第39話 フェスタに望むモノ


「ねぇ直隆。貴女はこのフェスタに何を望みますの?」

「なんだよ急に?」


 森の中を散策中、不意にゼノビアの質問が飛び出した。


「ワタクシは当然、このゼノビアの名前を知らしめる為ですわ。ただのヴァルバトに興味はありませんが、この全ギルド参加型の大規模ヴァルバトで優勝すれば気分が良いではありませんか」


 ゼノビアは楽しそうに綺麗な笑みで笑う。

 直隆も、いい顔だな、と思ってしまう。

 本当に、相変わらず顔だけは絶世の美女である。


「あたしもだな。クソつえー連中がガンガン出るんだろ? なら合法的にガンガン撃ち放題じゃねぇかよ♪」


 最高の笑顔で歯を見せるカラミティ。

 直隆は冷静に、


「いや、お前のただのトリガーハッピーだからな」


 とツッコんだ。


「俺は、そうだなぁ……エイル、お前は結局自分の出世か? 兵長から軍曹や曹長になるための」

「あたし? まぁそうね」


 話を振られて、エイルが頷く。


「前にも行ったけどヴァルキリーには色々な職種があるわ。英霊が暮らすヴァルハラの町で商店に従事する人や役所、ヴァルバト協会に務める人、っで、あたしはギルドマスターね。アカデミーを卒業して自動的に兵長になったけど、同期の子はもうとっくに伍長だし、スイレーなんて軍曹よ。未だに兵長なんてあたしぐらいのものよ」


 ちょっとうつむき唇をとがらせるエイル。


「まっ、確かにこんだけの大会でいい成績残せば昇進は確実だろうな」

「まぁね、それで直隆、あんたはやっぱり忠勝との決着つけるの?」

「俺か? まぁ…………かな」


 正直に言うと、直隆は迷っている。

 ヴァルハラに来てすぐの直隆は、忠勝と決着をつけることばかり考えていた。

 でも忠勝は、直隆に魅力が無いと言って勝負を受けなかった。

 加えて、ヴァルハラに来る戦国武将達から地上の話を聞いてしまった……


「ねぇ直隆、そういえばあんたってなんでずっとフリ―だったのよ?」

「……俺は、もう誰かに仕えるのはやめた。ただそれだけだよ」


 声のトーンを落としながら、直隆は別にいいだろう、と自分語りを始めた。


「知っての通り俺は日本の戦国時代の武将でよ。朝倉っていう、本当にとんでもない名門の家に仕えていたんだ。名門も名門、名門中の名門。本当に家柄っていうか、家の格じゃ日本屈指の朝倉家だ。でも俺の時代の当主の朝倉義景って奴がロクデナシでよ。家柄にあぐらかいた馬鹿殿様で、実力も野心もないくせにプライドばかり高い」


 昔を思い出して、直隆は顔をしかめた。


「日本中の大名が争う戦国乱世でも家柄が国を守ってくれた。一応は家臣も民も困って無かった。馬鹿殿でも悪政するわけじゃなかったからな。でも本当に、救いようの無い程にプライドだけは高い奴だった。田舎大名の織田信長が天下を統一して戦国乱世を終わらせようとして、破竹の勢いで周辺諸国を支配して、天下統一って言葉に現実味が出てきたんだ」


「聞いている限り、その信長という人はローマのカエサルのような人みたいですわね」


 かつて地中海全てを支配した征服皇帝カエサルの作り上げたローマ帝国。その国から東部を独立させパルミラ王国としたのがゼノビアだ。


「そうだな、大陸で言うところのカエサルやアレクサンドロス、チンギスハンとかに当たるかもな。そんで俺は、素直に信長をすげぇと思ったね。田舎大名だけど義景じゃ一生思いつかないような革新的なアイディアを軍事政治両面で次々行って版図をどんどん広げた。朝倉家は将軍、えーっと、今は無き王族の一人をかくまってたんだ」


 日本は王族ではなく軍事のトップ、元帥が国を支配するという世界的に見ても珍しい政治体制を取っている為、直隆はゼノビア達にも解るよう言葉を選ぶ。


 天皇と征夷大将軍の関係は、大陸の人間には理解しがたい。


「お待ちになって直隆。それなら貴女のいた朝倉家はその王族を擁立して大臣や元老院になれるのではなくて?」


「だろ? なのに義景は何もしなかった、王位継承権の持ち主の王子を飼殺したんだ」


「? 何故ですの?」

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