6.無自覚な二人。










「ぐす、えぐっ……!」



 ――上映終了。

 俺たちは映画館を出て、ひとまず近くのファミレスへ移動していた。

 その最中にも、絵麻は俺のことを見てこう言うのだ。





「お兄ちゃん、ハンカチ……いる?」――と。










「いや……。まさか、映画でここまで泣くとは思わなかった」

「あはは! でも、すごく良い映画だったよね!」



 俺が羞恥心から自嘲気味に笑うと、義妹がそうフォローを入れてくれる。そんなこちらを見て、嬉しそうに笑っているのは恵梨香さんだった。

 親父は料理を取りに行っているので、今はこの場にいない。



「本当に。拓哉くんが、純粋な子で良かったです」

「いや、えっと……お恥ずかしながら」



 そして、さっきからずっと。

 こうやって義母に茶化されているのだが、なにも言い返せなかった。しかし俺が頬を掻いていると、彼女は首を静かに左右に振って答える。



「いえ、恥ずかしくなんてないですよ。やっぱり、親子ですね」

「え、それって……?」

「うふふ」



 どういう意味なのか訊ねようとすると、また笑って誤魔化された。

 俺が首を傾げていると、恵梨香さんはふっと息をつく。

 絵麻を見て、義母はこう言った。



「絵麻のこと、よろしくね? お兄さん」――と。



 不意打ちのような言葉。

 思わず驚いてしまったが、どうやら冗談ではないらしい。小さく微笑んで、恵梨香さんは俺たちのことをしっかりと見つめていた。

 絵麻もそれに気付いたのか、俺の顔を見て笑う。

 だから、俺は恵梨香さんに向かって――。



「大丈夫ですよ。俺はもう、絵麻の兄貴ですから!」



 そう、ハッキリと答えるのだった。

 すると義母は、少しだけ驚いた顔をしてから言う。



「あらあら。これは、絵麻も苦労しますね」

「……へ?」



 俺は意図が分からずに、首を傾げてしまった。

 絵麻を見るが、彼女も同じようにしている。そんな俺たちを見て恵梨香さんは、また口元を隠して笑いながら言うのだった。



「あら、これは大変ね……?」――と。



 なにが大変なのだろう。

 俺と絵麻はまた首を傾げて、しかし考えるより先に親父が戻ってきた。両手いっぱいに料理を抱えて。ニッと笑う彼は、順番にそれをテーブルに並べていった。

 そして満足げに頷く。




 そんな新しい日常の中で。

 俺と絵麻は、また軽く手を繋ぐのだった。



 





 

――――

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