第28話 忍び達の宴
城内が歓声で湧きあがっている時。誰もいない天井の上では三人の男が盃をかわす。
一人は徳川忍軍頭領服部半蔵。細身の体で顔は線の細い美系だが、常に無表情で冷徹な眼差しが近寄りがたい雰囲気を持っている。
一人は元北条忍軍である風魔忍軍頭領風魔小太郎。北条家が滅びた今は織田に組み込まれている。
身長一〇尺(三メートル)、足と同じ長さの腕、短刀のような牙。しかし異形の姿とはうらはらに声は知的で落ち着いている。今もおちょこ代わりの椀に酒を器用に注ぎ、ゆっくりと味わいながら吞んでいる。
最後の一人は、
「あーあ、しっかし抜忍の俺様が織田の忍びになるとは、世の中わかんねぇもんだなぁおい」
半蔵とは違い、ガタイのいい男が天井に寝転がってとっくりごと酒を煽る。
自称天下の大泥棒、石川五右衛門だ。
「信長殿の城に忍びこみ捕まったのだ。命があるだけありがたいと思え」
「へえへえ解ってますよっと。でも信長の野郎も奇特だよな。俺を殺さず忍者として雇うなんて、普通見せしめに殺すだろ?」
「フッ、使えるモノは何でも使う。それがあの男だ。風魔忍軍を率いていた我とて、北条と共に滅びず抱き込まれたのだ。嫌いな野菜でも健康に良いと食べるであろう、あれと同じだ」
「いや、一緒にしちゃ駄目だろ」
五右衛門は半蔵に耳打ちする。
「おい半蔵、お前こいつの言動に疑問を感じないのか?」
「……何がだ?」
「いやだって」
化け物指数十割の巨獣忍者を見上げて、五右衛門は渋い顔をする。
「五右衛門、お主は酒の飲み過ぎだ」
「え、俺なの? 俺が悪い感じなの?」
「なんだいなんだい、男三人でむさくるしいねぇ」
「千代女か」
半蔵達が振り返ると、酒瓶を肩にひっかけた千代女がそこに立っていた。
「なんだいその反応は、野獣とムッツリと不良しかいない場に花を持ってきてやったのによ」
「けっ、おめえのどこが花だよ鏡見やがれってんだ」
悪態をついてそっぽを向く五右衛門。
千代女は意地悪く笑いながら自分のただでさえ大きな爆乳を左右から寄せて上げる。
「照れるな照れるな、童貞じゃあるまいし」
「いや千代女、今のはお前の言い方が悪い」
水を差すのは小太郎だ。小太郎は知的な声で冷静に説明する。
「花にはいくつか種類があるが大多数の人間は花に可愛らしさを感じるもの。だが千代女は少しも可愛くない。何故ならお前は類まれなる美女だからだ。切れ長の目、筋の通った鼻、やや厚めの唇に細いあごと首筋。だが胸と尻は肉好きがよく豊かで並々ならぬ妖艶さを持つその扇情的なカラダはまぐわいにおける無尽蔵の快楽と同時に、安産と授乳能力の高さを語り、妻としても母としても有能な魅力ある女性である印象を受ける。故にここは『花』ではなく『香り』または『色』を持って来たと言うべきだろう」
千代女の顔に花が咲く。
「なんだよ小太郎、あんた解ってるじゃんかよー、可愛い奴め♪」
小太郎の腕に抱きつき、持って来た酒を注いであげる千代女。
半蔵も『的確な指摘だな』と無表情のままに頷く。
「やっぱ俺か、俺が間違ってるのか……?」
同じ忍なのに皆との距離を感じる五右衛門だった。
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