第4話 告白1

「はぁ…… また今日も学校か」

「朝からそんな元気がないようでは、女の子にモテませんよ」

「元気ないのは九割くらいお前のせいだよ」

「残りの一割は何なんですか?」

「そこに突っ込むな。とにかく今日は平穏に暮らしたいから、学校では静かにしててくれよ」


 家を出てすぐにアリーに釘をさす。

 ここ数日の間で俺の中ではコイツは縁結びロボットではなく、ただ色んなことが出来るポンコツロボットではないかという疑念が高まっていて、昨日の件で完全にそれが確信に変わった。


 一応勝手なことはしないが、余計なことは息を吸うようにするし、変にプライドが高い。あととにかく行動原理が意味不明だ。

 昨日家に帰ってからも水ようかん食べるまではずっと機嫌は悪いくせに、僕がいないとご主人様は寂しくて死んでしまうでしょうとか言って、トイレ以外は四六時中離れようとしなかった。


 その割には水ようかんを与えると、三十分くらい時間を掛けてちまちまと食べ、その間俺のことはずっとほったらかしだ。


 水ようかんを食べたらすっかりご機嫌状態で、風呂場に突入してきたと思ったら「僕の凄さを証明させて下さい」とせがみ出し、仕方なく許可すれば俺が入ってる風呂のお湯を消滅させた。

 そこまでは凄いと単純に俺も驚いたが、寒くなって元に戻してくれと言うと、露骨に目線を逸らし、意味深な表情をして「一度失った物はもう二度と戻らないんです」と言い出す始末だ。

 両親に内容をボカして相談したら、少し手間のかかる弟が出来たと思って接してあげなさい。と言われたが残念ながら俺はまだそこまで人間が出来ていない。


「どうしたんですかご主人様? 足が止まってますよ」

「ん? ああ悪い」


 考え込んでいつの間にか足が止まっていたようだ。

 とにかく色々問題はある奴だが、根は悪くない。まあその内慣れるだろ。


「おはよう。高笠(たかがさ)君」

「ん? あ、おはよう委員長」


 昨日と同じように、委員長の石徹白(いとしろ)さんに挨拶される。

 だが、昨日と違って声に元気もなければ張りもない。

 あと目の下の隈がめちゃくちゃ酷い。

 悩み事でもあるんだろうか? 委員長の仕事とかよくわからないけど大変そうだしな。


「あー、えーと昨日休んだって聞いたけど…」

「ちょっとだけあの公園に寄っても良いかな?」


 石徹白(いとしろ)さんは何故か俺の言葉をスルーして、アリーと出会ったあの公園を指さした。


「えっ、あ、うん。いい…けど」


 目の下の隈が酷いしやっぱり体調が悪いのだろうか?

 だけど単に体調が悪いというか、雰囲気がいつも明るい感じの石徹白さんとはちょっと違う気がする。


 俺は言われたままに石徹白さんの後に続いて、公園の中に入っていく。

 『邪魔するんじゃないぞ』そんな風にアリーに忠告しようとしたが、アイツは公園の近くで飛んでいるモンシロチョウと戯れていて、まったく俺の方を見ていなかった。


 もういいや、とりあえず放置しとこ。

 俺はアリーのことを一旦脳内から消し去り、石徹白さんの方を見る。

 

 あの石徹白さんが髪を掻きむしってる…?

 何か悩みでもあってそれの相談とか? でも何か相談されるほど仲が良いってわけでもないし…。


 そんな風に考えていると石徹白(いとしろ)さんは、俺の背後にある滑り台に押し付けるような勢いで急に迫ってきた。


「高笠君って彼女いる?」

「えっ?」

「いるの? いないの?」

「い、いやいないけど…」

「そうじゃあ今日から私達付き合いましょう」

「え? …え?」

「詳しい話は休みに私の神社でしましょう。あと付き合ったことは皆に内緒にして頂戴」


 言うだけ言って石徹白(いとしろ)さんは足早に公園から出て行った。


「うおー! 逆転キター!!!」


 石徹白(いとしろ)さんの姿が見えなくなってから俺は全身を震わせ、拳を突き上げながら叫ぶ。石徹白さんの態度に少し気になるところはあったが、この嬉しさの前では些細なことだ。


「煩いですねご主人様、看板にも書いてあるでしょう。公園内では静かにしましょうって」

「告白されたんだから少しくらい喜んでもいいだろ。ってかお前も縁結びロボットなら少しは喜べよ」

「純粋な愛から来る告白なら僕も祝福しますよ。でもあの方の様子はそんな感じではありませんでしたから」


 アリーは頭の上に蝶を乗せた状態で顎に手を当てて思案顔になる。


「お前の気のせいだろ。蝶と戯れるようなお子様には分かんないって」

「むっ、あれはですね。ご主人様の気を解すためにわざとやったんです。他にも高品質の蜜が採れる場所の情報共有など複数の目的が…」

「あーはいはい。そりゃよかったね。とにかく今日は楽しい一日になりそうだ!」

「はぁ…。今は何を言っても無駄なようですね…」


 とにかく嬉しくて仕方なかった俺は、アリーがぶつくさ言う小言をスルーしながらハイテンション状態でそのまま学校へと向かった。

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