第44話 雨でも狂わない信長の策
呉の本陣に伝令が現れ、呉の頭脳は頷いた。
「わかりました。孫権様、敵の数は約四〇万、我らと同数のようです」
周瑜の報告に孫権は表情を固くする。
「そうか、思っていたよりも多いな」
「おそらく東南アジアを攻略していた軍が戻って来たのでしょう。東南アジアは既に落ちておりますので」
「本当だったか……日本が大陸に現れて三カ月。東南アジア全土と呉の南半分を攻め落とす圧倒的な軍事力。極東の島にそんな国が……」
孫権は握り拳を額に当てて目をつぶった。
周瑜は不敵に笑う。
「確かに、同じ四〇万の軍勢を用意されるのは誤算でしたが、兵の数と装備だけで戦が決まるならば、赤壁の戦いで我らは魏軍に滅ぼされています。孫権様、今回はこの周瑜が未熟な貴方に軍略の妙技をお見せいたしましょう」
周瑜の目が自信で怪しく光る。
孫権は息を吐いて、表情をあらためる。
「そうだな、悪かった周瑜。我らはあの赤壁の戦いで強大な魏軍を破っている」
椅子から立ち上がり、孫権は剣を引きぬいて天に掲げる。
「我は呉王孫権仲謀! 今は亡き父孫堅と兄孫策の意志を継ぎ天下に覇を唱えてみせる! 日本はその足掛かりだ!」
「ふ、貴方も、少しは孫策に似てきましたね、では……」
昼間の闇が深くなる。
黒い雲は厚みを増して、日本軍と呉軍に影を落として晴れる様子は無い。
「そろそろですかね」
周瑜の唇の隙間から白い歯が顔をのぞかせる。
その人間離れした美貌故に、美周郎の名で呼ばれる周瑜。
彼の白くきめ細かい肌に小さな雨粒が当たる。
孫権が見上げると、雨粒は徐々に大きくなり、数も増えていく。
「お前の予言通りだな、周瑜」
「天気を読むのも軍師の務めですので……先鋒隊! 全速前進‼ 騎馬挟撃隊二万は急ぎ西の山と東の森へ移動! 急ぎなさい‼」
「はは!」
周囲の部下が慌てて陣の外へ駆けだす。
周瑜が待っていたモノ、それは雨だ。
「銃は雨の中では使えません。仮に使えたとしても竹束が銃弾を防ぎます。そして距離を詰め、精強な呉の兵達との接近戦に持ち込みます。後は雑兵達の戦いの様子を見ながら甘寧達豪傑が率いる各突撃部隊を出せば」
「そして騎馬による挟撃か」
「はい、敵の斥候兵は大変優秀らしいので、伏兵は気付かれます。なので駿馬揃いの騎馬隊を編成、戦が始まると同時に移動させ敵を東西から挟みます。雨と竹束で自慢の銃を封じ前と左右の三方向から敵を包囲するのです」
「日本軍は南へ逃げるしかないな」
「背を向けて逃げる相手こそ矢の雨の格好の餌食。そして追撃部隊で彼らを徹底的に叩き、一度に滅ぼすのです」
「よし、雨が降ってくれたんだ、天は我に味方している! この勝負は我らの勝ちだ‼」
何千という炸裂音が戦場を飲み込んだ。
「なんだ! 雷か!?」
この雨で銃はありえない、と孫権は空を見るが雷雲はなく、そもそも音だけが鳴り光がない。
轟音は続く、まだ続く、鳴り始めてから一〇秒、二〇秒経っても鳴りやまず、轟音は最低でも三種類の爆発音が入り混じっていた。
「……しゅ、周瑜……これはまさか……」
「…………」
孫権が振り向けば、氷のような周瑜の美貌に一点の曇りが生じていた。
「こ……これも想定の内……たけ、竹束があります、ので…………」
雨に混じり、周瑜の額から汗が流れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます