第21話 源平戦国幕末・ニッポン・オールスター 中編


 さらに別の場所では……


「凄いねぇ、これが中華の兵の鎧なんだねぇ、僕始めて見たよぉ♪」

「おい沖田、俺らは遊びに来てるわけじゃねえぞ!」

「敵は斬ろう、こいつらに恨みはないが斬ろう」

「縄につくならば命は助けるがどうだ?」


 沖田総司、土方歳三、斎藤一、近藤勇、新撰組最強の四人が二〇〇人の隊士を引き連れ、あらかじめ呉軍本陣の近くで張っていた。


 本陣へ逃げ込もうとした呉軍は彼らの刀の錆になる。

 極めつけは……


「へ?」


 呉軍の兵は、目の前の異形に目を奪われる。


 身長一〇尺(三メートル)の巨人ではなく、怪物が戦場に突如現れた。


 筋肉の塊が動いているような筋骨隆々体型、腕は膝より下に垂れるほど長く爪の一本一本に熊のような爪、口には小刀のような牙がズラリと並んでいる。


 鎖帷子姿なので一応は武将と呼べる装備だが、


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼‼‼」


 異形の雄たけびを上げて怪物は腕を振るった。


 槍のように長い腕を横に薙ぐだけで巻き込まれた呉兵は内臓を破裂させ、手足を千切られ、バラバラ死体となって戦場に降り注いだ。


 一人の男が悲鳴を上げて槍で腕を突いた。


 籠手を避けて素肌を突いて、槍の穂先が弾かれた。


 男は頭をつかまれ、みかんよりも容易く握りつぶされた。


『な、なんなんだよこいつはぁああああああああああああああああああああ!』

「小太郎よ♪ 小太郎、一人も逃すんじゃないわよ!」

「任せるがいい甲斐」


 怪物が喋る。太い、というよりも思いのほか渋めのちょっと知的な声だ。


「貴様もせいぜい武功をあげるがいい。嫁の貰い手がない貴様ではもはや武将としての生き方しかないのだからな」

「なぁっ、言ったわねぇっ!」

「ははははは」


 甲斐が雑兵達の首を片っ端から刎ねる。小太郎が雑兵達の頭を潰し、腕を振るって内臓をぶちまける。


 こんな事がそこら中で起こっていた。


 無理もない。


 甲斐の虎・武田信玄

 越後の龍にして軍神毘沙門天の化身・上杉謙信

 東日本最強・本多忠勝

 西日本最強・立花胸茂

 鬼島津・島津義弘

 魔人・風魔小太郎

 天下御免の傾奇者・前田慶次

 日本最強の僧兵・武蔵坊弁慶

 日本史上最強の剣士団・新撰組

 西洋風に言うならば、まさしく日本オールスター。


 魏国攻めではなく、ベトナムの反乱鎮圧を任された呉の遠征軍が勝てるべくもなかった。


   ◆


「伝令! アウ将軍自らが象に乗り出陣。単独で中央を守っております!」


 ベトナム軍本陣。そこで、姉妹女王の姉、チュン・チャックは伝令兵の報せに絶句した。


 先程から伝令兵はベトナム軍不利の報せを運び続け、隊は壊滅寸前。


 ここへ来てアウが命がけの単騎戦。


 絶望的過ぎる現状に、小さな頭を抱えて涙をこらえた。


「私は、どうすれば……」

「姉さん」


 チャックの手を、妹のチュン・ニが握る。


 チャックは小柄で細身、やや童顔の可愛らしい容姿だが、妹はさらに子供っぽい外見をしている。


 二人とも二十代だが、チュン・ニに至っては十代半ばとよく勘違いされる。


「……すまないな妹よ」


 チュン・ニの悲しそうな眼差しを見て、チャックは決意する。


「私自らが出る! 戦象を用意するのです!」


 総大将自らの出陣。総大将を危険に晒す代わりに、自軍の士気は爆発的に高まる諸刃の剣だ。


 しかし、今のチャックにはこれしかなかった。ベトナム軍にはこれ以上呉軍と戦う余力は無い。今ここで退き、改めて軍を編成したところで敗北は目に見えている。


 ならば今ここで呉軍を叩き勝利し、ベトナムの強さを見せつけねばベトナムは終わる。

 それだけは阻止せねばならない。


「ね、姉さん! ならわたしも!」

「お前は……」


 妹の目に宿る意志を受け取り、チャックは頷いた。


「解ったわ。共に行きましょう!」

「はい!」


 甲冑姿だった二人は兜をかぶり、弓を手にそれぞれの戦象に登った。


 戦象を走らせる。


 前線からは聞いた事もないような轟音、そして阿鼻叫喚の声が響き渡る。


 一体前線はどれほどの地獄なのか、チュン姉妹には想像もできなかった。


 ベトナム軍の死体の海の中、一人戦うアウ将軍の姿が頭に浮かぶ、それどころか、アウ将軍すら死んでしまっているかもしれない。


 そんな焦燥感に胸を痛めながら、二人は戦象に乗るアウ将軍を見つけた。


「アウ将軍! よかった、無事なのですね、戦況はどうなって……アウ、将軍?」


 そこには、半ば放心状態のアウ将軍がいた。

 いつも気丈に振る舞い、力強く、みんなの頼れる大将軍の顔は無い。


「!? じょ、女王陛下!? いつここに!?」

「今です。一体どうしたのですか?」

「いえ、それが……」


 不思議に思い、チュン姉妹はアウの視線の先を追う。

 背の高い象の上からだと、その光景はあまりにも良く見え過ぎた。


「「!? こ、これは!?」」


 それはまさしく地獄絵図だった。

 ただ、ベトナム軍の、ではなく、呉軍のだ。


「彼らは……」


 東から見た事もない軍勢が呉軍を攻撃している。その数たるや、地平線の果てまで続きそうな程だ。


 しかも全員が上から下まで揃いの甲冑を身に付け、その隊列と動きから恐ろしく練度を積んだ兵士達である事が解る。


 呉軍の頭上に矢の雨が降る。だがそれを考慮しても呉軍の兵が死に過ぎている。


 明らかに矢が当たっていない兵まで次々倒れている。


 謎の軍は手に黒い棒を持ち、それが無限に煙と破裂音を吐き出している。


 ただ大きな音を出して相手を威嚇する道具ではなさそうだ。


 呉軍はまるで見えない力、魔術で次々死んでいるようにすら見える。


 破壊の嵐に屈強な呉軍は全軍が逃亡、死に物狂いになって逃げ出し、逃げながら次々死に絶える。


 やがて謎の軍から数えきれない程の騎馬隊が津波のように呉軍を追いかける。


 駿馬の群れは一瞬で呉軍に追い付き、蹴散らし、皆殺し、呉軍の中を蹂躙しながら奥深く突き進み呉兵を掃討していく。


 ベトナムにはチュウ・アウという一騎当千の豪傑がいるが、そんな豪傑が両手の指でも数えきれない程に溢れ、あっちでもこっちでも万夫不当の英傑達が獅子奮迅の活躍で呉軍を葬っていく。


「これは……なんなのですか?」

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