第9話 戦国武将VS幕末最強剣士団新撰組
袖口に山形のダンダラ模様を白く染め抜いた浅葱色(水色)の羽織りを着た男達が刀を手に立ち並んでいる。
その数はざっと見て一〇〇人以上。
浅葱色は武士が切腹をする時の裃の色である。
幸村は三途の川の渡し賃である六文銭柄の額当てをしている。これはいつ死んでも良いという覚悟の現れなのだが、彼らからも同じ決意を感じる。
「へぇ、こいつら、一人一人が恐ろしく強いのが解るな、肌にびしびしきやがる」
しかしそれは敵も同じ。幸村、宗茂、慶次、そして誾千代や甲斐を前に、男達は神経を研ぎ澄まし、刀を構えて視線を外さない。
「貴様らの相手になる奴ではない……退け」
氷のような声は、男達のさらに奥からだ。
勇ましい男達が一斉に道を開けると、奥から宗茂に並ぶ程背の高い長身の男が現れた。
まるで死神のような声と顔。日本人でも珍しい程漆黒に塗り潰された髪。人を射殺しそうな眼光、恐ろしい程の強さは感じるが、血のめぐりを感じない、そんな男だった。
「新撰組、三番隊隊長、斎藤一だ。貴様の相手は俺だ」
「やる気満々だねぇ。いいぜぇ、その喧嘩買った!」
「う~ん、じゃあぼくはこっちのお兄さんにしようかな。あ、ぼくは一番隊隊長の沖田総司だよ」
武士としては小柄で細身の美少年が楽しそうにそう言った。
続いて斎藤の背後からはさらに二人、鬼のような空気をまとった男達が姿を現す。
「新撰組副長、土方歳三だ、ここはオレらが守らせてもらうぜ」
「新撰組局長、近藤勇だ。無益な折衝は好まん。大人しく捕縛されてはくれないか?」
局長を名乗る男は、どうやら好戦的な性格ではないらしい。
腰に刀は挿しているが、抜く様子は無い。
沖田に名指しされた宗茂が進み出る。
「悪いけど九州男児の辞書に降伏の二文字はないんでね、それに俺は」
大太刀を構え、刹那のスリ足で体重を移動させながら一気に踏み込む。
「お前らと戦いたい!」
鋭い金属音が鳴る。
沖田は神速の抜刀を以ち、刀身の根元で宗茂の剛刀を受け止めていた。
沖田の右手は刀の柄を握り、左手は刀の峰に添えてヒジと肩で衝撃を吸収し、刀に負担をかけずに宗茂の攻撃を受け止めている。
それだけで、沖田が並々ならぬ達人である事が解る。
「宗茂の刀を止めた!?」
最初に驚いたのは嫁の誾千代だ。彼女は宗茂の幼馴染であり嫁であり戦友。宗茂の強さ、周囲から西日本最強と呼ばれる所以を誰よりも知っているし、その強さには絶大なる信頼を寄せている。
その一撃を防いだとなれば、誾千代の驚愕も最もだ。
ただし、当の宗茂に驚いた風は無く、むしろ楽しげで、逆に沖田は苦しそうな笑顔で、
「う~ん、これは遊んでいる暇ないかなぁ……ねぇ近藤さん、負けちゃダメ?」
「駄目」
「やっぱりね~、こりゃ死に物狂いで頑張らないと♪ ついといで」
沖田は飛び下がって距離を取ると、速やかに走りだす。宗茂も後を追う。
「おい斎藤とやら、お前さんの上司は無益な殺生が嫌いらしいな。俺らも場所を変えようぜ、ここじゃ俺の斬馬剣にあんたらの部下が巻き込まれる」
「フッ、俺は構わんぞ、巻き込まれて死ぬようならそいつはその程度の隊士だったというだけだ」
「つれないねぇ」
言いながら慶次と斎藤が離れると、土方が舌を鳴らす。
「ちっ、めんどくせぇなぁ、まぁいい、近藤さんがそう言うなら俺は従うぜ。来いガキ」
土方に言われるがまま、幸村も場を離れようとして、けれど甲斐と誾千代を振り返る。
「何よ幸村、あたしの顔に何かついてる?」
「い、いや別に……」
愛想笑いを受かべて、幸村は彼女達の心配は杞憂だろう、と十文字槍を担ぎ直して土方を追った。
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