第24話 植民地って何? 日本の占領哲学。
その姿に、チュン姉妹は頬をひきつってしまった。
「え? だって侵略って、ようするに国盗りだろ? 自分の国の領土増やすんだろ? ベトナムが俺の傘下に入ったならここ俺の国だろ? ベトナム人は俺の民だろ? お前らは俺の可愛い家臣だろ? 自分で自分の国を荒廃させてどうするんだよ?」
チュン姉妹の額からハトがクルッポーした。
チャックは声を大にしてツッコむ。
「私達ベトナム人ですよ! 日本人じゃないんですよ! 異民族ですよ!」
「じゃあ俺に人種が違うといじめる道理を説明してくれ」
「作物や金品を搾取して私腹を肥やそうとは思わないんですか!?」
「だから私腹を肥やす為に国を富ませるんだろうが。食糧生産率を上げれば年貢の量が増える。経済政策で商業を活性化させれば税収が増える。俺のところにくる金も飯も増えて国民の支持も得られるから一揆や反乱を起こされなくて万事丸く収まる。お前さっきから言っている事が破綻しているぞ」
「破綻って、貴方は属国や植民地をなんだと思っているのですか!?」
「植民地?」
「え?」
「え?」
四半時(三〇分)後。大陸における植民地支配の事をチュン姉妹から教わり、信長は大きくため息をついた。
「えーっと、あれだ、植民地支配ってのはよくわかったが、うん、言っていいか?」
信長は苦みを噛みつぶした一〇〇倍渋い顔をする。
「ぶぁああああああああああああああああああああかじゃないのか?」
チュン姉妹が石化した。
「お前らなぁ、国民は生産者だぞ。生産者がいなくなったら国力下がるだろ。富が衰退するだろ。国民の怒りを買えば一揆起こされるだろ。なんでわざわざ国力下げて一揆起こされるような事してんだよ自滅だろ。根本的に頭悪いんじゃないのか? あ?」
急に口調が代わる信長。チュン姉妹はどれが本当の信長か分からなくて混乱する。
ちなみにうつけ時代の信長はこんな喋り方だった。
「多分あれだ、価値観の差だな。お前らの話をまとめるとつまりこうだ。大陸では古くから続く自国を絶対的なものとし、戦で増やした領土は属国や植民地と呼び自国とは分けて考える。この属国や植民地は搾取の対象で徹底的に絞りとり自国の繁栄に利用する」
「え、ええ、まぁ……」
「日本は違う。戦で土地を手に入れた時は『自国が増えた』と見る。故に元他国民でも自国民と同様に扱うし搾取や奴隷化はしない。余程の暗君なら別だが、基本は戦をする為に国を富ませる方法を模索し、実行するのも当たり前のことだ」
これは、日本と大陸との差であった。
解り易く言うと、戦争で衰退するのが大陸。戦争で発展するのが日本だ。
事実、日本は戦国時代に入り、人口が爆発的に増え、食糧生産率は格段に増え、経済は活性化して治安が良くなった。
理由は単純。
平和な時は文官や公家が幅を利かし、自分達が私腹を肥やす為に民から搾取し絞り取る。
日本も百年以上前はそうだった。
だが戦国乱世になると、どこの国も戦の為の準備をする。軍備を強化する為に兵士、軍費、兵糧を確保する必要があるのでどこの大名も必死に人員確保、開墾、経済政策をするし、兵士が欲しいので職に困るものもいない。
えり好みをしなければどこかの大名が歩兵戦力として雇ってくれる。
山賊夜盗のたぐいはたいてい元武士の牢人なので当然山賊夜盗がいなくなるし、女性が一人旅をしても問題ないぐらい治安がよかった。
対して大陸は戦争をすればするほどただ人が死に、国力を消耗するだけ。
イタリアのカエサルはローマを発展させたが、それは属国民を奴隷にしてローマへと運び働かせたからだ。本当の意味でローマ帝国全体が豊かになったわけではない。
「まぁよい。とにかく俺は搾取も奴隷化もする気は無い。俺が西の海を見る手伝いをしてくれさえすればいい」
喋り方を戻して、信長は説明を続けた。
「関所の撤廃。これで商人や品物が通り易くなって物流が太くなり商業が活性化する」
チャックが反論する。
「それだと敵の間者が紛れ込みやすくなりませんか?」
「関所があっても間者というのはあの手この手でどのみち忍びこむものだ。なら商業発展を優先する。同じ理由で道の整備拡張工事、そして町までの距離などを示した道路交通標識を作成」
今度はチュン・ニが、
「そんな事したら敵が攻め込んできやすくなるんじゃ……」
「その為の守備兵だし、敵だって攻め込む前に地形は調査する。結局攻め込んで来るなら商業活性化が優先だ。あと道は一〇里(四〇キロメートル)ごとに馬の乗り換え用厩舎を作る。役人は馬が疲れると新しい馬に乗り換え、常に最高速度で走る事で広い国内外の情報がすぐ君主の元に届くようにするのだ。あとは築城だな。国内に城をいくつか作りたい」
「「そ、そんな事にお金を使う余裕は」」
「普通はそうだろうな、新しい城を作るのには金がかかるからと俺の国でも他の大名達は消極的だった。だが城には兵がいる。城の近くならすぐ守ってもらえるからと人間が集まり城下町が出来て経済が回る。積極経済というやつだ」
チュン姉妹は小刻みに震えている。
「あああの信長様? それ全部やるんですか?」
「当然だろ? 言っとくが他の東南アジア諸国にも同じ事をする。それに俺の話はまだ終わっていない」
信長は魔王の笑みを浮かべる。
「俺の策がこの程度で終わるわけがないだろ?」
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