第4話 雷霆の戦乙女 登場


「・・・・ふむ・・・どうやらケガはないようだな」


 そう言う彼女の右手首には銀色の腕輪がはめられている、よく見るとその腕輪には赤い文字が書かれている、筆記体の英語だろうか、ゲームやマンガに出てくるような、なにか魔術的なものを感じる文字だ。そしてその文字は強い光を放っている。


「やはり、あなたが主(ロード)のようだ」


 彼女は左手でその腕輪を掴み、横に引く、すると腕輪は彼女の手首をすり抜けた。

そしてそれを直人の右手首に押し当てると今度は直人の手首をすり抜け、その腕輪は直人の手首にはまり、それと同時に文字は光を失い、ただの赤い文字になる。


 直人はその腕輪に少し驚く、本来ならここで彼女に状況説明を求めるのだが直人は彼女の美しさに見惚れ、それすらも忘れていた。


 次の瞬間、直人がなにげなく視線を腕輪にやるとさらに驚くことが起こる。

 直人は何故かその文字を読むことが出来たのだ。


「・・・・たちばな・・・ぎんちよ・・・・?」

「ああ、それが私の名だ、そしてあなたがそれをつけたことにより、私は本来の力を出せる、これであなたを守れる」


 その時、彼女のうしろには光りの刃が迫っていた。直人の言葉は間に合わない、しかし直人の言葉がなくとも彼女はそれの気配を感知し、一瞬でうしろを向くと再び刀を振る。


 彼女の攻撃を受けた光の刃はさきほどとはうってかわり、こんどはいともたやすく砕け散る。


 男は連続して刀を振る。今度は少し小さな光りの刃が次から次へと放たれる。


 彼女はそれを次から次へと払い落とし彼女の刀に触れた光りの刃は簡単に砕け散る。


 直人はその姿をただ見ていることしか出来ず。誾千代は敵の攻撃を砕きながら走り出す。


 超高速で移動しながらの攻撃、次から次へと襲いかかる刃を今までに見た誰よりも鋭く、誰よりも巧みに破壊する彼女の姿、それは直人の目にはこの世の誰よりも勇ましく、そしてこの世の誰よりも美しく見えた。


「すごい・・・・・」


 直人が感嘆の声を漏らす頃、誾千代は男のすぐ側まで近づき横一線に刀を振る。

男は後ろへ跳んでそれをかわし、誾千代と男は互いに刀を構えなおす。


「私は大友家家臣、立花家城主、立花(たちばな)誾千代(ぎんちよ)、参る!」


 それを聞くと相手の男は「ふっ」と小さく笑い言う。


「我が名は源義経(みなもとのよしつね)、いざ参る!」

「義経!?あいつ何言ってるんだ!?」


 直人の頭は次から次へと起こる出来事についていけなくなる。


 源義経、幼名、牛若丸、日本人なら誰もが知る源平の戦いで活躍した源氏の英雄、その冷酷無慈悲な作戦で平氏を打ち倒すがその後、兄に命を狙われ逃亡していこう消息がつかめないとされている。


 次の瞬間、誾千代と義経は一瞬で距離を詰める。


 刀の刃を交える激しい金属音、地球上の生物の限界をはるかに越える速さで二人の武器は踊り狂う。二人の戦う速さ、足捌き、体捌き、攻撃のタイミング、攻撃する箇所、その全てが現代剣術のそれを遥かに凌駕する。


 誾千代が義経を突く、義経はそれを右の脇腹で挟むと左手で誾千代の右手首を払う。


 しかし誾千代は刀を離さず、力任せに義経の体ごと刀を上に振り上げる。


 それと同時に義経は地面を蹴り、誾千代の予想以上に高く舞い上がる。


 義経は落ちながら誾千代に攻撃をする。


 全ての人間の死角である真上からの攻撃、誾千代はそれをいとも容易(たやす)く受け流した。


 義経は誾千代が刀を弾く衝撃を利用して彼女のすぐ横に着地し、二人同時に刀を振る。


 だが義経の刃は白い光りを帯びている。二人の刀が触れ合った瞬間、義経の刀が炸裂する。やられた、あの跳ぶ斬撃は遠距離からしかしてこないという先入観が誾千代の反応をコンマ一秒遅らせる。


 その光りに誾千代は一瞬、視界がきかなくなる。その隙に義経は誾千代を蹴り飛ばす。


 後ろへと吹き飛ばされる誾千代、空中では身動きが取れない、義経は吹き飛ばされる誾千代に追いつくと無防備な誾千代を再び、あの光る刃で襲う。


 今度も光りの刃は飛ばさない、義経は全エネルギーを誾千代の体に直接叩き込む。

 義経の刃は誾千代の鎧を突き破り、彼女の体に深く食い込む。


「~~~~!!」


 誾千代は悶絶し、気を失う。彼女の胸元からはおびただしい量の血が流れ出す。

 その光景を見た直人の瞳はさらに大きく開かれ顔には絶望の色が浮かぶ。


「フン、女風情が手間取らせおって」


 義経は誾千代から視線をはずし、直人を見据える。


「待たせたな、今度は貴様の番だ」


 義経は右手の刀に霊力を込め、直人に向かってゆっくりと歩み寄る。霊力を流し込まれた刀はうっすらと光りを帯び、直人に剥き出しの殺気を放つ。


 直人は恐怖で立ち上がれない、目は義経から離れない、体は言う事を聞かない、直人はただ自分を守ろうとした少女の生還を願い続ける。


 義経は直人との距離を詰める。やがて直人は義経の射程に入る。


 その間、誾千代は遠のく意識の中、自分が死んだときの事を思い出していた。


 父の仇をとるため、周りの反対を押し切り、敵と戦い、敵の策略にまんまとはまり、返り討ちにあう。それは直人が今朝見た夢と同じ内容だった。


 自分はまた死ぬのだろうか、そんな考えが頭をよぎる。前は仇を討つために、今度は新たな主を守るために、こんなにも早く、戦いはまだ始まったばかりだ、この戦いに勝利できなくてもいい、でも自分を殺したその男と戦うこともできず退場などできるはずがない。


 なによりも直人を、新しい主を死なせたくはない、彼はこの戦いはおろか、誾千代の事も知らず、主になったという自覚すらない、それでも主を死なすなど武士の魂が許さない。


 なのに誾千代の意思とは関係なく、彼女の意識は強制的に終わろうとする。

 その最後の瞬間、彼女の頭には死んだ父の顔が浮かぶ。


「終わりだ、現代の武人よ」


 義経が刀を上へ振り上げた瞬間、義経は背後に迫る殺気に気付き、うしろを向く。

「・・・・まさか!?」


 義経が振り返った先には上半身を起こす途中の誾千代の姿があった。


「貴様・・・・なぜ・・・!?」

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