第43話 暗雲
「調子はどうだ家康」
「おっ、兄貴ぃ♪」
九月半ば、呉の国首都建業の遥か南の地に徳川家康は本陣を張っていた。
昼過ぎに信長と蘭丸、光秀が陣中に現れて家康は椅子から立ち上がる。
「戦はまだ始まっていないのか?」
「ああ、それなんだけどよ。なーんか変なんだよ」
「変?」
信長が聞き返すと、家康は頬をかいた。
「おう、半蔵が四〇万の兵が建業から出たって言うからよ、町は池田に任せて俺は九万の兵連れて杭州湾から出陣したんだよ。でも数的にはスッゲ不利だし、兄貴達が来るまで足どめかなぁって思ったら……」
家康は椅子に座り、肩をすくめた。
「だんまりだぜ?」
「……地図を」
「ああこれだよ」
家康が机の上を指すと、半蔵が調べたここら一体の地図が広がっている。その上には敵味方に見立てた凸型の駒が置いてある。
「ふむ、広い平原の北に呉軍四〇万、南に日本軍。西は山で東に森か……両軍が進みぶつかると、戦場は左右を山と森に挟まれる事になる。この山と森に伏兵は?」
「半蔵に調べさせたけど無い無い、人も罠もなーんも仕掛けられてないぜ、なぁ半蔵」
「御意」
家康の横に影がゆらめき立つと、半蔵が姿を現し首を前に傾けた。
「気になる事と言えば、あいつら火縄銃対策に竹束持った兵並べてるぜ」
「竹束か、あれは甲斐の虎武田信玄が考案したものだが、流石は呉の頭脳周瑜公瑾、同じ事にすぐ気付いたか」
信長の顔が、戦を楽しむように愉悦で歪んだ。
「家康、こっちの兵はどうなっている?」
「えーっと俺の九万とシャクシャインのアイヌ軍一万、六日前に合流した前田の二万、伊達の五万、三日前に合流した島津三万、長曾我部三万、羽柴二万、武田三万、立花四万、で、合計三二万っす、数じゃ負けてるっすね」
「俺が連れて来たのは俺の三万とベトナム軍二万だ。それと尚巴志の琉球軍と滝川、丹羽は東南アジアの管理、勝家と光秀の軍は呉領の管理を命じてあるから来ないぞ。後は知っているだろうが九鬼と池田が三万の軍で東シナ海と海岸線を押さえているから無理だ」
「そうなると後は上杉の三万っすね。んー、つっても上杉は勝家光秀と同じで西部攻略担当だったし、流石に遠すぎじゃ……間に合うっすかね?」
家康は親指をアゴに当てて唸り、眉間にしわを寄せた。
信長は慌てず地図を眺める。
「謙信は神速だ。必ず来る。それよりも問題は敵が何を待っているかだ。お前の軍の四倍の数を持っていながら静観を決め込みむざむざ敵を三二万まで増やしておきながらまだ動かん……」
「竹束用意してきてんのに鉄砲怖くて近づけない、は無いよなぁ」
「こちらが動かねば、敵も動かぬか……」
信長が考えていると、陣中に伝令兵が駆け込んだ。
「伝令! 上杉謙信様、上杉軍三万! 長江をイカダで下り到着致しました!」
「マジで!」
驚く家康。しかし信長は鼻で笑った。
「長江、あの呉を魏の進攻から守る大河を利用したか、流石は謙信……ところで家康」
信長は天を仰ぎ見て、右手人差し指で差した。
「この雲はいつからかかっている?」
戦場は曇りだった。
気温と湿度の高い東南アジアから一気に北上したのもあるが、おかげで九月の暑い太陽光線を遮り、信長達は快適な体温を保っている。
「あー、これなら二日前の昼からかかってるぜ。三日前までは晴れてたんだけどちょこっとずつ曇ってきてさ」
「なるほどな、あいつらの狙いは解った。全軍出るぞ隊列を編成しろ。先頭から順に鉄砲隊、砲兵隊、弓兵隊、棒火矢隊だ!」
背を向けて陣中から出て行こうとする信長。家康が慌てて追いかける。
「ちょちょ、待ってくれてよ兄貴、解ったって何が!」
「すぐ教えてやる、それよりも服部忍軍と風魔忍軍、あとシャクシャインのアイヌ軍には特別任務だ。上杉軍は、まぁ今は休ませてやれ」
「へ?」
こともなげに言う信長。
家康は間の抜けた顔で首を傾げた。
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