第48話 リベンジ


「でもよぉ、銀のリンゴってまだ残ってんのかよ」


 カラミティの一言に、ゼノビアが返す。


「流石に全部なくなった、ということはないんではなくて?」


 エイル達は、またカーバンクルに先頭を歩かせて、その後をぞろぞろと続いて行く。


「カーバンクルは迷わず歩いているし、全部なくなったってことはないんじゃない?」

「そうなると、だ。確か運営の連中言ってたよな?」


 直隆に言われて、皆は運営の説明を思い出す。


「安全な宝箱が全部なくなったら危険なモンスターの守る宝箱だけになるって。さっき忠勝達と争ったのは安全な宝箱だ。あれからまだ一時間半ぐらいしか経ってないし。まだモンスターが守っている宝箱はあるだろ?」


「はんっ、怪物退治かよ。上等じゃねぇか。このカラミティ様の伝説がまた増えるってもんだぜ」


「ですが、ワタクシ達って全員歴史英雄で、神話英雄は一人もいませんわね? 誰かモンスター退治は経験していますの?」


 カラミティが言葉に詰まった。


「うっ、あたしは二〇世紀の英霊だし、流石にもうオカルトは品切れだぜ」


 直隆が溜息をつく。


「俺も一軍や一騎当千の武者となら戦ったけど、鬼や天狗と戦ったことはないな。山の主みたいにでけぇ熊やイノシシを殺したことならあるけど」

「だだ、だいじょうぶよきっと。モンスターって言ってもだいたい英雄に殺されているじゃない。歴史英雄が神話英雄に試合で勝つこともあるんだし、あんたらにだって倒せるわよきっと」


 その時、エイルの手が強く引かれた。


「え?」


 見ればカーバンクルが鼻をひくつかせて、走ろうとしている。

 エイルは引かれるがままに走って、その場所に辿り着いた。

 太い木々が生い茂る森林の中。

 ひときわ太い巨木を、巨大な生き物がとぐろを巻いている。


「うそ…………」


 エイルの口から漏れた感想は、至極まっとうなものだった。


「マジかよ」

「あらあら」

「へぇ、これがあの」


 カラミティ、ゼノビア、直隆の感嘆詞もまた、理解できた。


 宝をモンスターが守っている。


 エイルは色々なモンスターを想像した。


 ヤギとドラゴンの頭を持つライオン。キマイラ。


 人面ライオン。マンティコア。


 ワシの上半身とライオンの下半身を持つグリフォン。


 ワシの上半身と馬の下半身を持つヒポグリフ。


 一角馬のユニコーン。


 もしかするとワイバーンなんて大物が来るかもしれない。

だが、これは予想していなかった。


 尾を含めて、全長二〇メートルはあろうかという長く太い肉体。


 強靭な前足と後ろ足。


 鋼のようなウロコに覆われた皮膚。


 ショートソード並のサイズの牙がズラリと並んだ巨大な口。


 その正体はドイツに伝わる伝説のドラゴン。


 雷と流星を操るスタードラゴン。リンドヴルム。


 角は無く、アジアの龍と西洋のドラゴンの中間ぐらいの長さの体に、西洋のドラゴンのような翼を持った珍しいタイプのドラゴンだ。


 いくらなんでも、こんな文字通り化物クラスのドラゴンを連れて来るだなんて、エイルは思ってもみなかった。


「おい、あいつの首」


 カラミティが指差した方を見ると、リンドヴルムの太い首にはめられた鋼の首輪。その下に宝箱がついている。


「じゃあこいつを倒せば、ってそんなのダメよ! こんなのに勝てるわけないじゃない! 幸い向こうからやる気はないみたいだし」


 確かに、リンドヴルムは片目を薄く開けこちらを見ているが、面倒臭そうに寝たまま起き上がろうとしない。


「もっと弱いモンスターが守っている宝箱探しましょ。ね」


 必死に主張するエイル。

 でも直隆は首を横に振った。


「いや、こいつを仕留めよう」

「なんでよ!?」


「考えても見ろ。俺らの頼みはカーバンクルだ。でもここにリンゴがある以上。こいつがこのリンゴ以外のリンゴのところに案内してくれるか?」


「そ、それは……」

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