第5話 告白2
昼休み、俺はクラスメイトと仲良さげに話している石徹白さんにさっそく話しかけようと席から立ち上がった。
あっ、そういえば付き合ったことは皆に内緒にして欲しいって言われたな。
今朝言われたことを思い出した俺は、何事もなかったかのように再び席に座り、鞄の中から弁当を取り出す。
今は我慢の時だ。我慢した時間が長ければ長い程喜びが大きくなるって言うしな。
自分にそう言い聞かせ、弁当箱を開ける。
竹筒?
何故か弁当箱の中は竹筒がぎっしり詰まっていた。
よく見ると、断面が小豆色だ。これはまさか……。
『…おい』
「なんですかご主人様?」
『なんで弁当の中身が全部水ようかんなんだ』
竹筒入りの水ようかんなんて、テレビでしか見たことない。
一体何処で手に入れたんだ。
「素晴らしい光景ではありませんか。要らないなら私が食べますよ」
『その前に弁当の中身何処やったんだよ』
「家の冷蔵庫の中です。ほら今朝元気がなかったでしょう。だから気を利かせて全部好物に変えておきました」
『俺のじゃなくてお前のだろ…』
飽きれて思わずため息をつき、何か他に食べる物はないかと鞄の中を漁った時、鞄の中に滑り込むように薄い何かがスッと落ちてきた。
何だこれ? 手紙?
一体誰がと思って慌てて顔を上げたが、逃げるように教室から出ていく後ろ姿がチラリと見えただけで誰かまではわからなかった。
『アリー見えたか?』
「えぇ、このきめ細やかな断面。間違いなく高級品です」
『…おい』
「なんでしょうか? これだけの量、一人ではとても食べきれないでしょう。及ばずながら僕も協力させていただきますよ」
聞いてやがらねぇ。アリーのことは一旦放っておいて、とにかく手紙を読んでみるか。封を開けて中を見るとかなり達筆な字で、『屋上のテラスに来て』と一言だけ書かれていた。
綺麗な字だな。もしかして石徹白(いとしろ)さんか?
きっとそうだ。そうに違いない。
そう確信した俺は、水ようかん弁当を見てダラダラと涎を垂らしているアリーを放置して学校の屋上にあるテラスへと向かった。
数分後テラスに着くと、天気が良いためか人で溢れかえっていて、皆ワイワイしながら楽しそうに昼ごはんを食べていた。
石徹白(いとしろ)さん、どこだろう。
辺りを見渡して、先に来ているであろう石徹白さんの姿を探す。しかし、隈なく見ても石徹白さんらしき人物の姿は何処にも見当たらなかった。
おかしいな。てっきりあの字からして俺を呼び出したのは石徹白さんだと思ったんだけど。
「ん?」
不意に制服の袖を引っ張られ、一体誰だろうと引っ張られた方を見てみるとそこには、俺ととても相性が良いらしい内古閑(うちこが)さんの姿があった。
内古閑さんの掛けている眼鏡に太陽の光が反射して表情が分かりにくいが、少し緊張しているように見える。
「えっと…俺に何か用?」
「昨日、高笠(たかがさ)君に抱きしめられたの」
内古閑さんは、小さくもどこか芯のある声で淡々と言った。
「へ?」
「頭の中で」
「あ、ああ。…それで?」
「どう思う?」
こっちが聞きたいわ!
思わず心の中でツッコミを入れる。
でも内古閑(うちこが)さんがそう言うってことは、映像はしっかり送れてたってことなんだな。
心の中で、すまんアリー。と謝罪する。
「わかったのならいいです。まったく世話の焼けるご主人様ですね」
突然姿を現したアリーは俺の頬をペシペシと叩く。
『お前ぁ…… って今はそんな場合じゃないな。アリー! こういう場合はどう返事すれば良いと思う?』
「こういったことは自分で考えてこそ成長に繋がるのです。助言したいのは山々ですがここは心を鬼にして、見守らせてもらいます」
そう言ってアリーは何処から取り出したのか、応援団長とひらがなで書かれたハチマキを頭に締めて、中身が空になった竹筒を両手に持ち叩き始めた。
くっ、肝心な時に使えない奴だな。
とにかくあんまり待たせるのも不味いし、この場は適当に誤魔化すか。
「あー、えーと…そういうことを考えるってことは、相手の事が気になってるってことなんじゃないかな」
「わかった。じゃあ今日から私、高笠(たかがさ)君の彼女になる」
内古閑さんは俺の手をぎゅっと握り締めてそう宣言した。
「え?」
俺のあ然とした呟きに彼女は答えることなく、口元を手で押さえながらこの場から去っていった。
「良かったですね。ご主人様本日二人目の彼女ですよ」
『お、おう。ありがとう?』
状況がイマイチ飲み込み切れない俺は、そのまま昼休みの終了五分前を告げるチャイムが鳴るまでその場で立ち尽くした。
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