第32話 第一回戦 トレジャー!

『それでは会場の皆様、あらためてルールを説明します』


 ヴァルハラ城とヴァルハラ城下町からなるヴァルハラ宮殿。


 その外に広がるヴァルハラ平原には、何万ものベルセルクが集結していた。


 かくギルドごとにギルドマスターであるヴァルキリーも控えている。


 ベルセルク達の周囲には、今日の為だけに設営された客席が何万もの人々を収容していた。


 空には超巨大投影画面がルール説明の文や実況者や解説者の顔を映している。


『第一回戦はトレジャー。これから皆さんにはヴァルハラの森へ行ってもらい、このダイヤがはめ込まれた銀のリンゴを手に入れてもらいます。リンゴを手に入れ本部に連絡を入れたギルドチームから勝ち上がり、このステージで半分のギルドが消えると思って下さいね♪』


 明るい顔で、司会がかなりハードルの高い事を言う。


『リンゴは基本宝箱に一つずつ入っていますが、宝箱の半分は凶悪なモンスターが守っているので気を付けてください。今日の為に、各神話から強力なモンスター達を輸入し放ってありますから。安全な宝箱が欲しかったら、ばばーん』


 投影画面にヴァルハラ平原の地図が映る。


『一秒でも早く森に辿り着いてくださいね。一回戦はレース要素もあり、このヴァルハラ平原からいかにして早く森へ辿り着くかが勝利のカギです。あんまり遅いと、モンスターが守る危険な宝箱しか残りませんよ♪ それとかなーり常識的な事ですが、ギルドマスターは戦闘に参加してはいけません。ヴァルキリーはあくまで指示を出すだけです。では皆さん、そろそろ時間です。準備はいいですね?』


 エイル達四人も、参加者に混ざって森の方角を見据えた。


『それではヨーイ。ドーン!』


 巨大な砲音、いや、花火が打ち上がって誰もが走りだした。

 万人単位の、まるで民族大移動のような巨大マラソン……ではない。


『サモン‼』


 一部のベルセルク達が一斉に叫んだ。

 直隆、カラミティ、ゼノビアも走りながらサモン。

 自分のすぐ横に召喚されたかつての愛馬にまたがり、腹を軽く蹴った。


「いくぜ!」


 直隆達は自身の馬に乗り疾走。ヴァルキリーのエイルはそのすぐ上を飛翔する。


 ゼノビアは乗る馬は見事な白馬。カラミティが乗る馬は茶色で、直隆の馬は力強い黒馬だった。


 他にも、周囲の騎士や武将が次々馬や馬車、戦車を召喚して操る。


 目的地へ移動するレース系は、やはりどうしてもライダー適性のあるベルセルクが優位になる。


 一部の、本人を戦士たらしめる装備として馬が無いベルセルクは必死に走っている。


 それでも人智を超えた身体能力を持つ超人達、とてつもない高速疾走で森へ向かっている。


 それどころから、


「直隆、あれ!」


 カラミティが指差した方を見ると、黒づくめの男達が馬をゆうゆうと追い抜かして先頭を走って行く。


「ああ日本の忍者だよ。あいつら馬より速いからなぁ」


 カラミティは目を丸くする。


「へ? 日本人て馬より速いのか?」

「鍛えればな、忍者じゃなくても」


 その忍者たちに続き、江戸の町人スタイルの男が数人、先頭グループに躍り出る。


「日本の飛脚、郵便屋だ。たぶんヴァルキリーがレース用に地上から連れて来たんだろうな」

「うぇっ!? 日本の郵便てあんな速いのか!? てかなんで馬使わないんだよ」


 カラミティがますます驚き変な声を上げてしまう。


「馬使ったら郵便代高くつくじゃないか。日本の郵便は人力だよ人力。人間が馬より速く長く走れるようになればそっちの方が安くつく」


 カラミティは叫ぶ。


「日本人頭おかしいよー!」

「おう、この世界に来てから良く言われる」

「でもやっぱり」


 エイルが溜息をつきながら頭上を見上げる。


「レースじゃあいつらには敵わないわね……」


 その時、地上を走るベルセルク達に次々巨大な影が落ち、追い抜かして行く。

 まるで渡り鳥、いや、プテラノドンの大移動が行われるような影の集団。

 その正体は、見上げたエイルの視線の先にある。

 空を覆い尽くす巨大鳥。


 グラマンがいた、スピットファイアがいた、Мigがいた、そしてかの零戦がいた。


 第二次世界大戦。


 世界中で生まれた数多の撃墜王達の相棒が、戦闘機博覧会のようにして空を自由に駆けている。

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