷をふんでしまい、誾千代に文句を言われるはめになったのだ。


 そして昼間に闘えば目立つので昨日のように人通りの少ない所に行かない限り敵は襲ってこないだろうということで直人は学校に通い続けることが出来るようなった。これは下校時、誾千代が迎えに来るということでなんとか納得させたのだ。


 とにかく色々と問題はあるがせめて女としての自覚だけでも持ってもらいたいと思ったがそれを言った時のことを考えると言えるわけが無い。


 直人は誾千代の怒る顔を思い浮かべながら調理を始める。


 朝食を食べ終え、直人が学校へ行く準備を始めると誾千代が声をかける。


「直人殿、土曜日は学校がない日だと昨日言っていませんでしたか?」

「ああ、でも部活があるから、父さん達が旅に出ちゃって、俺が門下生を見なきゃいけないから平日は部活に出れなくなったんだ、休日ぐらいは顔出さないとな」

「昼食はどうするのですか?」

「お弁当作ってあるから大丈夫だよ、迎えは五時ごろに頼む、じゃ、行ってくる」


 そう言って直人は学校へ向かう。

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