第1章

1.夢じゃなかった。








「どういうことだよ、親父!?」

「いやぁ、実は父さんと砂城さん、お付き合いしててな?」




 俺の問いかけに対して、親父はニマニマしながら頭を掻いた。

 そして隣にいる砂城――新しい母親こと恵梨香さんも、どこか恥ずかしそうに頬を抑えている。どうやらお付き合いしてて、今夜という聖夜に『再婚する』ということだった。で、そうなってくるとようやく砂城絵麻の、先ほどの発言につながるわけで。



「でも、いきなり『お兄ちゃん』って……」

「ん? 嫌だったか? でも拓哉この前、妹が欲しい、って言ってただろ」

「いや、うん。言った。たしかに、言ったけど……」



 冗談に決まってるだろうがあああああああああああ!?

 いきなり同級生が義妹になるよ、って言われて「はい、そうですか」なんて答えられるわけがないだろ!? 物事には順序ってものがあるんだよ!!


 俺は混乱を抑え込むために、必死に頭を掻きむしる。

 それでも、一向に気持ちは落ち着いてくれない。

 そして、そんなこちらを無視して親父は――。



「さて、それじゃ俺たちは婚姻届けを出してくるぜ!」

「はぁ!? 今から!?」

「善は急げだ。この日を楽しみにしていたんだからなぁ!!」

「ちょ、待って――」

「あ、絵麻ちゃんの部屋は拓哉の隣な!」

「――馬鹿親父ぃぃぃぃぃぃ!!」




 そう言って、親父と恵梨香さんは出て行ってしまった。

 残されたのは俺と、義妹となる絵麻の二人。



「…………」



 どうしたらいい、この状況。

 考えろ。考えろ、考えろ考えろ考えろ……!



「あの……?」

「え……」



 その時だった。

 絵麻が小さく、遠慮がちにこう言ったのは。




「大丈夫ですか? 顔色が悪いよ、お兄ちゃん?」――と。




 その言葉を聞いた瞬間。

 俺の意識は、完全に闇の中に消え失せたのだった。







「はっ……!? え、朝!?」



 そして、次に目を覚ましたら。

 俺は自室のベッドで、横になっていた。

 寝ていたようだが、どうにも記憶が曖昧だ。



「というか、アレは現実、なのか……?」



 そこに至って、俺は考え込む。

 あまりに現実味のない出来事で、とても信じられなかった。

 だから、しばらく考えてこんな結論に達する。



「あぁ、夢だったんだ」――と。



 そうだ。

 そうに決まっている。

 あの砂城絵麻が、俺の義妹になるなんてあり得ない。生徒玄関で少し話したことで、妙な夢を見てしまった。それだけ。それだけのことだ。


 そう考えたら、すべてに合点がいった。

 俺は深くため息をついて、おもむろに立ち上がり部屋を出る。




「あ……」

「え……」




 その時だった。

 同じタイミングで、隣の部屋から砂城絵麻が出てきたのは。

 彼女は、可愛らしいクマのイラストが描かれたパジャマを着ている。そして、恥ずかしそうに俺を見て微笑んだ。

 とても、愛らしい。

 学校で見ていた少女が、知らない表情を浮かべていた。



 そして、こう挨拶する。





「おはよう、お兄ちゃんっ!」






 眩暈がした。

 どうやら、この新生活に慣れるには相当な時間がかかるらしい……。




 




――――

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