第25話 パーティーバカ騒ぎ
宴会場では、チュウ・アウが日本の武将達の注目を浴びていた。
「へぇ、あんたがベトナム最強の武人かい。こいつはたまげたねぇ」
酒を朱色の盃に注ぎ吞む前田慶次、そのすぐ隣でチュウ・アウも日本製の盃で日本酒を吞む。
「うちの男が弱いわけじゃないよ、ただあたしが男よりも強いだけなのさ」
こともなげに言うアウ。
彼女はベトナムの大将軍で、女でありながらベトナム最強の武人を誇っていた。異国の地に来て、最強の武人とくれば慶次以外にも武辺者達が黙ってはいない。一目会おうとそこらの席から集まり、二人を取り囲むのだが……やはり武将達の目はアウの胸に行きがちだった。
「しかし慶次、あんた随分背が高いねぇ。男を含めてもあたしより大きい人なんてあまり見ないよ」
アウの身長は六尺(一八〇センチ)以上。並の男を普通に見下ろせる。
だが慶次の身長は七尺(二一〇センチ)、そのアウをまた普通に見下ろせた。
「ああ、俺は見ての通り図体がでかいから戦じゃすぐに馬を乗り潰しちまう。だからあの象って生き物見た時はたまげたぜ。日本にもいりゃあいいのに」
慶次が歯を見せて笑うとアウを楽しそうに笑った。最強の武人同士通ずるものがある、というわけではない。
ただ慶次は、感じが良いのだ。
東国無双の本多忠勝や、西国無双の立花宗茂にもひけを取らない武勇を誇りながら豪傑特有の近寄りがたさが無い。
特別厳格だったり、血腥かったり、狂気を感じさせたり、殺気だっているような空気は微塵も無く、花鳥風月を好む慶次からは風流人のような落ち着いた空気と子供のような無邪気さしか感じられない。
この天下御免の傾奇者、前田慶次らしさこそが彼最大の魅力である。
「戦象かい? なら今回のお礼に一頭あげるよ」
「いや、俺にはもう松風って相棒がいるからな。それには及ばねぇよ」
「松風?」
「ああ、俺の戦友さ」
慶次は新たな酒を盃に注ぎ唇をなめた。
「黒毛に紫色の目が綺麗な馬でなぁ。そこらの馬の倍はでかくて速い馬よっ。強い奴しか背中に乗せないんだが、まぁあんたなら乗れるだろ。明日乗ってみろよ」
「じゃあ代わりあたしの戦象に乗ってくれよ」
「本当かっ? 嬉しいねぇ。いやぁ、一回乗ってみたいと思ってたんだよ。それでよお前ら」
慶次の目がアウから周りの男達に移る。
「いくらアウが美人だからって見過ぎじゃないか?」
途端に動揺する諸将。アウは恥ずかしそうに両腕で胸を隠そうとして、乳が上下に分かれただけだった。
両腕を使っても一割も隠せていない超乳ぶりは規格外の一言に尽きる。
慶次は『胸見過ぎ』とはあえて言わなかったが、アウには解ってしまったらしい。
「な、なぁ慶次、やっぱり男って大きい胸が気になるのか?」
慶次の目がキラリと光る。
最初はアウと諸将の両方に気を使った慶次だが、本人が自覚し聞いてくるなら遠慮はいらない。
「人によるけど少なくとも半分は大きいのが好きだろ。アウは美人だし肌も綺麗だ。男なら誰だって放ってはおかないさ。なのにそんなに魅力的な胸してたら……まぁ許してやってくれ」
「び、美人て……」
「照れるな照れるな、本当の事だろ?」
アウは胸を隠していた手を両頬に当て、視線を逸らす。
「いや、胸以外で褒められたの初めてだから、慣れなくて……」
「お前の周りの男はどんだけ胸にしか目が行ってないんだよ。まぁうちの巴、誾千代、千代女もたいがいだけどな」
「「「呼んだか?」」」
近くを通りかかっていたらしい。義経の義従姉弟の巴、宗茂の嫁の誾千代、武田忍者隊の頭領の千代女が三人そろって顔を出す。
三人とも、宴会用のゆったりとした着流し姿で、着物越しにも自己主張の激しい豊かな胸が男性には眩しい。
「おうお前ら、この人がベトナム随一の武人、チュウ・アウ将軍だ」
巴と千代女が興味津々に身を乗り出す。
「ほほお、貴殿が女将軍の。自分は巴である」
「あたしは武田忍者隊頭領の望月千代女だ。よろし……」
巴と千代女の視線が落ち、アウの極端に規格外過ぎ過ぎる胸を捉えた。
途端に崩れ落ち、両手と両膝を床に叩きつける二人。
「「は、初めて負けた……」」
死人のような声を上げる巴と千代女、長い髪が顔を隠してその表情はうかがいしれない。
「お、女の価値は胸で決まらないぞ!」
そんな言葉もアウが言っては嫌味にしかならない。
残る誾千代は落ち込まないが、凛とした彼女には珍しい不安そうな顔をする。
「え、ええっとだなアウ殿。アウ殿にはくれぐれも注意して欲しいのだが、私の夫の宗茂には会わないよう注意してくれ。あいつは大きな胸となれば見境のない淫乱魔獣でアウ殿を見た瞬間襲いかか」
「翻訳すると『あたしの大好きな宗茂ちゃまはおっきなおっぱい大好きだからアウに会ったら取られちゃうから会わないで』だ、そうだ」
「慶次ぃいいいいいい!」
慶次の的確過ぎる翻訳に誾千代が悲鳴を上げる。
「ん、違ったか? じゃあ自分の胸を構ってもらえなくなるからとか?」
「さっきとどこが違う!」
また誾千代の悲鳴が上がり、周囲の男達は笑い声を上げた。
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