第20話 源平戦国幕末・ニッポン・オールスター 前編
「一体なんなんだあれはぁああああああああああああああああああああああ!!」
ベトナム征伐軍の隊長、陸胤は櫓の上で悲鳴を上げた。
「行け! 呉軍を蹂躙するのだ!」
信長が怒号を上げる。五万の鉄砲隊が戦場を蹂躙する。
際限なく撃ち続けられる鉛弾の暴風に呉軍は総崩れ。
毎秒とんでもない数の兵が倒れ、発砲音に驚き軍馬は一頭残らず暴れて騎馬隊は壊滅。
呉軍の兵からすれば突然轟音が鳴り響き、わけもわからないまま味方が倒れるのだ。
未知の力に倒れる自軍の姿に誰もが恐怖し混乱状態に陥る。
織田軍の隊列は至って単純。鉄砲五段撃ちの列を横に一万人並べて、前進しながら撃ち続けるのだ。
火縄銃の弱点は発射に時間がかかる事である。
故に普及しなかったわけだが、信長はこれを『三段撃ち』と言って三人一列に並び、先頭の者が撃つと後ろに回り発射準備をする、自分の番が回ってきたらまた撃つ、という事を繰り返す方法で連射力を高めた。
今回は五段撃ちにしてさらに連射力を高め、撃った者は列の後ろに並ぶのではなく、その場で発射準備を始め、最後尾の者が前に出て撃つという戦法を使った。
これで鉄砲隊は一発撃つごとに人一人分前身することになる。
◆
「これは、銃か? ええい何をしているさっさと射殺せ!」
撃つのに時間がかかる為、銃は普及していないし、今回の戦争にも持ってきていない。
陸胤はすぐさま弓で対抗するよう言うが無理な話だ。
元より弓と銃では射程に雲泥の差がある。
織田軍は呉軍の弓の射程の外から一方的に鉄砲を撃ってくる。
そもそも天を裂かんばかりの轟音と死の嵐。
前線の軍は混乱状態でまともに弓を引ける状態ではない。
「くそ、一体なんなんだあいつらは。一万の援軍はどうしたのだ!?」
その通り。本来はここで一万の援軍が来る筈、が、援軍が来たかと思えば謎の軍勢が姿を現し、呉軍を側面から一気に襲ったのだ。
無論、陸胤はすぐに隊列を組み直し、死にかけのベトナム軍への進攻を止めた。
だが。
◆
「信長様、敵との距離、およそ三〇間(五〇メートル)」
「弓の射程だな、ようし、第二幕行くぞ」
信長の合図で、鉄砲隊の背後に控えていた弓兵部隊が呉軍の頭上めがけて矢を放つ。
放たれた矢は大きく弧を描いた。
◆
恐慌状態の呉軍は一気に後退、死体の山や物資を積んだ荷車といった物陰に隠れる。
弓の射程に入っても呉は反撃しない。外に出て悠長に弓を引けばその瞬間撃ち殺されるのは目に見えているからだ。
そんな兵士達を、矢の雨が頭上から串刺した。
ここも危険だと逃げようとした兵は銃で撃ち殺された。
その場にとどまった者は頭上から矢に射殺された。
織田の鉄砲隊と弓兵隊は進軍を止めない。
横からは銃弾、頭上から矢、呉軍に逃げ場は無く、退いても地獄、進んでも地獄、とどまっても地獄であった。
織田軍の進軍速度が上がる。一気に呉軍を覆い詰める気だ。
呉軍の多くは本陣へ逃げようと逃亡、そして背中を火縄銃に撃たれ死んだ。
銃弾と矢雨が戦場を蹂躙する。
呉軍は総崩れ。前線の兵は殲滅。騎馬隊は全員馬を失った。
他の兵は持ち場を離れて逃走。
だが信長は逃亡すら許さない。
「撃ち方やめい! 騎馬隊出陣だ!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼』
陣太鼓が鳴り、五万の鉄砲隊と弓兵隊が一斉に射撃をやめる。
代わりに各隊ごとに固まって道を開け、鉄砲隊の背後の弓兵部隊のさらに奥から騎馬武者達が野に放たれる。
無論、その間も鉄砲隊と弓兵隊は歩みを止めない。日軍全てが前進し、呉軍を追い詰めている。
「ぎゃああああああああああああああ!」
呉軍の兵が悲鳴を上げる。
轟音が鳴りやんだと思い振り返ると、いつのまにか背後の戦場を騎馬隊が埋め尽くしているのだ。呉軍は全員徒歩、逃げられるわけがない。
おまけに追撃をするのは…………
◆
「おおおおおおおおおおお、道を開けろぉおおおおおおおおおおお!」
「滾るな宿敵。呉軍の総大将の首、どちらが獲るか競争だな」
「かはは、そうだな謙信!」
信玄の隣で、上杉謙信が不敵な笑みを浮かべる。
上杉謙信。長身黒髪の美女で、軍神毘沙門天の化身、越後の龍と恐れられ、織田信長という例外を除けば生涯無敗という規格外の女武者である。
個人的な武力でいえば巴御前、甲斐、誾千代など比肩しうる逸材はいるが、指揮統率力などを含めた武将としての総合力は間違いなく戦国最強の女武者と言える。
武田信玄と上杉謙信。
戦国最強の龍虎であり宿敵と書いてトモと呼ぶ間柄。
互いに生涯無敗同士で戦った川中島では五度も戦をして全てにおいて引き分けるという伝説的な戦歴を残している。
その二人は今、自身が先頭に立って軍を率い、両手にそれぞれ握った二本の大太刀で目の前の敵を片っ端から斬り伏せる。
彼らの進軍を止められる者などいる筈がない。
別の場所では……
「ちぇすとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼」
「俺が立花宗茂だ!」
「私が立花誾千代だ!」
島津軍を先頭で率いる男性は鬼島津こと島津義弘。
隣では立花軍を宗茂と誾千代が夫婦で並んで駆けて率いる。
進行方向上の雑兵全てを蹴散らし走る三人、立花家は北九州、島津家は南九州の覇者であり、互いに九州の覇権を巡って殺し合った仲である。
「立花のこせがれ共! 貴様らにだけは負けんぞ‼」
「ああ、この勝負!」
「一人でも多くの敵を殺した方の勝ちだ!」
「誾千代それ俺の台詞」
「文句を言うな!」
そして別の場所では……
「じゃあ弁慶、先に行ってるから」
「お待ちください義経様!」
戦わず、呉兵達の頭を足場に跳びながら敵本陣を目指す義経。
その義経を追うべく馬に乗りながら両手の槍と薙刀を振り回し突き進む弁慶。
二人の援護をすべく那須与一が馬上から矢を三本ずつ射続ける。
「みんな頑張りますねぇ」キラキラ
「凄い腕だな与一、数では勝てん、なれば我は一発の威力で」
与一の隣で、馬では無く牛の上にまたがる身の丈七尺(二一〇センチ)の巨人、源為朝は五人張の弓に矢をつがえて放つ。
矢は絶叫しながら空間を一瞬で駆け抜けて、呉兵を二〇人以上も貫通してから軌道が逸れて地面に突き刺さった。
「逃げる兵は人間では無い! ただの豚野郎だ! 豚野郎は黙って死ぬがいい‼ 異論は認めん‼」
巴御前が弁慶に追走するようにして馬を走らせる。両手にそれぞれ持った大薙刀を暴れさせて、キレイに呉兵の首だけを狩り取っていく。
力は弁慶のが上だが、技術では巴御前が一枚上手だ。
さらに別の場所では……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます