第46話 戦国最強の槍VS戦国最強の大刀

「蹂躙されるがいいわ!」


 再びゼノビアがドレイクに襲い掛かる。

 征服女王ゼノビアのムチで、二頭の軍場はいななきを上げて大地を踏みしめる。

 戦場を馬や戦車で駆け抜けたゼノビア。

 海賊船で海を支配したドレイク。

 ライダーとして、この戦いはゼノビアに分があり過ぎる。

 そこへ、


「下がられよドレイク殿」


 我関せずだった、二人目の武将がドレイクに歩み寄る。


「義輝?」


 全身から品格と闘気を両立させるこの貴人は左腰に一本の刀を召喚すると、居合の構えを取る。


「彼女が王を名乗るならば、貴殿では荷が重かろう。ここは同じ王として余が引導を渡す」


「何をごちゃごちゃと、二人まとめて引き殺して差し上げますわ!」


 ゼノビアの戦車が猛スピードで接近。

 草を抉り土埃を立てる二頭の獣の蹄が、義輝に襲い掛かる。


「明鏡止水」


 義輝の姿が、軍場と戦車をすり抜けた。


「え?」


 ゼノビアの視界が右に傾く。

 反射的に戦車から飛び下りてから認識する。

 右の軍馬と車輪がまるごと真一文字に切断されている。

 おまけに車輪の横についてる回転刃も、滑らかな切り口で落とされていた。


「!? あ、貴方はいったい……」


 ゼノビアが人生において、数えるほどしかしたことの無い驚愕の表情。

 義輝は振り向き、王者の品格で応える。


「余は室町幕府第一三代征夷大将軍足利義輝。人からは剣豪将軍などと呼ばれておるな」


 足利義輝。


 誰もが認める、おそらくは人類史上最強の王である。


 中世においては軍の最高責任者たる王。


 日本においては武士の頭領たる征夷大将軍。


 だが当然ながら、王や皇帝というのは守られ指揮する身分であり、本人が強い訳ではない。


 武等派の王は数いれど、やはり戦場で戦う戦士には及ばない。


 だがこの義輝こそは例外中の例外。


 戦国最強の双璧を成す超剣豪、上泉信綱と塚原卜伝の二人の弟子になり免許皆伝を貰うという異常性を持ち、さらに天下五剣を始めとする多くの名刀を所有する。


 その最期は、義輝一人に殺到する兵全てが一方的に殺され。


 義輝が強過ぎて誰も討ち取る事ができず。


 数えきれない兵を犠牲にして義輝が消耗し疲れたところを四方から畳で取り囲んで拘束、その上で全方位から槍で刺し、ようやく殺せたと言う程だ。


 本来非戦闘員であるはずの王を、一軍が死力を尽くし集団戦でようやく殺害に成功。


 このようなおとぎ話、古今東西見渡しても義輝だけであろう。


「言っておくが西の女王よ」


 きらめく名刀を上段に構え、義輝は重い口を開く。


「この世界に来て以来、余は敗北を知らぬ。神話英雄が相手でもだ」


 全身に充溢するその剣気は、直隆は忠勝にも見劣りしない。

 ゼノビアは数千年ぶりに固唾を吞んだ。


「これほどの緊張……ローマ帝国に追い詰められた時以来だわ」


 ゼノビアの口は、本人の意思を無視して奥歯を噛みしめた。


   ◆


 今だ。とカラミティは銃を構えた。


 位置関係、タイミング、全てにおいて、カラミティの優勢。


 まさにベストタイミングだった。


 カラミティの指が引き金を引く千分の一秒前。


 それは起きた。


「ぐぁああ!」


 頭上から降り注いだ矢の雨が、カラミティの腕を、肩を、ふとももに突き刺さった。


 たまらず、彼女は自慢の二丁拳銃を取り落としてしまった。


「さっ空を射たうちの一部だよ。弓は銃と違って使い方が幅広いんだ」

「っっ」


 膝を屈したまま、カラミティはロビンを睨んだ。


   ◆


「この勝負、ワタクシ達の負けですわ。手を引いてくださる?」

「「「なっ!?」」」


 直隆、エイル、カラミティが同時に声を上げた。

 ゼノビアは、反論しようとする三人より先に語った。


「現状、手負いの直隆とカラミティの逆転の可能性は低い。そしてワタクシも、どうやら義輝とドレイク相手に勝率は低いと言わざるを得ないでしょう。ここで万分の一に賭けてしくじれば我がギルドは壊滅。一回戦敗退が決まります。それよりも」


 ゼノビアの冷静な目が一瞬、直隆に視線を注いだ。


「ここは退いて、また新しいリンゴを探したほうが得策ですわ。リベンジの機会なら二回戦三回戦にもあるでしょうし。いかがでしょうか?」


 ロビン、ドレイク、義輝は忠勝のほうを向いた。


 血まみれの直隆を見下ろして、忠勝は槍を退く。


「ふむ、直隆。賢い軍師に救われたな……こちらに異存は無い! 退くぞ皆の者!」


 その時、直隆の喉から、彼の名が突いて出た。


「待てよ忠勝!」


 衝動的に、本能的に叫んだ。

 何も言わず背を向ける五つの背中。


「待てよ!」


 血を流しながら叫んだ。


 けれど背中は振り返らず、ギルドマスターであるグレイズも背を向けて、六つの背中は森の中に消えて行った。


 地に倒れ伏す直隆は叫んだ。


 悔しさの咆哮をあげた。


 カラミティは何も言わず、奥歯が砕けそうな程に無力感を噛みしめた。


 ゼノビアは、かつてローマに敗北した自分を思いだしながら、死に物狂いで自分に言い聞かせた。


 『自分の選択は間違っていなかった』

 『これでよかった』

 『今の目的はグレイズのギルドに勝つことではない』

 『まず一回戦を突破することだ』


「ッッ」


 そうやって、自分を正当化しなければ耐えられなかった。

 そして、ギルドマスターであるエイルは何も言えずに悟った。

 自分のデビュー戦は、敗北したのだと……

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