第41話 違和感

「ダメ、見つからないわ」


 またしばらくして、エイルは大きな溜息をついた。

 直隆も空箱を放り捨てて、頭をがしがしかいた。


「何万ていうギルドが参加して半分が落ちるなら、この森には万以上の宝箱があるはずだよな?」


 カラミティが頷く。


「でも森が広すぎるし見つかるのは空箱ばっかりじゃねぇか」

「……………」

「ちょっとゼノビア、あんたもちゃんと働きなさいよね!」

「? どうしたんだよゼノビア、難しい顔して」


 エイルと直隆に言われて、うつむいていたゼノビアは口元から細い指先を離した。


「いえ、何か変だとは思いませんこと?」

「「「変?」」」

「ええ、考えても見てください。フェスタ、ファーストステージにあたるこの一回戦の種目はあくまでトレジャーですわよね?」


 エイルが当然とばかりに頷く。


「そうよ、何をいまさら」

「最初にレース要素があったせいで、ワタクシ達は皆、早い者勝ち競争のような心理が働いていますが、これはあくまでトレジャー。なら探索技術を生かしたギルドが勝つはずでは?」

「あっ」


 エイルが口を開けて驚く。


「確かに、これだとただ足が速いベルセルクをたくさん集めたギルドが勝っちゃうわ。さっきのルパンみたいに泥棒や忍者を持っているギルドは有利だけど」

「それだけで勝敗がつくはずがありませんわ」

「なんでだよゼノビア?」

「考えてみてくださいカティ。これは全ギルド参加推奨のフェスタ。でも、なのにベルセルクの戦闘力に関係無く泥棒や忍者を有しているか否かで勝敗が決まっては不当に脱落するギルドが出てしまいます」


 直隆が質問する。


「ていうことは、泥棒や忍者、足の速いベルセルクは有利になるだけで必要上けんじゃないってことか?」

「ええ、きっと戦闘系ベルセルク、アタッカーやシューター、ライダー中心のギルドでも宝箱をみつけられる方法があるはずですわ」

「強奪?」


 エイルの回答に、ゼノビアは首を横に振った。


「普通ならそうですわね。戦闘系ギルドはゴールラインで待ち伏せてリンゴを手に入れたギルドから奪い取る。でも今回はリンゴを手に入れ、報告した時点で勝ち上がりが決まってしまいますわ。それもまた、戦闘系ギルドでも探す方法があるという証拠。ルールだけ見ると、あまりに探索系ギルドが有利過ぎるのです」

「えーでもよぉ」


 カラミティが眉根を寄せた。


「今まで何十箱も宝箱見つけたけど、法則性とか共通点とかあったかぁ?」

「俺ら戦闘系でも頭を使えば探せる、探索技能が必要ないってなると、何か目印があるとかか?」

「そんなのあったかしら?」


 戦闘狂の直隆。トリガーハッピーのカラミティ。残念戦乙女のエイルは頭を悩ませる。


 そんな中にあって、後世『もっとも傑出した女王』と評され、当時世界最強を誇るローマ帝国相手に互角の頭脳戦を繰り広げた女傑ゼノビアは考える。


 意識を戦場にいたあの頃にまで落としこみ、森の様子を五感で探りながら今までの記憶を隅々まで解析。


 結果、とある違和感にひっかかる。


「ねぇエイル。どうしてターゲットがダイヤ付き銀リンゴなのかしら?」

「え? なんでって、そりゃ宝箱に入れるお宝だし」


「じゃあ金のリンゴにすればいいじゃない。あれはギリシャ神話のヘスペリデスの園にある不老の妙薬たる黄金のリンゴとは違う、本当に貴金属の銀で作られたリンゴにダイヤモンドをはめこんだものよ。でも、お宝っていうなら金やプラチナで作ればいいじゃない。なのにどうして銀なんていう中途半端なもので作ったのかしら?」

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