5.瀬奈、大暴走。








「もう、たっくん! 話が違うじゃん!」

「悪かったって。そんなに怒るなよ……」

「怒るよ!? アタシ、昨日は夜中まで待ってたんだから!!」




 ――翌朝。

 公園の前で俺らを待ち受けていた瀬奈は、目が合うなり声を荒らげた。

 俺も義妹も、その瞬間まで完璧に連絡先の件を忘却。慌てて謝罪したのだが、道中ずっと幼馴染はプンスカと頬を膨らしていた。

 昔から本当に、自分の感情に素直というか。

 子供っぽいというか、常に騒がしい女子なのであった。



「というか、そこまで連絡先欲しいのかよ」

「欲しいに決まってるじゃん!」

「なにゆえ……?」

「え? だって――」



 俺の問いかけに、瀬奈は真顔になる。

 そして、絵麻を見てにんまりとした笑みを浮かべたかと思えば、



「たっくんの妹なら、アタシの妹みたいなものでしょ!?」

「あ、あの!? そんな、離してください!?」

「えー、女の子同士だからいいじゃん!」

「それでも、駄目です!!」



 そう言って、義妹に抱きつき頬ずりを開始した。

 あまりの出来事に絵麻はとっさに、そう叫んで瀬奈を押しのける。しかし幼馴染の手は怪しく蠢きながら、義妹の身体をまさぐっていた。

 目のやり場に困るので、俺は咳払いを一つ。

 絵麻を救出しながら言うのだった。



「……残念だが瀬奈。お前は、姉にはなれない」

「え、なんで?」



 すると、瀬奈は手をピタリと止めて首を傾げる。

 俺はそんな彼女に、こう告げた。



「だって、瀬奈の誕生日は八月だろ?」――と。



 絵麻は五月生まれ。

 すなわち、瀬奈が年上になる機会はないのだった。



「え、お兄ちゃん? そんな理由で良いの?」

「いやいや。この理屈を最初に持ち出したのは、絵麻だろ」



 すかさず義妹がツッコミを入れてくる。

 だが、今はそれを受け流した。俺は幼馴染の様子をうかがう。


 すると、瀬奈はしばしの沈黙の後に――。







「ホントだああああああああ! うわあああああああああああん!!」







 ――大号泣。

 マジのマジ、大マジの涙だった。



「そ、そんなにですか!?」

「だって、アタシも妹欲しかったからああああああああああああ!?」



 絵麻のツッコミに、そう答える瀬奈。

 どうやら俺の幼馴染は、妹への羨望というものが強いようだった。

 だから、人目もはばからずに泣きじゃくる。そんな彼女の姿を見て――。



「あ、あの。……野川さん?」

「うぐ、えぐっ……なぁに? かいちょー」

「えっと――」



 どこか申し訳なさそうに、絵麻はこう申し出るのだった。




「そこまで言うなら、妹ということで……いいですよ?」――と。




 直後、瀬奈はピタリと泣き止んで。

 しばしの沈黙の後――。




「うわああああああああん!! ありがどおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「待って、抱きつくのは待ってください!?」




 また別の意味の涙を流しながら。

 がしっと、俺の義妹を抱きしめるのだった。



「朝から、ずいぶんと賑やかだな……」




 そんな二人の姿を見てから。

 俺はゆっくりと、学校へ向かって歩き始めるのだった。



 





 

――――

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