第44話 オールスターチームとの対峙

 リストもウサギともつかない姿のカーバンクル。


 そのお腹に植物のツルを巻いて、犬のリードのようにして端をエイルがにぎる。


 するとカーバンクルは鼻をふんふんさせて匂いを辿り、一つの方向へ地面をぴょこぴょこ歩く。


 直隆達もそれに続いて歩く。


「どうやらゼノビアの言う通り、これが正解だったみたいだな」

「フフ、直隆、貴方のご主人様の実力が少しは解ったかしら?」

「だから勝手に家臣にするなよ」

「そうよ! 直隆のご主人様はあたしなんだからね!」

「ワタクシはその貴方のご主人様ですもの、問題ないわ」


 最後にカラミティが、


「お前ら借金もないのになんでこいつのメイドになったんだ?」

「「だからなってない!」」


 直隆は溜息をつきながら頭をかいた。


「お前らは少し人の話を……まずい! 宝箱取られるぞ!」


 急に直隆が走り出す。

 エイル達も慌てて直隆の後を追った。


「どうしたのよ直隆?」

「お前ら見えないのかよ、森の奥に五人の人影がいる、きっと宝箱見つけたんだ」

「あんた目ぇいいわね」


 やがてエイル達の視力でも敵を捉えられるようになる。

 敵の数は六人、ヴァルキリー一人とベルセルク五人だ。


「待ちなさい! そのリンゴはあたし達の――!?」


 敵を目の前に捉えて、エイルが言葉を失った。

 そしてそれは、直隆も同じだ。


「グ、グレイズ先輩?」

「あらエイルじゃない」


 目の前にいたのは長い金髪をポニーテールにまとめ、活発そうな表情が可愛いヴァルキリーの少女だった。

 先輩とは言うが、エイルとそれほど年が違うようには見えない。

 直隆が言葉をうしなったのは、そのベルセルク――


「直隆か……」

「本多……忠勝……」


 直隆はエイル達に過去を語った。


 嘘では無い。


 主君に仕えて戦うという意味を見失った。


 四〇年待った忠勝に魅力が無いと言われた。


 それからずっとどのギルドにも入らずヴァルバトもせずただ日々を無為に生きて来た。


 だが。

 でも。

 けれど。


 忠勝の姿を見た途端、手の平が熱くなった。


 エイルのギルドホームでは無かった肉体の反応。


 互いに武装した状態で、ヴァルバトの最中という状況が関係しているのだろう。


 直隆と忠勝が視線を交える中、グレイズはエイルの連れているカーバンクルに目を付ける。


「あ、カーバンクル。エイル上手いこと考えたわね。あたしは五右衛門の直感で見つけたわ」


 グレイズが手を指すのは、ダイヤ付き銀リンゴを持ったガタイのいい男だった。名前の通り日本人で、大工のとび職のような格好をしている。


「へへ、まっ、俺にかかればざっとこんなもんよ」


 五右衛門は口笛を吹きながら得意満面だ。


「あとはこいつを報告すりゃあ」

「忠勝! 俺と勝負しろ!」


 直隆は大刀を召喚。

 その先端を忠勝に突きつけた。

 忠勝の目が険しさを増し、五右衛門に視線を投げる。


「五右衛門、しばし待て。グレイズ殿、この場は俺に預けれくれないか?」

「え? んー、いいわよ、好きにして」


 グレイズは下唇に指を当てて悩んだがすぐにそう答えを出した。


「感謝する。直隆、俺らと勝負をするか?」

「俺ら?」


 直隆は眉根を寄せた。


「これはあくまでヴァルバト。我らギルドに勝つことができたなら、リンゴはやろう」


 五右衛門が口を挟む。


「おいおい、いいのかよ忠勝。せっかく俺がみつけてやったのによぉ」

「構わんさ」


 忠勝は名槍・蜻蛉切りを召喚、水平に構えた。


「今のこいつには負ける気がしない。五体三だ、五右衛門、お前はリンゴを守れ、ドレイクは好きにしろ。もとより戦場では両軍の数が同じことのほうが稀だ」

「ああ、俺もそっちが多くても卑怯とは思わねぇよ、エイル!」

「えっ?」

「俺がこいつらぶっ飛ばせば一回戦突破だ。お前はカーバンクル抱いて下がってろ」


 カラミティとゼノビアも続く。


「今度は最後までやらせてもらうぜ」

「さっきは前戯だけで終わってしまったものね」


 カラミティが両腰の拳銃を抜く。

 ゼノビアは周囲の広さが十分であることを確認して、二頭立ての戦車を召喚する。

 対して向こうは、忠勝を含めた二人の戦国武将と、二人の西洋人が前に進み出た。


「サー・フランシス・ドレイク。お前は出無くていいぞ」

「ロビン・フッド、同じイギリスの為に戦った者同士だろ? 仲良くしようぜ?」

「私は貧しき民を守る為に戦い、お前は富める王の為に戦った。私とお前の道が同じとは限らないぞ?」

「お前義賊だろ? 俺だって元海賊だ、五右衛門もだけどな、それとも自分は違うってか? 正義の味方に貴賎をつけるもんじゃねぇぞ」

「はいはいそこまで」


 グレイズのチョップが、ロビン・フッドとフランシス・ドレイクの頭に軽く当たる。


「うちのギルドでは喧嘩禁止よ。ロビンは国民、ドレイクは王族、じゃあ二人が組めば全部守れるでしょ? そして今はあたしの為に戦うのだ、さぁGOGO♪」

「あの、先輩?」


 勝手に話が進んで戸惑うエイル。

 グレイズが笑う。


「何してんのよエイル。後輩なら、先輩のあたしの胸を借りるつもりでどーんと来なさい、どーんと」


 言いながらグレイズが胸を張ると、エイル以上の爆乳が大きく揺れた。

 五右衛門がその揺れを目を血走らせながら見ている。

 その様子をただ一人、今だ無言を貫く二人目の武将が小声で、


「品の無い男だ」


 と冷笑した。


「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと始めようぜ! ヒャッハー!」


 カラミティが猟の引き金を引く。

 ゼノビアが戦車の馬にムチを入れる。


「行くぞ直隆!」

「来い!」


 直隆の大刀・太郎太刀と忠勝の長槍・蜻蛉切りの刀身と穂先が激突。

 カラミティの弾丸を、ロビンがステップを踏んでかわす。

 ゼノビアの戦車特攻を、サーベルを引き抜いたドレイクが横に転がって避けた。

   

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