第50話 ドラゴン狩り

 地面に両足と左手をついて制止。

 刀を構え直す。


「カラミティ! ゼノビア! こいつにお前らの銃と弓は効かねぇ! 俺が斬鉄する隙を作ってくれ!」


 直隆の懇願に、ゼノビアが艶然と笑う。


「ふっ、このワタクシに命令なんて、でもいいわ。家臣の頼みを聞くのも主人の役目ですものね。カラミティ!」

「OK!」


 そこからの戦いは熾烈を極めた。


 リンドヴルムは生意気な小人を殺そうと暴れる。


 鋼の尾で木々をなぎ倒し、剛腕を振り回し、そのアゴで食らいついてくる。


 リンドヴルムの暴虐に蹂躙されて、森の空白地帯は広がる一方だ。


 直隆は大刀一本で、そのリンドヴルムに肉薄。


 地面だけでは無く、木の太い枝も足場にして跳び回り、三次元の戦いを繰り広げる。


 まるで神話。

 まるで伝説。

 そしておとぎ話のような光景だ。


 ただの人間が、だが伝説の剣ではないただの人造刀でドラゴンと互角に渡り合う。


 カラミティとゼノビアは、リンドヴルムの顔面を射続けた。


 そうしてリンドヴルムの気が彼女らに向いたところを、必殺の一撃でリンドヴルムに斬りかかる。


 作戦は成功している。


 前衛の直隆はリンドヴルムの尾をかわす。

手足の爪を刀で受け流す。


 噛みかかってこようものならば、その鼻づらを刃で弾いてやる。


 そしてカラミティとゼノビアのおかげで隙が生まれると、手足や首、顔面のウロコを裂いた。

 

 致命傷と言えるほど深くはないが、少量とは言い難い血が溢れだしている。


 とはいえ直隆も無傷とはいかない。


 尾をかわしきれず。

 手足の爪を受け流し切れず。

 噛みかかって来る頭部に突き飛ばされ。


 その度に、直隆はぶっ飛ばされて大木に背中から叩きつけられる。


 しかし、百進百退(ひゃくしんひゃくたい)の攻防は直隆に軍配を上げつつある。


 直隆は体力を消耗しているが、戦闘に支障が出るような怪我は無い。


 対するリンドヴルムは、顔や首に何本も斬り傷を刻まれて、若干の怯みが見え始めている。


 時間をかければ倒せる。


 直隆、カラミティ、ゼノビアの三人、いや、エイルを含めた四人はそう確信した。


 その直後。

 リンドヴルムの背びれがスパーク。

 牛を人吞みにしそうな口を開けて、噛みかかってこない。

 木の太い枝の上にいた直隆は、その奇妙な行動に一瞬、思考を巡らせてしまう。


「!? よけて!」


 気付いたエイルが悲鳴を上げる。

 直隆が、リンドヴルムの喉の奥に光を見た時はもう遅い。

 雷速。


 音速の五〇〇倍にも相当する速度で雷撃の波が直隆の全身を吞みこんだ。


 真横に落ちるイナズマは森の木々の上半分を一瞬で炭化させる。


 空から落ちて来る直隆を見て、エイルは慌てて駆けた。


「直隆!」


 ヴァルキリーが先頭に参加する事は禁じられている。


 だがベルセルク保護の為の最低限の介入は認められている。


 いや、そんなルールに基づいて行動なんてしなかった。


 エイルは、ただ衝動的に走っていた。


 落下する直隆の体を抱きとめて、エイルは必死に呼びかける。


「直隆! 直隆! 直隆!」


 全身に生々しい火傷を負った直隆を見下ろして、リンドヴルムの喉の溜飲が下がったようにして喉を鳴らし、攻撃の手を休めた。


 カラミティとゼノビアは射撃体勢を整えたまま警戒。


 直隆とエイルの元へは行かせまいと、リンドヴルムの前に移動した。


 エイルが何度も直隆の名前を呼ぶと、直隆は血を吐いて意識を取り戻した。


「直隆! よかった、生きてて。みんなすぐに撤退を」

「まだだ!」


 雷撃を浴びて、なお話さなかった刀を杖にして、直隆はエイルの腕から立ち上がる。

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