第7話 幸村×甲斐姫 のカップリングってどうですか?


「幸村ー!」


 甲斐の声だった。

 薙刀を片手に馬にまたがり、赤い軽装甲冑を来た甲斐が前から走ってくる。


「甲斐?」

「あんたまだこんなとこにいたの? もう前線じゃ宗茂や慶次が大将首目指して爆進中よ。あたしもこれから一騎駆けしに行くんだけど、あんたどうする?」

「一騎駆けって、女の子が危ないだろ」

「女だからって何よ、あたしから逃げた奴がブーブー言ってんじゃないわよ」

「いや別にブーブーは、それに逃げたのは甲斐が女の子だから」

「ああもうぐじゃぐじゃうるさいわねえ、じゃあもういいわよ、あたし一人で行ってくるから!」


 手綱を鳴らし、甲斐の軍場は反転、前線へと駆けて行く。


「ま、待てよ、一人じゃ危ないって!」


 慌てて後を追う幸村。


 後ろからは父の部下である真田軍兵が戸惑う声を上げたが、止まらず走り続ける。


 歩兵同士が争う前線。歩兵たちの隙間を縫うように馬を操り、甲斐と幸村は京都の奥へと突き進む。


 時折騎兵である甲斐と幸村を討ち取ろうと、長槍や矢が襲い掛かったが手綱さばきでかわし、かわしきれない攻撃は得物で弾いた。


 甲斐の得物は薙刀。幸村は十文字槍。馬上でも地上でも使える武器だ。


 織田信忠がいるであろう屋敷まで真っ直ぐ突き進む甲斐と幸村。


 途中の道々には全国から集まった牢人達の死体が転がり、混乱した佐幕派の兵太刀を織田軍の兵が掃討している。


 宗茂達が荒らしていった道を騎馬で駆け抜ける二人。


 やがて宗茂達という難を逃れた敵隊列と遭遇。既に宗茂、誾千代、慶次の三人を通してしまった敵兵達にとって、これ以上の突破は避けたいところ、まして相手は女と名もなき若武者。敵の雑兵達は好機とばかりに槍を構えた。


「ちっ、これ馬で行っても馬が殺されるだけね、よっと」


 馬から飛び下り、甲斐は自らの足で駆けた。


「おぉおおりゃああああ!」


 薙刀を一振り、それだけで敵の槍が切断され、穂先を失った自分の槍に雑兵達はまばたきをする。


「おりゃりゃりゃりゃー!」


 さらに一振り二振りと薙刀を振るう甲斐。それだけで、冗談のように敵の首が飛んで行く。


「ば、馬鹿な、相手はおなごぞ! 囲め囲めぇ!」


 男達は甲斐を討ち取らんと襲い掛かり、襲い掛かった分だけ首を撥ね飛ばされる。

 一〇人、二〇人、三〇人。血の海と死体の山を築きながら甲斐は突き進む。


 既に先へ行ってしまった宗茂達に追い付こうと目の前の敵全てを殺し尽くしていく。


「す、すごい……」


 小田原攻めの時に、甲斐の戦いぶりは見て知っているが、やはり彼女は強かった。それこそ英傑、と言ってしまってもいいほどに。幸村は馬を下りながらその様子を眺める。


「うわー…………こういう時ってどういう顔すればいいんだろう……」

「死ねぇええい!」


 背後からの声に振り向き、幸村は驚いた。


「これは……」


 遅い。佐幕派の兵が刀を振りあげているが、振り下ろす速度は恐ろしく遅い。若武者だからと手加減をしてくれているのだろうか、と考えてしまう。


 だから幸村も気づかって、槍の柄でその兵の腹を突いてみた。


「げぼぁああああ!」


 鎧の銅丸がへこみ、吹っ飛ぶ敵兵。幸村は首を傾げる。


「うわぁ、なんだあいつ!」

「あんな奴知らないぞ!」

「いったいどこの勇将だぁ!」

「きっとさぞ名のある武将に違いない!」

「よっしゃあ、全員で殺して手柄山分けだ!」


 甲斐に殺されなかった雑兵達が不思議な事を言って、幸村は困惑する。


「いや、俺実質今日が初陣なんだけど」

「そんなわけあるか馬鹿者!」

「実力隠してんじゃねえぞ!」


 そんな事を言われて、幸村は困ってしまう。


「で、でも俺今まで一度も人殺した事ないっていうか、そもそも練習試合以外で人と戦った事ないし……」

「戦場で謙遜とかするな!」

「ええい全員で討ち取るぞ!」

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 一度に一〇〇人以上の雑兵が槍を手に走って来る。本来ならば恐怖し逃げるところなのだろうが、幸村はその場に立ち尽くす。


 ――す、少しも怖くない……なんだあのちんまいの……


 小柄、という意味ではない。だが、なんというか、武田四天王や千代女を相手にしている時とまるで感じが違う。


 まるでチャンバラごっこをして遊んでいる子供達が押し寄せて来るような、その程度にしか感じない。


 本物の槍と鎧で武装しているのに、少しも驚異を感じないのだ。


「えーっと、えい」


 槍を突き出して見ると、あっさり雑兵の首を貫き、幸村の十文字槍は血を吸い生首が転がった。


「ぬぉおおお、怯むなぁ!」

「行くぞー!」


 幸村は矢継ぎ早に突き出される槍を全てかわし、逆に槍を振るって次々雑兵の首を落とし、胸を刺し貫いて小首を傾げる。


 弱い、あまりにも弱過ぎる。


 動きは遅いし槍は軽い。おまけに隙だらけで少しも防御ができていない。


 どうしてそこでそんなに大きく槍を振りあげるのか、どうしてそこで踏み込んで来るのか、どうして今ここでここに槍を突きいれてくるのか。


 雑兵達の行動一つ一つがあまりにずさんで非効率的で、幸村は理解ができないままに雑兵達を薙ぎ倒していく。


 ――もしかして……


 弱過ぎて、まるで無抵抗な藁人形を切り刻んでいるような感覚に、幸村は不遜な事を考えてしまう。


 ――俺って、強い?

  

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