5.映画館で、ムッとする絵麻。








「なぁ、親父? 映画は良いんだけどさ……」

「どうした、拓哉。なにか問題がありそうな顔だな」




 ――どうして、ラブロマンス映画?


 俺は親父のセンスにツッコミを入れかけたが、ぐっと堪える。

 映画館に入るなり父が選択したのは昨今、世間を賑わせているラブロマンス。なんでも少女漫画原作のものらしく、若い女性を中心に社会現象となっているらしかった。恵梨香さんや絵麻も例に漏れず、これの看板を見た時に笑顔に。


 ただ、なんというか。

 生まれた時から少年漫画で育ってきた俺には、敷居が高いというか……。



「……拓哉。お前に良いことを教えてやる」

「え、なんだよ急に……?」



 そう考えていると、親父が俺の肩をガシッと掴んで耳打ちしてきた。

 父が俺に託したアドバイス、というのは――。




「恋愛において一番なのは、相手を考えることだぞ」

「…………へ?」




 なぜか、恋愛についてだった。

 こちらが首を傾げるのも気にせずに、親父は続ける。



「お前は鈍いところがあるからな。女の子を泣かせるなよ?」

「え、いや。だから――」

「それじゃ、行くか!!」

「ま、待て! 親父!」



 ……いかん!

 この父親は、完全に勘違いしていた!!





「俺と絵麻は、そういう関係じゃねぇぞ!?」









 映画が始まって、室内が暗くなる。

 絵麻は隣に座る拓哉を見て、ほんの少しだけ――。



「ん、どうしたんだ。絵麻?」

「むぅ、なんでもないもん」

「…………え?」



 頬を膨らせていた。

 それというのも、先ほど拓哉と義父が話していた内容が聞こえていたのだ。たしかに自分と兄は、そんな関係ではない。それは分かっていた。

 だが、絵麻はなにか釈然としない。


 そして思うのだ。



「私――」



 ――どうしちゃったんだろう、と。



 彼女自身、まだ気づかない。

 それはきっとまだ、未熟なものに違いなかった。



 






――――

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