6.無自覚な二人。
「ぐす、えぐっ……!」
――上映終了。
俺たちは映画館を出て、ひとまず近くのファミレスへ移動していた。
その最中にも、絵麻は俺のことを見てこう言うのだ。
「お兄ちゃん、ハンカチ……いる?」――と。
◆
「いや……。まさか、映画でここまで泣くとは思わなかった」
「あはは! でも、すごく良い映画だったよね!」
俺が羞恥心から自嘲気味に笑うと、義妹がそうフォローを入れてくれる。そんなこちらを見て、嬉しそうに笑っているのは恵梨香さんだった。
親父は料理を取りに行っているので、今はこの場にいない。
「本当に。拓哉くんが、純粋な子で良かったです」
「いや、えっと……お恥ずかしながら」
そして、さっきからずっと。
こうやって義母に茶化されているのだが、なにも言い返せなかった。しかし俺が頬を掻いていると、彼女は首を静かに左右に振って答える。
「いえ、恥ずかしくなんてないですよ。やっぱり、親子ですね」
「え、それって……?」
「うふふ」
どういう意味なのか訊ねようとすると、また笑って誤魔化された。
俺が首を傾げていると、恵梨香さんはふっと息をつく。
絵麻を見て、義母はこう言った。
「絵麻のこと、よろしくね? お兄さん」――と。
不意打ちのような言葉。
思わず驚いてしまったが、どうやら冗談ではないらしい。小さく微笑んで、恵梨香さんは俺たちのことをしっかりと見つめていた。
絵麻もそれに気付いたのか、俺の顔を見て笑う。
だから、俺は恵梨香さんに向かって――。
「大丈夫ですよ。俺はもう、絵麻の兄貴ですから!」
そう、ハッキリと答えるのだった。
すると義母は、少しだけ驚いた顔をしてから言う。
「あらあら。これは、絵麻も苦労しますね」
「……へ?」
俺は意図が分からずに、首を傾げてしまった。
絵麻を見るが、彼女も同じようにしている。そんな俺たちを見て恵梨香さんは、また口元を隠して笑いながら言うのだった。
「あら、これは大変ね……?」――と。
なにが大変なのだろう。
俺と絵麻はまた首を傾げて、しかし考えるより先に親父が戻ってきた。両手いっぱいに料理を抱えて。ニッと笑う彼は、順番にそれをテーブルに並べていった。
そして満足げに頷く。
そんな新しい日常の中で。
俺と絵麻は、また軽く手を繋ぐのだった。
――――
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