第3話 現代剣士VS源平最強剣士


「ほう、一人残ったか・・・・・」


 直人が見た数メートル先には仕立ての良い着物の上に高そうな深緑の甲冑を着た侍が立っていた。


 髪はやや長めで綺麗な顔立ちをした青年だ、年は二十歳にいくかいかないぐらいに見える。その男の右手には鞘から引き抜かれ、夕日の光りを反射し、美しく輝く銀色の刀が握られている。


「これはお前がやったのか!?」

「そうだ、こちらの世界に来たばかりでな、準備運動代わりに死んでもらったが、ふむ、どうやらお前は多少なりとも武の心得があるようだな」


 次の瞬間、その男は刀を横に振る。

 すると男の刀から光りの刃が放たれ、それは直人に向かって直進する。

 直人はとっさにそれを竹刀で受けるがそれは竹刀を切り裂き、直人の胸に直撃する。


「・・・ぐぁ・・!!」


 直人は後方に飛ばされる。


 直人は苦しみながらも起き上がり自分の胸元を見る。


 すると制服は血で真っ赤に染まっていた。


 直人はその技に驚愕する、さきほどの不良達もこの技でやられたのだ。


 そして直人は今の一撃で悟る、この男には勝てない、格が、次元が違いすぎるのだと。

 直人は後ろに向かって走り出すが。


「何処へ行く?」


 目の前にはさっきまで反対側にいた男が立っており、直人を見下すような目でにらみ、冷たい声を浴びせる。


「早く武器を取れ、その布袋の中には、もっとましな物が入っているのだろう?」

「・・くっ・・・!」


 直人は横目で布袋を見るとすばやくその中から木刀を取り出し構える。


 なにも勝つ必要はない、せめてスキを作れれば逃げるチャンスもある。


 直人はそう考え、木刀を男に向かって振るが直人の木刀は男に届かない。


 男は直人の渾身の一撃を左手一本で受け止めている。


「やはり・・・現代の武人などこの程度か・・・・」


 男は刀の柄で直人の腹部を強打し、直人は後方へ飛ばされ、その場で腹部を抑え苦しむ。


「少しは楽しめると思ったのだが・・・・これで終わりだ・・・・・・・」


 男の刀が白い光りを帯び、直人はそれを見ると上半身を起こす。


 直人は一瞬で悟る、あれはあの飛ぶ斬撃を放つ準備だと、次にそれを出されたら終わりだ。男は白い光りをまとった刀を構える。


 今動かなければ死ぬ、直人は自分の体に何度も何度も「動け」と命じた。


 しかし直人は身動き一つ取れない、体が彼の言う事を聞いてくれないのだ。


 今動かなければ死ぬという現実が直人を襲う。


 直人はただ涙を流すしかなかった。


「・・・・・くっ・・・・」


 男の刀から先ほどよりも一回り大きな光の刃が放たれた。


 直人は残ったわずかな思考で思った。朝に見た夢はきっと正夢だったのだろうと。


 そしてもう目を開ける事はない、自分の人生はここで終わったのだと。


 しかし、不思議と痛みがない、痛みを感じる前に死んだのか、それもいいだろう、だが何かがおかしい、体を切り裂かれた痛みが触覚を襲うはずだが触覚は何も感じず、今一番刺激を受けているのは聴覚だ。


 さきほどから刃同士を擦(す)りあわせるような金属音がする。直人はゆっくりと目を開け、目の前に広がる光景を見た。


「・・・?」


 目の前には山吹色の甲冑に身を包んだ侍の背中があった。その侍が襲い掛かる光りの刃を自らの刀で受け止めているのだ。一度に十数人の命を奪った斬撃を刀一本で受け止める、その事実からその侍が直人を越える実力者であることがわかる。


 しかし、直人はその侍の後姿に違和感を覚えた。小さい、そして細い、その侍の腕や足、ウエストは直人よりも細く、背中は直人よりも一回りか二回りは小さい。


「はああぁぁぁ!!」


 侍は叫び、渾身の力で光りの刃に立ち向かう。

 次の瞬間、光りの刃は砕け散り、虚空に雲散霧消した。


「・・・・さすがに、この状態では弾くのも一苦労だな・・・・」


 直人はその声に聞き覚えがあった。その美しく凛とした声は夢に出てきた女性剣士のものだ。そしてその侍が振り返ると直人は言葉を失う、その侍の強さや夢の人物と同じ声と言う事実にではない。


 その侍の顔に言葉を失った、その侍は常識はずれの美少女だった、黒い、絹のような髪も、抜けるように白い肌も美しさなら間違いなく最高の部類に入るだろう。すくなくとも直人は今までに彼女ほど綺麗な人など、今朝の夢に出てきた女性武士を除けば見たことが無い。


 よく見ればその黄色い甲冑も夢の中の女性武士が身につけていたものだ。

 

 しかし、彼女の顔は夢に出てきた武士と似てはいるが夢の武士よりも少し幼さがある、歳は十四、五歳といったところだろうか。首元から下を覆っている鎧は軽量タイプなのかそれほど厚みはなく、彼女の手足の細さとスタイルの良さが一目で分かる。


「・・・・ふむ・・・どうやらケガはないようだな」

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