第32話 新・内政チート
信長がベトナムを統治してから約三カ月。日差しの暑い八月の昼過ぎ。ベトナムの首都ハノイの城で信長は執務室で蘭丸に扇子で自身を扇がせていた。
「それで蘭丸。ベトナム、及び傘下に置いた東南アジアの改革はどうなっている?」
「はい、徴兵されていた兵をただち解放、職の無い者達も労働力として使い、簡単な材料と少ない労力で短時間で井戸を掘れる上総掘りで各村に井戸を増やし衛生面改善を指導、石鹸の量産体制も整い今月末にも各村に配布する予定です」
「食糧生産はどうだ?」
「各地の地質を調査、開墾開拓を続け、畑、田んぼの数を増やしながら、より進んだ農業畜産方法を指導、ただ日本の作物ではこの土地に合わない物もありますので、多数の果樹園を作り、果物の量産も行っているようです。重労働ですが食糧を増やす為とあらば、民衆は喜んで働いています」
「農村部は順調だな」
「ええ、また、商業、経済面も楽市楽座、単位と貨幣の整理、関所の撤廃、道路整備や交通標識の設置で活性化。それが終わり次第、各地の要所に砦や城を建設する予定です」
「人手は足りてるか?」
「ギリギリ足りています。井戸掘り、開墾開拓、道路整備、仕事は山積みです。それでも兵を解放した事は大きく、他の者も我々が生活改善案をしっかりと説明した上で自分達の為の仕事ですし、女子供、お年寄りに至るまで進んで働いているようです。井戸掘りと開墾開拓は全て十日前に完了。今は道路整備に集中させています」
「それで良い」
信長は満足そうに顔をほころばせる。
「一番悪いのは仕事が無いことだ。働けば賃金や食糧が貰える国作り、努力すれば見返りが来ると覚えさせる。徴兵などいらん。全ての国民は労働に従事し国を守る兵は武家と希望者だけで十分だ」
「ですが道路整備と築城が終われば今度は人手が余ってしまうのでは?」
「その為の開拓開墾、そして商業の活性化だ。築城が終われば治水工事もする予定だが、治水工事も終わる頃には広げた畑の村と、商業が活性化した街で人手が必要になる。求職難にはしても就職難にだけはするな。そうすれば国は豊かになる」
蘭丸は得心を得て、思わず納得してしまう。
「なるほど、ですがたった三ヶ月で開拓工事が進み過ぎていませんか?」
本来は数カ月の時を要する大規模開拓や工事。だが信長は東南アジア中で、それもこの三カ月で大半が完了している。
「かつて、あのサル、秀吉は一ヶ月以上かかると言われた工事を十日で終わらせた。理由は単純、人手を工事個所ごとに組分けし、最も早くに終わった組に倍の賃金を払ったのだ。今回はそれを利用し上位三組には三倍の、その下三組には二倍の賃金を払っている。上位六組に入ろうと全員が全員、死の物狂いで働くというわけだ」
「信長様にぴったりの人材改革ですね。聞いた話では、身分に関係無く良く働く者、実力ある者、手柄を立てた者を出世、取り立てる制度を作った事で、生きることに希望を見出せなかった者達も出世を目指して積極的に働いているそうです」
蘭丸が扇子で信長を仰ぎながら、その額の汗を布で拭った。
「身分による出世などくだらんよ、それにしても、東南アジアの夏が、まさかこれほど暑いとはな。琉球より暑いかもしれん」
今までとはうってかわり、急に信長は息を吐き、力を抜いた。
「東南アジア攻略の人選は間違っていなかったようですね」
「ああ、北の呉国攻略も大事だが、まずは地盤を固めねばならんからな。呉蜀より南、東南アジア全てを我がものとし中華攻略に礎とする」
「それにしてもいくら暑い土佐と薩摩出身だからと言って鬼島津と鬼若子長曾我部殿を行かせるのは……」
蘭丸が可愛い顔の眉尻を下げる。
「敵ながら可哀そうに思います……」
◆
その頃、島津軍は、ルソン島にて……
悲鳴を上げながら海を目指して逃げるポルトガルの軍勢。彼らは戦場で勝ち目無しと判断して船で逃げる腹づもりである。
そして後ろから追撃をするのは、
「おまんら逃げてんじゃねぇぞ‼」
「逃げるなら首置いてけや‼」
「男なら潔くとっとと死ねぇ‼」
「首狩らせろ首ぃ‼」
「逃がすな一人残らずブッ殺せ‼」
「首じゃ首じゃ首じゃああああ‼」
返り血を浴びて全身を血で染めた三万の島津軍が鬼の形相で目を血走らせ怒号を上げながらポルトガル軍に迫る。
「くっそっー! 火縄銃の少ない東南アジアなら容易く侵略できると思ったのに!」
「なんなんだよあいつら!」
「追い付かれるー!」
島津軍総大将、島津義弘が大刀を振りあげ叫ぶ。
「首を置いてかん奴は皆殺しじゃああああああああああああああ‼」
そして、ポルトガル兵は船着き場に到着する前に誰もいなくなった……
◆
その頃、長曾我部軍は……
「燃えろ燃えろぉおおおおお! 逆らう奴は皆殺しだぁあああああああ! ハハハハ‼」
マラッカのとある領主の城を燃やし、燃え盛る城を前に長曾我部元親は笑う。
驚くほどに線が細く、恐ろしい程に美しい美貌の大名、長曾我部元親が振り返ると、そこにはここの領民達が驚愕の顔で固まっていた。
「何を呆けている貴様ら? 貴様らに重税を課し苦しめる領主はもういない。これよりこの地は武装解除、徴兵の免除、税の値下げを行い貴様らは農業、生産、商業にのみ励むがいいぞ」
人とは思えぬ冷たい声。しかし領民達は目の前の現実を受け入れると、その場で手を合わせた。
「ありがとうございます!」
「これで町や村も救われます!」
「礼には及ばん、全ては我々の頭領、織田信長の差し金だ。あいつはやるぞ、世界の統一、世界の果てへの到達」
元親は家臣達に向けて声を張り上げる。
「我らも見るぞ! 太陽沈む海をな‼」
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