第2話 信長は姉萌え
馬を飛ばして半刻(一時間)。信長は生駒(いこま)家の屋敷に来ていた。その一室で、信長はとある女性の膝に甘えている。
「もう、弟ちゃんたら。それでまた飛び出して来ちゃったの?」
膝枕をされる信長の頭をやさしくなでながら、その少女は信長を甘やかす。言葉は悪い子を叱っているようだが声音は優しい。
生駒家当主の妹、生駒吉乃(きつの)だ。
信長の二番目の妻で、いわゆる側室だ。ただし戦に巻き込まれないように、と信長は吉乃を城ではなく実家に暮らさせている。
帰蝶が信長より一つ年下なのに対して、吉乃は信長よりちょっとだけお姉さんだった。
「だぁって間がもてねぇんだもんよぉ」
言い訳をしながら、信長は駄々っ子のような表情で、帰蝶の顔を見上げた。
見上げて目につくのは、巨大な双子山だった。もとい、着物の上からもはげしく自己主張する、吉乃の爆乳だ。その下乳の谷間から、吉乃がやわらかい表情をのぞかせている。
帰蝶は直視できない信長だが、吉乃のことは凝視できる。吉乃の扇情的な体付きに頬をゆるめて、吉乃の甘い匂いを存分に堪能する。
帰蝶は高貴で品があり、光輝くような魅力があった。
対する吉乃は庶民的で、優しく温かい包容力に溢れていた。
やわらかい黒髪が、ちょっとタレ目の大きな瞳が、いつだって穏やかな表情が、信長の心をふんわりと包み込む。吉乃の前では、信長はいつだって子供に戻れた。いや、未成年の信長は平成日本の感覚では子供だ。けれど、戦国の世ではもう元服していて大人扱いだ。
「帰蝶ちゃんは弟ちゃんの正室なんだよ。なのに手を握ったこともないなんて……もっと大事にしてあげないとだめでしょ?」
吉乃は信長の額をぺちんと叩く。額を叩かれて、信長はうれしそうだ。信長が吉乃にデレデレなのには理由がある。
信長は、母から愛されたことがない。信長の母は、弟の信行のほうが可愛かった。そんなとき、寂しさのあまりグレて悪さばかりしていた信長を叱ったのが吉乃だった。子供の頃から包容力があって『お姉ちゃんパワー』溢れる吉乃に、信長は夢中になった。
吉乃は幼馴染のお姉さんだが、信長にとっては姉であり気心知れた幼馴染であり、元服したいまは、もっとも愛する女性となっていた。
「ねぇ弟ちゃん、帰蝶ちゃんのこと……嫌い?」
「そ、そりゃあ俺も帰蝶のことは好きだけどさっ。けど……」
帰蝶のことを思い出して、信長は赤面しながら顔をそむけた。
芸術的ともいえる帰蝶の美しさは、近寄ることすらためらわれる。
なんだか、自分なんかが触ってはいけないような、そんな気がするのだ。
「どう接したらいいかわからないんだよ!」
信長は勢いよく上体を起こした。そのとき、頭で吉乃の下乳をなであげてしまう。
「ぁん」
と吉乃が艶っぽい声をあげた。
着物越しでもやさしい低反発力をそこなわない帰蝶の極乳に信長は興奮で奥歯を噛んだ。
吉乃は、母性の象徴ともいえる乳房が特別に豊かな女性だった。豊かなだけでなく、形も、色も、感触も、すべてが最高だった。腰より下も発育のよい安産型だ。女中たちは口をそろえて『吉乃さまは将来、丈夫なお子を産む』と言うのだ。
信長が吉乃に恋したのは幼子の頃だから、信長にそういう下世話な意図はない。
ただ、ずっと愛し続けた女の子の容貌が日に日に美しく、扇情的になっていけば、男の信長としてはいろいろと我慢できないものがある。
「ね、姉ちゃん!」
信長は、吉乃を強引に抱き寄せると、そのまま唇に吸いついた。僅かに息を荒げ、信長は吉乃をだきしめる腕に力を入れる。
大好きな人の、肉感的な体を腕のなかに収める。すると、胎児にもどったような安堵感と、心地よい興奮が信長の胸に溢れた。
吉乃も信長を受け入れ、やさしく抱き寄せてくれる。
「吉姉(きつねえ)」
吉乃から口を離すと、信長は真摯な眼差しで彼女の大きな瞳を見つめ、
「すっげぇ逢引したいッ」
鼻息を荒くする信長に、吉乃は頬を染め、包容力たっぷりにほほ笑んだ。
「うん♪」
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