第47話 続・日本オールスターズ!


 その頃、戦場の西に広がる森には、呉軍一万の死体が転がり、血の海が木の根に吸収されていく。


 呉兵の死体は皆、頸動脈を的確に切られ、または喉に毒を塗った細い針が刺さっていた。


「ぐぁ……お、お前達は……一体……」


 敵の姿を見ることすら叶わなかった呉兵最後の生き残りはソレを見た。

 木の上にいくつもの影がゆらめき、黒づくめの男達が姿を現す。


「我らは忍び、森と一つになる者だ」

「もっとも、平野だからと言って負けはしないがな」


 巨木の後ろから怪物が現れ、呉兵は息を吞んだ。

 今まであんな化物はいなかった筈、なのにいつアレは、そして木の上の男達は、何も答えを得られないまま、最後の呉兵は死に絶えた。


「やれやれ、体の大きさと忍びやすさが比例するなら子供の忍びが最優になるではないか」

「その通りだ」


 服部忍軍と風魔忍軍の忍達は思った。


 ――いや、それでも小太郎様はなんで見つからないんですか!?


《冥府の死神・徳川服部忍軍頭領・服部半蔵》

《異形の魔獣・風魔忍軍頭領・風魔小太郎》


   ◆


 戦場の西にそびえ立つ山の中では、一万の呉兵が矢に貫かれ死んでいる。矢は一発もはずれる事無く、全て呉兵の目、鼻、喉、口の中のいずれかを貫通していた。


「なな、なんなんだあいつら! ぎゃああ!」

「こんな山の中でどうしてこんな都合よく矢が当たッッ――――」


 蝦夷(北海道)のシャクシャイン率いるアイヌ軍一万は全員弓を手に山中を走っていた。


 起伏の激しい山中を走りながら敵を追いかけ、走りながら、時には跳びながら矢を放つ。


 放った矢は全て吸い込まれるように呉兵の目か鼻か喉か口の中を貫いた。


「どうしてって言われてもなぁ」


 困った顔で最後の敵を射殺して、シャクシャインは呟いた。


「兎より鈍いし、鹿より遅いし、熊より弱いし、こんなの当てない方が難しいっしょやな?」


 シャクシャインに同意を求められて、仲間達は皆頷いた。


《日本列島最優の弓兵民族アイヌ最強の勇者・シャクシャイン》


   ◆


 蹂躙される呉兵、止まらぬ敵将。呉軍本陣で周瑜は激を飛ばす。


「挟撃部隊は何をしているのですか!?」

「伝令兵が戻ってきません、連絡不能です」

「っっ、突撃した将軍達はどうなっていますか?」


 ちょうど本陣に新たな伝令兵が駆けこんで来る。


「黄蓋将軍、敵女武者立花誾千代と交戦中! 呂蒙将軍は立花宗茂! 甘寧将軍は前田慶次、凌統将軍は真田幸村、太史慈将軍は源義経、周泰将軍は沖田総司を名乗る人物と交戦中! ですがそれとは別に一五人以上の豪傑がそれぞれ軍を引き連れて本陣へ進攻中!」

「馬鹿な事を!」


 伝令兵の報告に、周瑜は感情をあらわに怒る。


「自身が先頭に立ち敵中を駆け抜けるような一騎当千の猛将は一国にせいぜい数人! 日本軍にはそれが二〇人以上いるというのか!」

「そ、そうなります……」


 周瑜はうしろによろめいた。


 周瑜は自信に問う。


 どうしてこうなった。


 雨と竹束で鉄砲を封じ、挟撃部隊を利用して正面と左右から包囲して豪傑達を突撃させる。周瑜の作戦は完璧だった。


 普通の軍ならば確実に倒せるはずだった。なのに……


 雨でも撃てる銃。


 竹束を貫く威力の大銃。


 山中と森の中を進む挟撃部隊にいち早く気付き無力化したであろう謎の部隊。


 呉軍最強の甘寧将軍にも匹敵する豪傑が一〇人も二〇人も湯水のように存在する軍隊。


「なんなんですか……この状況は……私の、私の軍略が……」


 周瑜の顔から焦燥が浮かんで消えない。

 ついには後ろへ転ぶようにして椅子に座りこんでしまう。


「呉は強い」


 周瑜が首を回すと、孫権が眉間にしわを寄せて虚空を見ていた。


「呉は弱く無い。呉の兵は強い、周瑜、お前の策も一流だ。もう一度言うが呉は強い。天下を狙える程にな。だが……日本はもっと強い」


 孫権は目を閉じ、観念したように語る。


「兵と装備の数と質。抱える豪傑の人数……日本と言う国は、極東の島国はその全てがこの呉国よりも上なのだ……こうなってはもはや……」


 周瑜と伝令兵達がハッとする。

 もしや孫権は降伏するつもりでは? と思ったその時、孫権は立ち上がる。


「私自らが出る! 馬を用意しろ!」

「っっ、孫権様、一体何を!?」


 周瑜が慌てて駆け寄る。だが孫権の意志は変わらない。


「総大将の私自らが戦場に立ち兵を鼓舞する。そうすれば士気は劇的に上がるだろう」

「ですがそれでは孫権様の身が!」

「私と呉の為に兵が死んでいるのだぞ! 私だけがここでただ座っていられるか! 私は……この目で日本軍を見、この剣で日本軍と刃を交える!」


 本陣へ馬が引き連れられると、孫権は飛び乗り馬の腹を蹴った。


「進めぇ!」


 駿馬が駆ける。周瑜も慌てて部下に叫ぶ。


「私の馬を持ってきなさい! 孫権様一人を危険な目に遭わせられません!」


 周瑜も馬にまたがり駆けだした。

 その様子を一人、遠くの木の上から見下ろす人物がいた。

 天下一の大泥棒、石川五右衛門だ。


「うっわ、あいつまじで出て行きやがった。っとと、えーっと孫権が逃げたら二本、出陣したら一本だったな」


 五右衛門は忍びの連絡用棒火矢を取り出すと、空に向かって打ち上げた。


   ◆


 本陣を飛び出し孫権は思う。


 始皇帝は七つに分かれたこの広大な中華全土を束ね統一した。孫権の父孫堅は呉の国を建国し盤石にした。兄孫策は呉の国の領土を爆発的に広げた。


 だが信長は、ものの三カ月で東南アジア全土と呉の国の南半分を統治してしまった。


 ただ受け継いだだけの自分とは違う、信長は本物の英傑だ。


 異国よりこの大陸に降り立った戦国の英傑……


「見極めさせてもらうぞ、織田信長!」


 孫権の目には、一切の恐れが無かった。


   ◆


 信長と光秀、そして蘭丸の立つ櫓の上。その柵に音も無く色香漂う美女が降り立った。


「おい信長! 五右衛門からの連絡だ、孫権が戦場に出たぜ」


 武田忍軍頭領、戦国最強のくのいち、望月千代女である。


「そうか、光秀、蘭丸、出るぞ!」

「「はい!」」

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