第36話 ミミック

 森に入ってから約一時間。


 結果としては、全て空ぶりだ。


 うっそうと木々が生い茂り、見た事もない小動物がリスのように木の上を走る。


 そんな異世界の森の中。


 エイル達は入念に探索して回って、宝箱はいくつも見つけたが、どれもこれも中身は空、空、空。


 からっぽの空箱だらけだった。


 おまけに……


「あそこにもあったわ」


 エイルは木がなく、開けた場所に出ると指をさす。

 大岩の下においてある宝箱を発見して、エイルは駆けより手をつける。

 でもフタを開けると、中にはびっしりと鋭い歯が生えていて、赤い舌がこんにちはする。


「へ?」


 宝箱がエイルに飛びかかる。


「ぎゃああああああああああ、ミミックだったー!」


 両手でミミックの大きなあごをつかみ、噛まれぬよう抑える。

 悲鳴を上げながら足をバタつかせるエイルに、戦乙女ヴァルキリーとしての品格など微塵もない。


「ったく、お前は何やってるんだよ」


 直隆が大刀・太郎太刀を一振り。

 ミミックは真っ二つになりながら吹っ飛んだ。

 エイルは両肩で大きく息をする。


「あ、危なかった。直隆! 次からは宝箱全部壊して開けるわよ! 先手必勝!」


 柳眉を逆立て、両拳を天に突き上げるエイル。


 彼女は続けて虚空にシュッシュッ、とシャドーボクシングを初めた。


 直隆は、本当にこいつは神の御使いなのかと失礼な感想を抱く。


 日本にヴァルキリーの伝承は無いが、天女はある。


 天の神々にお仕えする天女のような存在と言えば、普通は神々しい高等な存在を思い浮かべるが、どうもエイルからはそういうオーラを感じない。


 もっとも、英霊達への奉仕者であり世話役係りであるヴァルキリーは全体的に色々と俗っぽい。


 その時、カラミティが不意に木の上を見上げた。


「おい、あれ見てみろよ」


 一同が視線を向けると、木の上に宝箱が引っかかっている。


 リスのように可愛らしい小動物が好奇心に駆られてか、鼻をひくつかせて匂いをかいでいる。


 人間、下は探すが、自分より目線の高い場所は気付きにくいものだ。


「よくやったわカティ! じゃあちょっとあたし取ってくるから」


 エイルが飛翔しようとすると、それより先に一本の矢が宝箱を弾いて宝箱が落下。


「あっ!?」


 エイルが声を上げると、宝箱は別の枝に引っかかって、まだ木の上だ。

 枝の近くにいた小動物が、びっくりして逃げて行く。

 直隆達はすぐに矢の飛んできた方向を見て、戦闘態勢に入った。


「あらエイルじゃない?」

「スイレー!?」


 そこにいたのは、二週間前に戦った女子グループのリーダー格、スイレーだった。

 エイルとはアカデミー時代の同期で、父親は武田信玄である。


「姫様!」


 その後ろから四人の戦国武将が駆け寄り、スイレーを守るように周囲を囲んだ。


「へぇ、エイル、真柄直隆以外もベルセルク増やせたんだ」

「そ、そういうあんたはまた親の七光なわけね」


 エイルに言われても気にせず、むしろスイレーはちょっと自慢げに胸を張る。


「ふふん、私はパパから愛されているもの」


 ゼノビアが、


「エイル、このヴァルキリーは誰ですの?」

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