第52話 ドラゴンスレイヤー

 直隆からリンドヴルムまでの距離が残り一〇メートルになった瞬間。


 再びリンドヴルムの口から雷撃が放たれた。


 だが今度は真横に跳んでかわす。


 一瞬、リンドヴルムが硬直した。


 おそらく、リンドヴルムは生涯において流星群の魔法を使ったら必ず勝って来たのだろう。


 流星群を落としたら自分の勝ち。


 そんな風に学習していたのかもしれない。


 隕石を全て防がれ、ダメ押しの雷撃もかわされたリンドヴルムが一瞬、状況把握の為に硬直したのは自然の摂理だったのかもしれない。


 地上の野性動物も、生涯初の状況にはしばし、体が止まることは珍しくない。


 だが今は闘争中。


 ましてただの動物ではなく伝説のドラゴン、リンドヴルム。


 その硬直時間は戦闘に支障が無い程度のほんの一瞬だった。


 だが……


「はぁあああああああああああああああああああ!」


 直隆が跳躍。


 この男相手に、その一瞬は命取りだった。


 リンドヴルムは再び雷撃を放とうと口を開く。


 大刀と雷撃。


 どちらが先に当たるかは五分と五分。


 完全に、勝利の女神に運命を任せたタイミングだ。


 エイルが息を吞む。


 時間に止まって、とエイルは願ってしまう。

 

 直隆の大刀は……リンドヴルムの額の斬傷を深く抉った。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼」


 既にウロコを割断された傷を、


 寸分たがわず同じ角度、


 超える速度と力で叩き込んだ。


 直隆の二撃目はリンドヴルムの頭蓋骨を割り、


 衝撃は龍の脳味噌に伝わって、


 脳震盪を起こさせるに至った。


 リンドヴルムの巨躯が背後へ傾く。


 満身創痍の直隆が再び地上へ落下してくる。


 今度は自分の足でしっかりと着地を決めて、直隆は駆け寄って来るエイル達へ振り返った。


「敵将! 討ち取ったりぃいいいいいいいいいいいいいいい!」


 愛刀を天に突き上げ笑う直隆に、エイルは抱きついた。


「バカぁ! バカバカ直隆のバカぁ! こんなむちゃして死んだらどうすんのよバカぁ! ご主人様が撤退って言ったら撤退しなさいよバカぁ!」


「えーっと、それはさ……」


 直隆の胸でわんわん泣き喚くエイルに、直隆は気まずそうに頭をかいてから一言。


「お前の前でカッコつけたかったから……一応、今は主君だし?」


「…………もう……」


 エイルは涙を拭って、直隆を見上げる。


「バカっ、でも、カッコイイよ」


 その時、エイルが見せてくれた笑顔は綺麗過ぎて、リンドヴルムを討ち取った恩賞としても破格の価値があった。

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