第49話 雷光と流星のドラゴン・リンドヴルム

「そ、それは……」

「仮にしてくれても、他のリンゴがここより楽な保証があるのか? 探して時間を潰した挙句他も同じだったら、いや、他のを探している間にリンゴを全部取られたらどうするんだよ? それに何よりも」


 直隆は、背中から自慢の大刀を引き抜いた。


「さっきはギルドマスターに情けないところ見られたからな。俺を『ハズレだった』なんて思われたら胸糞悪いんだよ」

「そんな、別にあたしはそんなこと」

「なるほど、そういう事ですの」


 ゼノビアが一歩前に出て、直隆に横目で視線を送る。


「男ってほんとバカですわね。不器用もそこまでいったら才能ですわ」

「イイ女は頭で分かっていても口には出さないもんだぞ」

「おいおいなんかわかんねぇけどやるってことでいいんだよな?」


 カラミティも二丁拳銃を構えて前に出る。


「え? え? え? ちょっと、なんであんたらそんなやる気出してんのよ! あれはリンドヴルムって言ってドイツの雷と流星を操る最強クラスのドラゴンで」

「ならオロチを殺したスサノオみたいに俺も龍殺しの称号が手に入るな! エイル! お前はそこでお前のベルセルクが大当たりだったってところを見とけ!」


 直隆が疾走。

 援護するように、カラミティが発砲。

 リンドヴルムがすばやく瞼をおろして、眼球をガード。


 瞼のウロコで弾丸を弾くと、リンドヴルムは竜巻のような衝撃波を起こしながらとぐろを解放した。


 リンドヴルムが咆哮を上げた。

 轟く爆音に森の木々が揺れて葉が散った。

 鎌首をもたげるリンドヴルムの顔は地上七メートル。


 直隆はその高さまで跳躍して、顔面に大刀・太郎太刀を振り下ろした。


「おるぁっ!」


 リンドヴルムは頭突きでもするようにして、顔面で刀を弾いて来た。


 直隆はウロコを傷つけ、跳ね返される。


 地上へ着しながら、直隆は手に残る感触に口元を歪ませた。


 まるで鋼のような強度。


 だが逆に言えば斬輝ができれば斬れないわけではない。


 リンドヴルムが再び鳴き声を上げて、その圧力に直隆は心地よい緊張感に包まれた。


 忠勝のような、強敵を前にした時独特の高揚感。


 強者との戦い。


 こいつだ。

 こいつを倒せなければ忠勝は倒せない。


 そしてこいつぐらいの大物を倒さないと、エイルの心は晴れないだろう。

 自然とそう思って、直隆は愛刀を握り直す。


「さぁ来いよ蛇野郎! この真柄直隆様がブッ殺してやるぜ!」


 リンドヴルムが吼えながら前足を地面に下ろす。

 ロングソードのような爪を大地に突き立て、突進してくる。

 屋敷のように巨大なものが呼吸して動いている。

 それが迫って来る。

 大質量物質と巨大生物への本能的畏怖を振りはらう。

「おわっと!」


 直隆は右に跳びかわして、暴風に体がさらわれそうになった。


 周囲は太い木々が密集している。


 だがそれをなにするものぞ、とリンドヴルムは全ての木々を小枝のように薙ぎ倒し、踏み散らしながら突き進んだ。


 直隆はもういないのに、リンドヴルムは突進の余力だけで一〇〇本以上の木々を粉砕してからようやく止まった。


「洒落にならねぇな……」


 さすがの直隆も生唾を吞みこんだ。


 蛇のように長く柔軟な体がゆっくりと折り曲げられて、リンドヴルムの赤い瞳が直隆を、自分に刃を向ける小癪な生物を睨み据える。


「あたしらを無視してんじゃねぇぞ!」


 カラミティとゼノビアが弾丸と矢を撃つ。

 パチパチと当たる邪魔物に顔をしかめて、リンドヴルムは全身を方向転換。再び突進姿勢に入った。


「来るぞ!」


 直隆が叫ぶと同時に再び始まる地獄。

 リンドヴルムがその鈍重そうな巨体からは考えられない速度と機敏さで突貫、して跳んだ。


 飛翔ではない、跳躍だ。


 敵を殺すために跳びかかる。


 こんな、恐竜サイズの生物が人間相手にだ。


 着地点は直隆。


 全体重と瞬発力を乗せた鋭利な爪が、直隆目がけて振り落とされる。


「喰らうかよってんだ!」


 横に転がって難を逃れても、地面にクレーターを穿つ衝撃波で直隆の体は毬のように飛んで行った。

 地面に両足と左手をついて制止。

 刀を構え直す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る